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リーダー訓練初日

 昼から再び朝と同じ会議室に戻った。

 各班の正式稼働は新年度からで、それまでにメンバーが決まる。それとは別に、今回のメンツを中心にした訓練が行われるため、その予定表も配られた。

 あ……。

 資料を見て、春久は手を挙げた。

 「申し訳ありませんが、日程変更をお願いしたいのですが。三回」

 春久はリーダー訓練と交通機動隊でのバイク訓練の両方があるため、年間にして二十四日潰される。そのうちの三日。

 「どういうことだ」

 「管区から、絶対に外してくれるなと言うことで前もって来年度予定の一部が渡されています」

 それ以外については、四月に詳細を送られてから参加の可否を決めて良いのだが、動かせない日程。

 「それに、少なくとも三日は引っかかっているんです」

 「管区?」

 「予定表が来てすぐに、こちらの総務にも連絡をさせていただいているのですが。うちの課長経由で。その日はこちらに居られないと。不参加可能であれば、問題はありませんが」

 少なくともバイクに関しては不参加はあり得ないだろうと思う。リーダー訓練は全員一律でも、もう一つに関しては個々人によって内容が違っているようだから。スケジュールの上に名前が記載されているのが何よりもの証拠。一人一人に合わせたスケジュールが組まれているはずだ。

 

 「総務! 確認してこい!」

 「はい!」

 スタッフ側の一人が飛んでいった。

 「管区なんてどういうことだ。こっちは聞いてないぞ」

 独り言なのだろうが、丸聞こえだ。

 「他部署や他所轄への守秘すべきことも多々抱えていますので」

 「後だ、後。先に、これから救急救命の復習だ。日頃もやっているとは思うが、もう少し高レベルの奴を毎回、蘇生法だけでなく、怪我の手当や運搬なども学ぶ。今日はその後それぞれの実地訓練の担当に別れて、年間の訓練についての説明がある」

 二人と三人の四グループが示され、会議室の番号が伝えられた。

 

 救急法の講習を受けているときに、バタバタと人が走ってきた。

 「申し訳ありません! 丹波警部補! リーダー訓練二回については特例で不参加可能、講義ビデオと資料を送りしますのでレポートの提出をお願いしたい、実地訓練については、各教官とのすり合わせで日程調整していただきたいとのことです。教官の方にもこれからお声がけして、その旨伝えてきます!」

 それだけを口にして、あっという間に出て行った。

 「特例だぁ?」

 講師は眉を顰めて顔を歪めたが、春久に対しては何も言ってこなかった。予定については、管区が「優先事項」だと振ってきた話だ。こちらの総務だけでどうこうできる話じゃない。春久も、出来れば管区よりこちらで受けたい。そうすれば厄介なレポートなどに時間を取られずに済むのに。

 「なんでそんな面倒な奴に、それも初動隊なんて話を……」

 「それだけ仕事ができるからだろう?」

 誰かが、講師のつぶやきに反論の声を投げた。講師のくせにそんなことも理解できないのかと、そちらもぶつぶつと呟くような声だったから、誰か、までは特定できなかったけれど。春久も、文句はここで言うのでは無く、個別に春久に向かって言うか、もしくは人事や総務などに確認すべきだろうと思う。

 

 今回は初回だからと、二時間ほどでそれは終わった。次回からは半日リーダー訓練、半日救急救命の練習となる旨を伝えられ、もう一人の男と一緒に、指定された部屋に入った。彼も春久と同じく初動隊のリーダーになる。

 誰も居ない?

 間違えたわけでは無いと思う。二人ともに部屋を確認した。

 「白バイ隊での訓練を言われたんですよね?」

 問われて頷いた。

 

 しばらく、午前中に貰った資料と一緒に先ほど印刷して貰った資料に目を通していると、部屋がノックされた。

 二人が立ち上がるのと同時に、年かさの男が入ってきて敬礼をしてきたから、二人も敬礼を返した。

 「座ってください。お二人の方が上位ですので。本当は白バイ隊の警部補が来る予定だったのですが、緊急で飛び出してしまい、私が本日の代理です。総務から日程の話も聞いてきました。年間十二回、それは変更出来ないのですが、当日に翌月の予定を決めるということでいかがでしょうか。大型バス組の担当として交通部からもう一人来ている警部補に、確認了承済みです。出来ればお二人の日程が一致する方がありがたいですが、最悪、別々になっても構いません。やることは、十二回の内、バイク十回、車二回の特訓に付き合っていただきます」

 「日程の融通を効かせていただけるのであればありがたいです」

 それで憂慮は無くなる。

 

