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イメージチェンジ

 翌週、仕事を終えてすぐに移動、本庁に車を預けてホテルに。待ち合わせ場所には、約束の時間ぎりぎりに到着した。カイも前後して到着、そのまま新年の挨拶を交わしてイタ飯の店に入った。

 予約をしてくれていて、すぐに席に案内された。

 明るい照明の下、改めてカイの姿を見れば、珍しい。ライダースジャケットではなく、コートだ。

 「バイクだろう?」

 その格好でバイクは寒いし危ないが、ジャケットやオーバーパンツはバイクに置いてきたのかともと思い、尋ねてみた。

 「違う。路面が冷えるって天気予報だったから、車を二十四時間定額のところに預けて、職場まで電車で移動した。駐車場までタクシーを使ってもワンメーターぐらいだろうし。どのみち今日は挨拶回りに引っ張り回されたから」

 夜遅くなると電車の本数が極端に少なくなる。場所に寄っては、かなり早い時間に無くなってしまう。都会とは違うのだ。

 タクシーでワンメーターだから、いざとなれば歩いても知れているのだと言いつつ、コートを脱ぐ。もっと珍しい。カイのスーツ姿。普段は年下の遊び友達のイメージしか無かったが、そうやっているとサラリーマンだなあと感慨を深くしていると、すぐに上着を脱いでネクタイも外してしまった。もう少し見ていたかった。

 

 春久もコート脱いだ。ネクタイもジャケットもホテルで脱いできて、シャツの上に薄手のカーデガン。この姿は見慣れているだろう。と、思っていると、カイが

 「ハルさん、そうやって前髪全部上げるのって、仕事の時はいつも?」

 と尋ねてきた。年末に職場に送って貰うときに一度、これで二度目の髪型は落ち着かないらしい。確かにカイと会うような私的な場所では大抵整髪料を使ってないから、前髪がサラサラと落ちている。

 「職場で仕事をしてそのままだからな。スーツは脱いできたが、整髪料を落とす時間は無かった。変か?」

 「ちょっとだけ、迫力あるって思っただけ」

 右手で、掻き上げていた前髪をクシャリと崩した。半分だけだ。整髪料で固めているから、全部下ろすとバサバサでだらしなく見える。ただ、課長たちに童顔だとか逆に迫力が出るとかいろいろ言われたあれだから、カイにとっては尚更威圧感が増すだろうとも判っているので、少しだけ様子を見て、いつでも戻す心積もりだ。カイの言葉に従って、やってみただけ、という奴。

 「うん。そっちの方が安心できる。いつものハルさんっぽい」

 「ぽいってなんだ、ぽいって」

 いつもの軽口。お互いに安心している。カイがその方が良いのであれば、少しだけこのスタイルを続けるのもありか。

 カイがニッと笑ったところへ、ウエイトレスがメニューと水を持ってきた。

 

 フランス料理のコースのような堅苦しさは無く、わいわいとシェアしつついろんなものを摘まめる店だ。こんな店のメインはスパゲティやピザなのだろうと思っていたが、意外と魚介類やサラダなどの小皿物も充実していた。種類が豊富で二人であれこれ、小サイズで頼む。シェアすれば、種類も多く食べられる。

 「イタリア料理と言うより南欧系の料理がいろいろ有って、洋風居酒屋って感じでしょ」

 「こんな店があるとは知らなかったよ」

 カイは時々こうやって、春久の知らない事を教えてくれる。春久が初見だと聞いて楽しかったのか、カイは満足そうに笑っている。

 

 食事中の話題は、当然キャンプ。三月のキャンプ場は戸野原の息子が探すことになったこと、戸野原がアドバイスをして実際に予約を入れるのも戸野原だが。どこが良いか、何をしたいかを決めるのも良い体験になるだろう。その前に二人で行くキャンプは、前回と同じ場所にするかどこか行きたい場所があるか、聞いてみた。春久の家で過ごす予定だったのが思いがけなく三連休になり、その一日目から二日目に掛けてキャンプ。その後春久の家に戻り、大学の事を決めつつカイは二泊目。翌日春久の待機が入るが、昼過ぎまでは居られる。

 カイは目の前でスマホを弄っていたかと思うと、画面を見せた。特に山の上や海岸でも無い。水辺でも無さそうだ。何の特徴が有ってそこを希望しているのか。

 「そこ、直火ができるんだよ。テン場から少し離れたところにキャンプファイヤーサークルが有って、その中限定で直火ができる。もっとも、そんなところで直火なんて、あっという間に薪を消費するから、本当に少しの間焔を楽しむぐらいだけど。テントそばでも焚き火台を使えば焚き火可だから、薪から熾火になるのを楽しむのも有りだと思う」

 焚き火禁止のキャンプ場も多く、いつもはガスや炭を使うから、豪快な焔は無縁だ。薪ストーブが欲しいと言っていたぐらいだから、焚き火に思い入れがあるのか? 春久もオイルランタンの焔には飽きること無く見ていられるから、その意味では焚き火の選択肢は確かに捨てがたい。

 「判った。それじゃあ、真冬キャンプのテーマは焚き火だな。焚き火料理の注意点とか有るか?」

 「火の調整が難しいのと、完全燃焼させないとコッヘルが煤で真っ黒になるよ。豪快なんだけど、火力も強いから遠火にするか、手早くできるモノにした方が良いと思う。大きめの焚き火台で、熾火になったらサツマイモを放り込むのも有りかな」

 「それは良いな。焼き芋だな」

 

