倒れてましたか。
偏差値高めの公立に通う高校2年生、板垣 薫はダークブラウンの髪をなびかせて、今、全力疾走中だ。
薫は勉強も普通にできる、普通の高校生だったが、日本人離れした高い鼻は顔全体を整えて見せる。
そのため兄と同様にモテるが、彼氏は出来た事が無い。
あっあり得ない…。
ウサギが…ウサギがぁぁぁぁ!あれなに?!はっまさか宇宙人?!……イヤないないないない。
ともかく今は逃げよう!うん!
あぁぁぁぁ!、と叫びながら、薫は街を疾走していた。薫は今、銃を抱えたウサギに追いかけられている。
初めはいつも通り学校からの帰り道を歩いていただけだった、それなのに友達と離れてちょうど曲がり角を曲がったときだったか、ウサギがひょっこりと顔を出したのだ。普通なら、その黒々とした瞳に騙されて迷わず抱きしめたかもしれない。だけど目と共に黒々と輝く、形からして明らかに銃としか思えないその物体を自分の眉間にまっすぐ向けられて、考えるよりも先に足が動いた。
おかしい!
うわぁぁぁ!ウサギさん足早い!重いもの背負っているから走るの遅いと思ったのに!
さっき目印にしてた電柱を通り過ぎた。確かコレで3回目だ。陸上部で良かったとか、初めて思ったね!でも流石に疲れて来たし、限界は近い。ど、ど、どうしよう!そんな事を考えながら走ったからなのか、目前に迫る行き止まりに気がつかなかった。
あ、と思ってUターンしたが、遅い。それを見たうさぎが逃がさんとばかりに発砲した。
あ、死んだかも。
死の覚悟なんてそんなもの、出来るはずがない。青春まっただ中でしかも、まだ恋もしてないのに!
一瞬の後、何かグルグルしたものに引き込まれた。
薫は今まで普通でまっとうで、平凡だけど楽しい人生を送ってきた。だから、こんな事には免疫がないわけで。
お母さん、お父さん、そしてお兄ちゃん、ダメな子でごめんなさい。今日、私は星になります。
と、1人家族に別れを告げ、意識を手放した。
目が覚めると、知らない部屋。ここどこ?あー、天国?うん。天国か。生前悪い事なんかしてないもんね。あぁ、私死んだのか。打たれたからね。あー日本も怖いところだ。でもしんだと言うのに、自分のこの落ち着きっぷりはなんだか気持ち悪い。もうちょっと悲しんだりとか。やっぱり死の実感がないんだろう。当たり前だけど。
でも、ここが天国ならよく見ておこう!1人で納得してうんうん頷いていると、後ろでドアの開く音がした。
入ってきたのは男の人。天使みたいのを想像していた私は、ちょっと、がっがりした。
紺色の髪と目、整った顔。見るものを圧倒するような目線、高い鼻。程よく筋肉がついた体。
一言でいうならば、イケメンだった。
すごい、こんなカッコいい人っているんだ。あ、天国なんだから人じゃないのかもしれない。もしかしたら天使かも。
それにしても、私のことすごい見てるけど、誰なんだろう、天国にそんなものがあるのか不安だけど受付の人かな。いやそれにしてはカッコいい。うん、スゴく。スゴいカッコいい。お兄ちゃんは世間一般で言うカッコいい顔だったけど、それに見慣れた私でもカッコいいと思う。やっぱりこういう人は雑誌とかで特集された事あるんだろうな。
「あの、もしかして受付の「大丈夫か。そこで倒れていた」
私の事をまっすぐ見たままの低いテノール声で遮られる。少し不満だけど、まぁ仕方ない。ここは私には想像もつかない場所かも知れない訳で、とりあえず生きている事を感謝しなきゃいけないし。それにしても倒れてたってずいぶん乱暴に天国に来たものだ。心配してくれてるみたいだし、簡単に説明でもしようかな、それでいいのかな。
「えっと、私、なんか変なウサギに追いかけられて…それで、なんかグルグル?あの、ここって天国であってますよね」
「はぁ?天国じゃない、ここは俺の家だ。俺の書斎の前で倒れてた」
ここにきてまさかの新事実発覚です。一体どういう事なんでしょうか、ここは天国じゃないそうです!!じゃあ、どこなのよっていうのが正直な感想だ。天国じゃないってことはとりあえず死んではいないみたいだけど、部屋の雰囲気を見ていると、とても日本だとは思えない、現に私が寝ていたベットはなんと天蓋付きだ。でもしゃべってるのは、日本語ってことはやっぱりここは日本で?でもこの人は日本人には見えなくて?ああ、なんか混乱して来た!
「あー。うーん。えっと、今何年でしょうか」
「……?なんだ?今は2010年だ」
そもそもうさぎに打たれたとか普通じゃないし、死んでないのかもしれない。当たり障りのなさそうな、タイムスリップという線を考えてみたけど今それは否定された。じゃあなんなんだろう、やっぱりここは日本じゃないのかも。
「あのー、私日本から来たんですけど、ここはどこでしょうか」
「ニホン?どこだそれ。ここはビンパールだ」
どうしよう.....一番自信があったところなのに。どうやら私は現代の、日本じゃない所に来たみたいだ。だけど、一つ引っかかるのはビンパールっていう国名だ。世界の国名はちゃんと覚えてる。この間テストがあったんだもん。でも、ビンパールなんて国はない。はずだ。いよいよ分からなくなってきた。正直考えたくないけど、もしかしたら、ここは異世界なのかな。
「あ、あの、ま、魔法が使えたりしちゃうんですか?」
「....?俺は無理だが、魔術師はいるぞ?」
ああああ!!今私の居場所が確定してしまった。私はどうやらタイムスリップでも、瞬間移動でも、死んだ訳でもなく、異世界にきてしまったようだ。イヤだ、イヤだこんなベタな展開。早く私を日常に返して!!今にも叫びだしそうなほど混乱して、ぐるぐる考え始めた私の頭にぐいっと声が割り込む。
「で、お前は誰だ?」
混乱してるんだから、少しほっておいて欲しい。でも確かに自己紹介は大切で、私はしかたなく自分の名前を口にする。
「....板垣 薫です」
「そうか、薫…俺はイシュだ」
無愛想な私の返事にもうすく微笑んでくれたイシュさんの株が少しあがる。マイペースだけど、いい人だ。この人なら助けてくれるかもしれない。
「イシュさん、助けていただいてありがとうございました」
私の知り合い一号だ、愛想を振りまいておいて悪い事はないはず、ぺこりと頭を下げて、私もお返しに微笑むと、イシュさんは今まで一度もそらさなかった目線をそらして、小さく言った。
「いや…気にするな。イシュでいい」
始めまして。酢昆布です。
甘めなラブコメにしたいですが、処女作ですので、どうなることやら。
不定期な更新ですが、よろしくお願いします。
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