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ロシアンサンドイッチ

 テントに戻ると、カイはパッと目を開けた。

 「寝るか? 先にトイレに行ってこい。お前が戻るまで待っててやるから」

 「うん」

 使っていた懐中電灯をカイに渡し、テントから出て行くのを見送る。一人なら広いテントを、二人で過ごす。年に数回の逢瀬だ。カイと二人だから楽しい。春久としてはカイを思いっきり甘やかせたい。好きなことをさせて、好きなところに行かせて、好きなときに戻れるように。それが今の一番の楽しみで、仕事のストレスも解消できる。

 

 「ただいま。カップラーメン食べたくなってきた」

 いきなり? 春久は時計を見た。

 「もうすぐ日付が変わるぞ?」

 「言ってみただけ! でもなんか、背徳的だよね。今年も年末までもうすぐだからね。年越しそばってハルさん、食べる方?」

 「たいてい仕事だからな。そういえば、正月、うちの部署はぜんざいが出るらしいけど、二年連続食わずに済んだんだ。来年も済むように、外回りに出るよ」

 「ははっ。じゃあ、また年明けにツーリング土産持っていく。今年も干支のお守りで良い?」

 「十分だ」

 

 「次のキャンプは三月の初め、だよね」

 「それは戸野原さんたちも含めた奴だ。お前とは二月にやるぞ。次の授業計画立てないとだからな」

 「やったー。ダッチオーブンの料理、いろいろ考えているんだ。次は何にする? あ、そうだ。戸野原さん経由でトリ丸ごと一羽って、買えるのかな。ローストチキンで、おなかにピラフを詰め込んだ奴も作りたい」

 「買えるだろうけど、その場合、戸野原さんに真冬キャンプがバレるって事だな」

 「じゃあ、それは三月にして。パエリアも良いよね。魚介たっぷりの。あ、ハルさんちでクッキーも作らせてね。冬だからまたジンジャークッキーが良いかな。体温まるし、ショウガは体にも良いし」

 「賛成する」

 「後は前日に仕込んで、ダッチオーブンでロールキャベツ作ると、濃厚なのができるし」

 「お前は俺にまで、この時間から食べさせるつもりか? 美味いものの話、しすぎだろう。何が必要なんだ? 材料は買っておいてやる」

 「ハルさんは走り回るから、タンパク質たくさん必要だものね。あ、白菜も美味しくなってきたから白菜を弱火で煮込むと水分出てくるから、そこにつくねを入れて煮るのも有りだぁ。作りたいものたくさんありすぎ。何が良い?」

 「順番に作ってくれ。同じものでも良いけどな」

 「オッケー」

 

 楽しそうに料理の話をしていたカイが、ギュッと背伸びをした。それから肩の力を抜く。

 「ハルさんと話をしていると時間があっという間に過ぎる。でも、明日のご飯作りたいから寝るね」

 「そうしろ。俺も寝るよ。片付けは任せろ」

 「オッケー。お休みなさい」

 「お休み」

 カイが自分のインナーに入ってしばらくごそごそしている音を聞いていたが、静かになるのを待って、オイルランタンを消した。春久は手元の懐中電灯の明かりを頼りに、インナーに入る。今日は湯たんぽが無いので寝袋の中は少々寒い。そのうち暖かくなってくるだろうと、電気毛布をそのまま寝袋の上に掛けて目を閉じた。

 

 

 外が明るい。寝袋から腕を出して時計を見た。八時。ああもうそんな時間かと思う。熟睡して、外の音など全然気づかなかった。テントから外に出ると、戸野原が湯を沸かしてる。

 「おはようございます」

 「おはよう。お前が二番目だ」

 「はは。みんな熟睡ですね。夜中に全く目覚めなかったですよ」

 「おはよーございます」

 カイがテントから顔だけ出して挨拶する。

 「悪い! うるさかったか?」

 「んーん。目覚まし鳴ったから。ハルさん、ハルさんちのと俺の荷物、先に使わないもの積んでくれる? 戸野原さんの荷物は最後に積むよね?」

 「そうだな。お前が使わない奴を指示してくれれば運ぶ。ただし、九時過ぎてからにしよう。先に顔を洗ってこい。俺も行く」

 「オッケー」

 「お湯は沸かしているから、コーヒーでもお茶でも飲んでくれ」

 戸野原もそうやって声をかけてくれる。

 「はーい。ハルさん、戻ってきたら張り綱張って。タオルとかも干しておけば乾くだろうから」

 「了解」

 歯を磨き、顔を洗って髭を剃ってとしているうちに、大塚も起きてきた。

 

