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6【主人公】オレとあの子と魔物の襲撃【始動】

ウルフが攻撃を仕掛けてくる。

俺が剣で受ける。

仕切りなおす。

ウルフが攻撃を仕掛けてくる。

剣で何とか押し返す。

仕切りなおす。


言葉にすれば、これだけ。

俺はそれを、ただひたすらに続けていた。

何回受けたかも、何分経ったかも、今の俺にはわからない。

他の事を考える暇も無いほど、俺はそうやってウルフと戦っていた。






ウルフと対峙し初撃を奇跡的に弾くことが出来た俺は、今の俺ではウルフには勝てないということを悟った。

まず、速さが段違いだ。

ウルフと俺の体の間に剣を構え、体当たりしてきたウルフになんとか剣をぶつける、俺にできるのはそれぐらいしかないほど速さに違いがある。

つまるところ、攻撃なんてしようが無いのだ。

攻撃をしようと動きを変えるならば、次の瞬間に直撃を受けていてもおかしくは無い。

そしてまた、重さが違う。

ウルフの体重がどの程度かはわからないが、その攻撃はウルフの全体重をかけたものだ。

威力=重さ×速さ とかだっただろうか。まあ細かい式とかはどうでもいい。

ただ言えることは、少しでも気を抜けば例え剣で受けても吹き飛ばされるであろうということだろう。

さて、以上の二点から受け止められる解は何か。

答えは簡単。『俺は受けに回ることしかできない』

それも、『受けに回れば間違いなく受けることができる』ではなく、『受けに回れば受けることができるかもしれない』というレベルだが。

とすればだ。受けに回る以上ウルフにダメージを与えることもできず、逆に俺のHPは削られていくだけになるだろう。

常識的に考えれば明らかにジリ貧の状態。

本来ならば、俺はわずかな可能性に賭けてでもウルフを倒すべく行動するべきなのかもしれない。

何も行動できなくなるほど体力を削られる前に、体力が残っているうちに何か仕掛けるべきなのかもしれない。

だけど、俺はあえてそれをしない。

守って、守って、守って、守る。そしてただひたすらに時間を稼ぐつもりでいる。

何故か。答えは簡単だ。時間さえ稼げば、おっさんが戻ってくるからだ。

一応問題点として、おっさんですら勝てない可能性があるかもしれないというものもあるが、あのおっさんがウルフなんぞに負ける姿を思い浮かべることなんてできん。

名付けるならば、『俺が無理なら、おっさんに倒してもらえばいいじゃない』作戦!


そんなことを一瞬のうちに考えて、俺は再び襲ってくるウルフの一撃に意識を集中した。







長い長い戦いが続く。

何分も経ったのか、それともまだ一分も時間を稼げていないのか。

次々と増えていく傷、削られていく俺のHP。

飛び掛ってくるウルフの爪を弾く。その際に、また傷が増える。

しかしそんなことに気を取られている暇は無い。

ウルフは着地と同時に再びこちらに飛び掛ってくる。

今度は口を大きくあけ、牙からよだれをたらしながら、俺に噛み付こうと飛び掛ってくる。

俺はその頭に向けて正面から剣を叩きつける。

とても重い感覚。そして、とても硬い感覚。

剣はウルフの皮膚を切り裂くことも無く、まるで棒をぶつけたかのごとく押し戻される。

しかしウルフにも多少のダメージは入ったのか、仕切り直しするかのごとく俺から距離を取る。


ウルフが距離を取ったおかげで少し心に余裕ができた俺は、あることに気が付いた。

直前に一連の流れで、俺はウルフに『剣を叩きつけている』。

そう、剣を合わせているだけじゃない、叩きつけることができているのだ。

戦闘開始当初は、剣を合わせるのがぎりぎりだったにもかかわらず……だ。


―――――もしかして、倒せるんじゃないか?


そんな思いが頭をよぎる。

ウルフは、そんな俺の思考を中断させるかのように再び俺に向かって飛び掛ってきた。

そして俺には、そのウルフの攻撃が見えていた。

―――見える!

そう思いながら、剣をぶつけて対応する。


俺の余裕の動作に警戒したのか、ウルフは再び距離を取った。

そこで俺は再び考える。

―――速度的には問題無い。

―――問題はダメージが通るかどうかだ。

―――俺の剣ではウルフの皮膚に傷をつけることができない。

―――ならどうするか。考えるまでも無い、皮膚が硬いなら軟らかい所を狙えばいい。

―――腹、狙いようが無い。目玉、的が小さすぎる。鼻、同じく小さい。口の中……ウルフが大口開けたときに限れば可能。

―――どのように?飛び掛ってくるウルフにあわせる以上、『突き』の一択。なら俺の取るべき手段は……。


剣を持つ右半身を弓のように引き絞る。

左手を剣先に添えるように前に出し、狙いを定める。

足は軽く曲げて前後に開く。


さあ、準備は整った。後はウルフを倒すだけだ。

ウルフは俺の構えに戸惑ったか、はたまた俺の気配の変化に反応したか、先程よりもしっかりと助走をつける様に後ろ足を動かしている。




そして、一瞬の静寂。




弾けるように飛び掛ってくるウルフ。


俺はその開かれた口に向かって、ただ一つの突きを放つっ!









