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車中泊旅計画

 料理を食べ尽くしたと言ったら、一泊ツーリングはキャンセルされた。飛び込みでと思っていたので、まだホテルを取ってはいなかったのは幸いだった。それでどうするのかと思えば、ホテル代より高く付くほど食材と鍋やフライパンまで買い込まれて、冷蔵庫には入れる隙間が無いんだが?と言いたくなるほど、料理を詰め込まれた。

 あとは、クッキーも焼いてくれた。今回はドライフルーツだった。

 「ドリアはオーブンで焼いてね。レンジじゃないよ。レンジが良いのなら先に焼いてから冷凍するけど」

 「それでお願いします。時間や火加減が判らん」

 少し低姿勢の丁寧語で頼めば、カイはふっと笑って力を抜いた。「判った」と柔らかく笑ってくれて。耐熱容器にラップをしようとした手を止めた。

 

 「冷凍庫がもう一つ必要か?」

 冷凍室にパンパンになっている料理を見ながら、思わず呟いていた。

 「今晩のご飯出来たよ。先に食べる?」

 「食う」

 鍋で作った鍋焼きうどん。いや、鍋で良いんだろうが、普通は土鍋だよな? それも寒い時に……。もうすぐ六月なんだが? と思ったけれど、二つの小鍋に作られた鍋焼きうどんを、蓮華と箸で小皿に移しながら食べていくのも、乙なものだった。うどんに出汁と鶏肉の味が染み込んで、一足先に鍋からすくい取ったタマゴを割いて、とろりと出てきた黄身にうどんを絡めて。

 「旨いな」

 「たまにはこんなのも良いよね」

 「賛成する」

 「冬になったら、卓袱うどん食べに行こう。美味しいところ知ってるんだ」

 「判った」

 冬になれば根菜類が旨味を増す。それらがたっぷり入った卓袱うどん。またツーリングの約束が増えた。

 「鶏肉は唐揚げの残りだから。唐揚げ全部冷凍しておく? 冷蔵が良い?」

 「両方」

 「判った」

 それでカイは楽しそうに笑う。

 

 「何?」

 「え?」

 「笑っているから。あ、ストレス解消できたから、か?」

 「違うよ。なーんか、ハルさん見てると、大型犬飼ってるみたいだなって思って。すっごくたくさん食べて走り回るの。あ、飼うっていうのは比喩だからね。飼ってるなんて思ってないよ」

 「判ってるよ」

 「あ、それより、六月の車中泊旅、どこに行くか決めた? 夏のキャンプも場所はともかく、日程とか」

 カイが焦ったように話題を変えた。その焦り方もカイらしいと思うのだから、春久も重傷だ。

 

 「二泊、有休取れるか?」

 「取る」

 「運転席と助手席の天井に一本ロープを通して、その中央から荷室の後ろまでもロープを通せば、即席のカーテンが作れるだろう? 男同士でも、寝ているときはカーテンで仕切った方が良いだろうし。一人は助手席を倒して、一人は荷室側からだと、どうしても顔が近くなるからな。後はフロントはサンシェードで良いとして、窓にもカーテンが欲しいな」

 「そうなの? 準備が結構必要だし、荷物があまり持って行けないね」

 「場所はキャンプ場にするつもりだから、テント泊にするか? そうすると、いつものキャンプになるけどな」

 「ははっ。本当だ」

 「それでも良いぞ? コットがあるから、ドームテントだけでも良いし。お前がインナーテント無しでも大丈夫ならな」

 それはカイが同じ部屋で寝ても大丈夫ならという意味だ。今まで同じ部屋で眠ったことは無い。うたた寝はしているけれど、それと、無防備に熟睡している姿を見せることは別だろうから。

 

 「ハルさん一人なら、車の中で余裕で眠れる?」

 「そうだなぁ。けど、お前と一緒にってところが、楽しいんだと思うぞ。旨い物食わせてやるって約束だしな。お前が今日、こうやっていろいろ作ってくれている礼なんだから、受け取れ」

 「そうじゃなくて。俺がテントでハルさんが車なら、車中泊だよね。で、料理は一切無し。熱いお湯は用意したいから火器類は持っていくけど、料理には使わない前提。お昼と夜はどこかで食べて、朝は前日に買ったおにぎりと熱いお茶。ハルさんはコーヒーだよね。

