ごっこ遊び
ある日、妻が死んだ。
僕はそれが耐えきれなかった。
「よろしいのですか」
問いかける女性に答える。
「構わない」
よく似ていた女性だ。
妻に、とても。
「おそらく、とてつもない侮辱になると思います」
「命令だ。君は奴隷だろう。主人に従え」
探すのに二年かかった。
妻のことを教え込むの三年かかった。
そして、説得するのに一年かかった。
かかってしまった。
「演じろ。演じ続けろ」
「理解出来ません。私は奥様ではありません。いいえ、もっと端的に言えば私は私でしかありません」
「分かり切ったことを言うな。僕は命令をしているんだ」
世界一してはいけない命令。
自分を殺し、他人に成り代わって生きろ――なんて。
「馬鹿丸だしね、あなた」
彼女は諦めて妻になってくれた。
妻を生涯演じることを了承してくれた。
「馬鹿で幸せ者だ。君にまた会えたのだから」
心から笑う僕の顔を見て妻を演じる女性は一瞬顔をひきつらせた。
「素晴らしい。あいつのする反応そのままじゃないか」
「呆れた。本当に救えないわね」
構わない。
どうせ、もう二度と救われないとわかってるから。
「それだけ君の存在が全てだったんだよ」
演じる女性に返す言葉、一つ一つが無価値だと分かっていた。
それでもこのごっこ遊びがしたくて仕方なかった。
「旦那様。恐れながら申し上げ――」
「妻はそんなことを言わない」
「しかし――」
「聞こえなかったのか?」
女性は諦めた。
諦めてくれた。
「さぁ、食事をしよう。君の作る料理が食べたくて仕方なかったんだ」
「……はいはい」
どうしようもないことは分かっている。
だけど、これで僕は確かに救われているんだ。
――あぁ、金持ちで良かった。
この空しいごっこ遊びは僕が死ぬまで続いた。




