表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ごっこ遊び

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/02/01

 ある日、妻が死んだ。

 僕はそれが耐えきれなかった。


「よろしいのですか」


 問いかける女性に答える。


「構わない」


 よく似ていた女性だ。

 妻に、とても。


「おそらく、とてつもない侮辱になると思います」

「命令だ。君は奴隷だろう。主人に従え」


 探すのに二年かかった。

 妻のことを教え込むの三年かかった。

 そして、説得するのに一年かかった。

 かかってしまった。


「演じろ。演じ続けろ」

「理解出来ません。私は奥様ではありません。いいえ、もっと端的に言えば私は私でしかありません」

「分かり切ったことを言うな。僕は命令をしているんだ」


 世界一してはいけない命令。

 自分を殺し、他人に成り代わって生きろ――なんて。


「馬鹿丸だしね、あなた」


 彼女は諦めて妻になってくれた。

 妻を生涯演じることを了承してくれた。


「馬鹿で幸せ者だ。君にまた会えたのだから」


 心から笑う僕の顔を見て妻を演じる女性は一瞬顔をひきつらせた。


「素晴らしい。あいつのする反応そのままじゃないか」

「呆れた。本当に救えないわね」


 構わない。

 どうせ、もう二度と救われないとわかってるから。


「それだけ君の存在が全てだったんだよ」


 演じる女性に返す言葉、一つ一つが無価値だと分かっていた。

 それでもこのごっこ遊びがしたくて仕方なかった。


「旦那様。恐れながら申し上げ――」

「妻はそんなことを言わない」

「しかし――」

「聞こえなかったのか?」


 女性は諦めた。

 諦めてくれた。


「さぁ、食事をしよう。君の作る料理が食べたくて仕方なかったんだ」

「……はいはい」


 どうしようもないことは分かっている。

 だけど、これで僕は確かに救われているんだ。

 ――あぁ、金持ちで良かった。



 この空しいごっこ遊びは僕が死ぬまで続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