 

 残っている肉を軽く炒め、パンの間にチーズと焼いた肉を挟んだホットサンド。他にも、前日の昼に残っていて、夜にでも食べるかと気遣って残してくれた総菜を挟んだもの。

 

 「ロシアンルーレットだね」

 作ってるカイには、どれがどれか判るだろうけれど。

 「シチューの残りは?」

 「チーズ入れて煮詰めてから冷やすと固まったから、どれかに入ってる」

 「他には?」

 「ピラフの残った奴も入れた」

 「そのままにして置いてくれれば食べたのに」

 「良いじゃん。ロシアンサンドイッチ楽しいよ」

 「パンの中に米か?」

 「パンの中にスパゲティや焼きそばと同じ原理」

 春久とカイのやり取りを、戸野原は笑いながら見ている。

 

 話をしながらもカイは、シングルガスコンロの上でホットサンド器をひっくり返して、様々な具材を入れたものを作る。それをシャッフルするのだから、質が悪い。触ってみれば暖かさで作った順番は判りそうだが。

 「お薦めは?」

 「ベーコンとチーズの奴」

 「それがどれかと聞いているんだ」

 「判るわけ無いじゃん。適当に置いてるんだから」

 「お前は~」

 

 「秋津君、食っても良いか? そろそろ食って片付けをしないとな」

 二人の会話を耳に挟んだ戸野原は、少しばかり笑いつつも、そうやって聞いた。

 「食べてしまってオッケーです。ハルさん、先に選ばないなら残り物だからね」

 大塚と戸野原が適当に取ってかぶりつく。それを真似てカイも一つ取り上げた。まだ四つ残っているということは、合計七つ、カイ以外が一人二個らしい。

 「これがピラフだった」

 大塚も笑いながら断面を見せる。

 「ポテトサラダか。でも、胡椒が利いて味がしっかりしているな」

 戸野原のものはそうだったらしい。

 「で? 外れは何だ?」

 「そんなもの有るわけないよ。全部食べられるものなんだから。好き嫌いは有るかもしれないけど、ケーキは入れてないから、全部ハルさんが昨日食べたものだよ」

 ああ言えばこう言う。

 「一応パンと合うように味を濃くしたり胡椒を入れたりしてるし」

 

 意を決してかぶりついた中身は、昨日ダッチオーブンの中で煮込んでいたソーセージとタマネギと芋。水分が飛んで、芋は潰されていた。ソーセージも少し小さく切られていたから、外から見て判らなかったけど、なかなか美味い。カイが隣から覗き込んできた。

 「ハルさんの好きな物当たって良かったね。もう一個有るからね」

 「そういうお前は何だったんだ?」

 「チーズとベーコンの奴」

 「はぁ?」

 「作った人の特権だよね? 自分の分はちゃんと確保した」

 「お前は」

 頭を捕まえてくしゃくしゃにすると逃げる。逃げても、避ける、じゃない。ちゃんと笑ってくれている。

 

 「他に秋津君のお薦めは?」

 戸野原が聞けばカイはすぐに

 「俺の好みだと、きんぴらゴボウの入っているの。水分でパンがふにゃふにゃにならないように、チーズも入れたけど」

 「ああ、昼の総菜の残りか。さて、どれか……」

 「多分これ」

 そう言ってカイが一つを指さした。

 「は? お前シャッフルしたって、本当はどれがどこにあるのか全部知っているんじゃないのか?」

 全部と言っても七つしかないのだから。

 「知らないって。これはゴボウが見えてるから」

 春久がインチキかと問えば、そうやって解説が返ってきた。よく見れば、パンの耳からちょろっと、何か黒っぽいものがはみ出していた。なるほどだった。

 

 戸野原はそれを取り上げ、大きな口でかぶりつく。

 「正解だ。これも美味いな。今度息子たちも一緒にやるときに、作ってやってくれるか? 中身になりそうなものは適当に買っておくので、それと残り物でだな」

 「了解」

 二つ目に取った中身は、シチューだった。といっても、チーズたっぷりで。なかなか美味かった。もう一つ有ると言っていたウインナーの煮込みは、大塚に当たった。

 「ごちそう様」

 大塚もそう言って両手を合わせた。食後のコーヒーとお茶の時間が終われば、本格的に撤収だ。


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