突き抜ける肉の感触。

飛び散る血の暖かさ。

そして聞こえる、生命の断末魔。


「あっ……、ああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」


俺の目の前で光と化していくウルフを見て、俺は勝利の雄たけびを挙げた。







戦闘を終えた俺は、とりあえずウルフが消滅した後に落ちていた赤い石みたいのを拾っておいた。

魔物から出た赤い石とか、どう考えてもお金になる何かです、本当にありがとうございました。


「リョウさんっ!大丈夫ですかっ!?」


隠れて見てたんであろう、キルトが大声を上げながら俺の所に走ってきた。


「大丈夫だ、問題無い」

「そんなわけあるはずないじゃないですかっ!」


oh...心配してくれる美少女っていいよね!

……そんなわけないと思ってたら聞くなよとか、そんな黒いこと考えてないですよ?


「全身そんな血だらけになって……無茶しすぎですっ!」

「いやいやおぜうさん、これにはウルフの血も混ざってましてですね」

「ウルフの血は一緒に光となって消えてますっ!」


な、なんだってー!

つーことは、え、何、この全身をほとんど余すことなく覆っちゃってるような血が、全て俺のものだと?

HAHAHA、何を言ってるんだいお嬢さん。そんな状態だったら、俺既に死んでるだろ、常識的に考えて。

とはいえ、一応確認しておこう、うん。


「……本当に?」

「もちろんです!いくら私がこまめに回復していたからといって、血液までそう簡単には増えませんよ!」

「……こまめに回復していた?」

「あれ、知りませんでしたっけ。私こう見えても、回復魔法の使い手ですよ」


つまりあれですか、自分一人の力で魔物倒したぜひゃっはー!って思ってたら、回復の支援付きだったわけですね、わかります。

あ、テンション下がってきた……。

あれ、ついでに痛みが復活してきた!!!

体中痛くなってきたでござる!ギブミー回復魔法!!!!



「あっ、リョウさん、あれラルフさんじゃありませんか?」


そんなこんなで、キルトに今一度回復魔法をかけてもらおうとしたちょうどそのタイミングで、おっさんが現れた。

俺の姿を見て一瞬ぎょっとしていたようだが、キルトと一緒に手を振ってやるとなんかまあ安心したようだった。

俺の体まだ痛いままだけどね!


そうしておっさんは手を振り返そうとして、もう一度固まった。

今度は、目線が俺を向いているようで少しずれている。

俺のその更に奥を見ているような……。


「――――――!」


おっさんが何か叫びつつ、こちらに向かって走り始めた。

俺は後ろを振り返る。

そこにいたのは、ウルフを更に巨大化したようなやつで、口にはなんかエネルギーみたいのが溜まっております。

その矛先は俺というか、キルトっぽい。


大きな魔物+口にエネルギー+こっちに向けている=なんかエネルギーの塊みたいなのが飛んでくる


そこまで考えた時、予想通りエネルギーの塊みたいのが発射されたんですけどおおおおおおおおおおおおお!

エネルギーの塊それ自体は、俺とキルト両方飲み込むほど大きくない、それだけ確認した俺はキルトを突き飛ばしていた。

そこに手加減などしている暇は無い。

きゃっ、と言う可愛い声と共に、胸元に違和感。

次いで襲ってくる激痛。

痛みの基に目を向ければ、何処にこれだけ残っていたのかと思う位に大量の血液が流れている。

そして俺の口からも……。

全ての動きをスローに感じながら、俺は地面に倒れる。

どうせなら、エネルギーの塊食らう前にスローになれよとか、どうしようもないことを考えながら。

俺の後ろを、ものすごい速度でおっさんが通り過ぎていく。

キルトは俺を見て、慌てて駆け寄ってくる。

何かを大声で叫んでいる。

きっと俺を心配してくれているんだろうなと思うと、その声を聞くことができないのはもったいないなって思ってしまった。

どうせ最期だ、そう思って無理矢理キスしてやろうとキルトの顔に手を伸ばそうとするが、手が動かなかった。

ならばせめてその顔だけでも見ておこうと思っても、今度はまぶたが勝手に下がっていった。

これで終わりか。我ながら短い異世界生活だった。

全てを諦め、体全体の力を抜く。

体が熱を持ったのか、徐々に体が熱くなっていく。

死ぬ時は体が冷えていくと思っていたので、新発見だった。

そうしてどんどん体が熱くなっていく。

熱く………

熱く……

あつk



「熱すぎじゃあああああああああああああ!!!ってあれ?」



あまりの熱さに叫んでしまったわけだが、俺にはまだそんな力が残ってるのかしら?

目を開けてみる。普通にあいた。

手をわきわきさせてみる。エロイ具合に手が動いた。

首を傾けてみる。そこには、なんかものすごい光を放っているキルトがいた。


え、何これ?さっき言ってた回復魔法?何これ死ぬ寸前から復活とか万能すぎじゃね?

何、これがこの世界のデフォな回復とかだったりするのか!?

いやいや馬鹿な、こんな馬鹿みたいな回復デフォとか問題しかない、多分きっと。

つまり、キルトが特別なんだよ!な、なんだってー!

まあそうだよね、当たり前だよね、こんな所であんなおっさんと二人で住んでる時点で気付いてしかるべきだったわ。

よし、決定!


そうして一人テンパリながらキルトを見ていると、なんか変なのが見えてきたでござる。

キルトに降りる様折り重なっているそれは、天使の格好をしている。

うん、ここに来る前に見た記憶あるわ、そのいやに意味ありげな笑顔含めてなっ!



そして、俺の意識今度こそ落ちていった。

次回第一部完

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