 「そ。後はテントを二つ立てて」

 ちょ、待て。

 「テントは一つで、インナーテントを二つだろう? 冬場はその方がテント内が暖かいんだから」

 少し焦ったような言い方になってしまったが、カイに気づかれなかっただろうか。

 「一つは、荷物置き場。入り口の片方と連結させて、そっちに荷物を置けば、夜露を心配しなくて良いし、ストーブの周りにモノを置かなくて済むから安心だと思う。俺のはフライシートだけで独立させられるから。で、石油ストーブを買いたい」

 「今有る奴じゃダメか?」

 キャンプ用として、小型の電気ストーブを買っている。二度ほど使った。

 「電気毛布ぐらいならともかく、電気ストーブは、小型バッテリーじゃ長時間は無理って判ったから。どうせ寝る前には消すんだけど。電源サイトを借りたときは電気ストーブで、フリーサイトは石油ストーブかな」

 「電源のあるサイトにするか? そこなら隣に車も停められる」

 「焚~き~火~」

 「判った。今回は直火のところで良い」

 すぐに降参の意を示せば、カイはニッと笑う。

 薪はどれぐらい使うのか、持っていくのか現地で調達するのか、そんな話を決めていると、時間はあっという間だった。

 

 カイと一緒に駐車場まで歩いた。寒いけれど歩けば体も温まる。カイは遠慮したけれど、酔っ払いも多い時間だからと押し切った。だったらと、二人で駐車場に行った後、カイが車でホテルまで送ってくれることに。

 

 「お休み。キャンプ場の予約は任せる。悪いが今回は買い物も任せる。ちゃんとレシートは持っておけよ。今言ったからな」

 「判った。じゃあね」

 カイはホテルのエントランスで春久を下ろした後、言葉も短く帰っていく。本当に判っているのか? 念押しをしたけれど、それでも、レシートを無くしたとかなんとか言い出しそうなのだ。ただし、それをやったら春久もカイに支払いをさせなくなることも判っているだろうから、レシートの枚数を減らしてきそうな気がしないでも無い。

 車を見送っていたけれど、寒さに負けて部屋に戻った。

 

 翌朝、鏡の前で一瞬迷ったが、結局今までのオールバックから、半分だけ掻き上げる形にした。我ながらチャラい。確かに童顔だというのも判るし、きちんと整えるよりもすごみが出るというのもうなずける。仕事中に前髪がうっとうしくなってきて掻き上げそうな気もするが、カイがこちらの方が良いと言うのであれば。

 まさかその日に広報用の写真を撮られるとは思ってもいなかったのだ。

 

 順番に写真を撮られた後、災害時の初動判断の大切さ、実際の命令系統、それからどのように班作りをしていくのかなどの基本的な話がみっちり。

 参加者は男が七人、女が三人。警察内部の性別構成としては、女性が多い方だ。

 話を聞いている間に十名の顔写真と現在の所属、災害時の役割、たとえば春久が初動隊だとすれば、中継ぎ、サポート、ケア、後始末と、それぞれの役割分担が記載されたものが、県警のイントラネットに上げられていた。昼休みに本庁生活安全部に顔を出せば「見たぞ」と、早くも声を掛けられた。

 「以前はもっと生真面目一本の印象だったが、やり手って感じだな」

 そうやって笑われ、やはり髪を上げてしまった方が良かったかとも思った。

 「丹波長、お久しぶりです。イメージ変わりましたね。どっちも格好良いですけど」

 「いや、仕事中は上げてしまおうかと」

 「そのままにしてください。そっちの方がボスって感じです」

 「チンピラっぽいんだが」

 もちろんカイに対してなら、絶対にそんなことは言わない。

 「女性陣なんか、丹波長の下に着きたいから異動願い出そうかなんて言ってましたよ。自分もちょっと考えてます。丹波長の下だけでなく、自分に合いそうなところをきちんと考えてから、ですけど」

 早々に広報発表が出たのは、リーダーになるメンツの所轄もしくはその近辺への異動を促す意味もある。いざという時、集合を待つ時間はできるだけ少ない方が良い。早急に集まって打ち合わせ、行動を起こさなくてはならないのだから。

 

 「下のメンバーは数年で入れ替わりになるようなんですけど、希望を出しておけば、叶わなくても上には好印象を残せるという下心込みなんですけどね」

 それはコッソリ伝えられた。

 その思惑だけなら、止めた方が良い。本心やりたいなら歓迎するが。災害現場へは、中途半端な意気込みだと、すぐに後ずさりすることになる。心的外傷後ストレス障害(PTSD)とまではいかなくとも、トラウマになる可能性も少なくない。ストーカーに滅多刺しにされた被害者を見ただけでも、ストレスに弱いと、そのまま警察官を辞めるか、庶務などの書類仕事に異動することになるのだから。

 

 移動中に内容の確認をしたいからと、そのページを印刷して貰った。今度のチーム組みの目標と計画の下に、十人の顔写真と経歴、現所属、役職などが記載されている。ほぼほぼ係長クラスなのだが、一人女性で班長が居る。担当はメンタルケアとなっているが、災害現場には大抵、医療系の本職が出張る。彼女のチームの役割は? 警察官のメンタルケアなら、多少男どもに怒鳴られてもびくともしないような連中が必要だと思う。警察官に限らないが、自分の精神が不安定なときは怒鳴り散らかすこともあるのだ。被疑者と対峙しているとよく判る。先ほど全員で顔を合わせて互いに自己紹介もしたが、もしかして見た目に反して肝が据わっているのか? だったら頼もしいのだが。


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