 「うちもそれで構いませんが、それでもどうしても緊急時というのは発生しますが」

 「お互い様ですので、その時は連絡をください。お二人には、日常訓練に付き合っていただく予定にはしてます。コース内だけで、外には連れ出しません。それには免許が必要になりますので。特に重量バランス訓練に使う白バイ」

 「それは良かった。自動二輪までしか持ってないので」

 もう一人がホッとしたように言う。仕事柄、公用車運転許可証は持っているが、それでも白バイは別だ。

 「お二人ともバイクの経験は?」

 「二五〇CCになら」

 もう一人が言うので、春久は

 「ツーリングになら……」

 「排気量は?」突っ込まれた。

 「1300……リッターバイクです。一緒に行くのがミドルクラスや中型なので、ノンビリ走るぐらいしかしていませんが」

 白バイより排気量の大きいバイクに乗っているけれど、白バイのような攻めた走りは無理だと、言外に訴えておく。

 「では、白バイは練習用ですので、お二人とも、同クラス排気量のものを。他に六五〇のモタードと二五〇のオフロードを用意しておきます。有事に悪路で乗れないと、意味がありませんので。半日白バイを使って舗装の障害物コースで、半日オフロードになると思います。特錬の練習場が有りますので、次回からそちらに来ていただけますでしょうか。

 それから、ご自分のライダースーツを用意してください。万一の時には、体にフィットした物の方が安全ですので。手足のパッドとヘルメットはこちらに有る物をお貸ししますので、初日にサイズの確認をしていただきます」

 

 練習場への地図を渡された。本庁の近くに交通機動隊本部が有るが、そちらからはかなり離れたところに有るコースだ。

 「一月二月はパトカーです。つまり、来月と十二回目ですね。路面凍結はタイヤを滑らせて走る練習にはもってこいなんですが、さすがにお二人に怪我をさせるわけにはいきませんので」

 「済みません、二五〇のオフロードがあるのでしたら、私もそちらでお願いします。車への積み込みや運送も楽なので、現場ではその方が小回りが利いて良いかと思いますし」

 「では、両方乗り比べてください。大型の方がトルクが有るのと当然走行距離が伸びるという利点も有りますから」

 「そうですね。それでお願いします」

 春久の希望に相手も了承してくれた。確かにトルクが有るのは、エンストしづらくなるのでありがたい。多少ラフな運転もできるし、段差を乗り越えるのもパワーでやり過ごせる。特にモタードならオンオフ両役をこなすことも可能だ。二五〇のエンジンなら、取り回しは楽になる。どちらも一長一短、試せるのであればありがたい。

 「済みません。前日入りしたほうが良さそうですね。こちらでホテルを手配すれば宜しいでしょうか?」

 「警察学校の寮で宜しければ手続きしますよ」

 もう一人が苦笑いしている。

 「俺は朝移動してきます」

 「こちらも、可能であればそうしたいのですが、さすがに片道二時間使うと訓練にならなさそうですので。夜はそのまま帰ります」

 夜の内に戻っておけば、翌朝からの仕事に入れる。

 

 「リーダー訓練の翌日にこちらの訓練を入れてホテル連泊も可能ですので、仕事の具合によって調整してください。担当の班長の名前と連絡先をお伝えしておきます」

 「班長、なのか?」

 もう一人が口にした。自分は係長なのに、班長が教えるのかと、少々不服そうだ。班長だろうと、むしろ目の前の男でも十分だと思うのだが。自分たちはバイクに関しては趣味レベルの素人で、相手はそれで飯を食っているプロなのだから。

 「そうです。うちの班長は所轄の係長レベルです。班員が巡査部長で、班長、副隊長が警部補、隊長は警部です。巡査から抜擢された場合はそっこう巡査部長に上がれと尻を叩かれますし、一年で上がれなければ所轄に戻されます。選抜筆記が巡査部長クラスの問題で、巡査部長なら筆記免除ですよ」


 確かに交通機動隊はエリート揃いだと聞いた。カイが聞けば喜びそうな話だ。もちろん、警察内部のことだから口にできるようなことではないが。

 「お二人につくのはオフロードメインの班長です。白バイの日本大会、オフロードの部で優勝もしている実力者ですから」

 自慢そうだ。確かに、自分の上がそうやって成果を出していることを示せるのは嬉しいだろう。

 「そこの練習場所、土日祝日は一般人が溢れるので、どうしても練習は平日のみになります。次回から日程を決めるときに注意が入ると思いますが、ひとまずお伝えしておきます」

 「分かりました。ありがとうございます」

 一般人が行けるのであれば、カイを誘って前もって様子を窺っておくのも有りだな。


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