 それで、車の外に出すのもテントぐらいで、朝急いで片付けたら、そのまま移動。テントは一個だし、コットも一個。車の中はインフレータブルマット。料理が無いから片付けも無し。眠くなるまで話せる」

 「ああ、それは良いな。景色の良いところで、外を見ながらだな」

 「うん。先に眠くなった方がテントだね」

 「はは。そうだな。そうしたらお前の方がずっとテントになりそうなんだが」

 「そんなことない。あ、ポータブルバッテリーよろしく。走行中に充電しておけば、俺のタブレットが読める」

 「それで夜更かしか?」

 「ゲームに、一応毎日ログインだけしておきたい。ログイン報酬が有るんだ。後は日課放置かな。ハルさんと話をしている間。寝る前には電源切るけど。ダメ?」

 「大丈夫だ。ポータブルバッテリーが有って困るわけじゃない」

 カイの言葉に反対などできるはずがない。第一、春久のポータブルバッテリーなら、ケトルが沸かせるだけの容量はある。そのケトルが無いので、IHコンロ? まあ、カイがガスバーナーで湯を沸かすのを楽しんでいるから大丈夫か。ああ、LEDなどのバッテリー切れにも対応できる。

 

 寝るときには車中とテントに別れることにして、テントは一張り、バッテリーを持っていくので、今回はLEDとオイルランタンも一個ずつのみ。シェラカップは各自持っていくけれど、小物以外はほぼ無し。

 「ハルさん、ハルさん」

 「何? どうした?」

 「どちらか一日、健康ランドに行かない? 泊まれるよ。食事有り」

 カイが地図を指さしながら提案してきた。

 「良いのか?」

 「今日ホテル泊を無くしたからね。俺は外泊だからホテル泊みたいなものだけど、ハルさんは上げ膳据え膳ってわけにはいかなかったでしょう? だからね」

 「いや、俺はお前の料理で上げ膳据え膳だったぞ? それも俺の好みを聞いてくれる飯」

 思わず笑っていた。幸せな味だ。

 「ただ、そこだと畳やベッドの上でノンビリとはいかないぞ? あくまでも仮眠みたいなものだからな」

 「あ、そっかぁ。運転の疲れ取れないね」

 「ただ、温泉は賛成だ」

 「温泉だけならね、こっち。天然温泉」

 タブレットの地図を動かして別の場所を指す。そのままクリックで温泉の詳細まで。

 「ちなみに、キャンパーにも人気の温泉だって」

 「近くにキャンプ場あったか?」

 「探してる」

 「だったら一日目をそこの温泉目的で、俺は飯の旨そうなところを探すよ」

 「りょーかい。キャンプ場……じゃなくても最悪二人で車で寝られるなら良いよね? 温泉入って美味しいご飯食べたらもう、どこでも眠れそう」

 いや。春久は良いんだが、それだと距離が近すぎてお前が逃げるだろう? 

 ただ、今それを指摘すればなんとなく雰囲気が悪くなりそうだから口にしない。いざとなったら春久が運転席か助手席を倒しきらずに眠れば、カイは後部座席を倒して広く眠れるか。足さえ伸ばせればエコノミー症候群にもならずに済むだろうし、途中途中で体をしっかり動かせばいい。

 使いそうな道具は後部座席の足下に置いてしまえる程度にしておけば、カイが寝転がっても何とかなる。二泊ぐらいなら、テント無しでも行けるか? そうすればもう少し荷物を減らせる。

 

 「カイ、どちらの車にする? 明日、明るいうちに座席を倒して二人が寝られるかどうか確認だな。それで積み込める荷物の量も再確認できる」

 「おっけー。そうだね。荷室は俺の方が広いけど、フラットになるかどうかは別だよね。車中泊できるようになると移動範囲が広がるね」

 「そうだな」

 カイは何でも楽しめる。今も楽しそうに地図を見ながら旅行の計画を煮詰めている。

 春久は立ち上がった。

 「今日は俺が片付けをするから、お前が先に風呂に入れ。で、出てきたらベッドを作るのと、このあたりが冷めたらどうやって冷凍室に詰め込むのか、一緒に考えてくれ。俺にはどう考えても入りそうにないんだが」

 カイが振り返ってにっと笑う。してやったり? 相変わらずの腕白坊主ぶりだ。


 

 春久が風呂から上がったときには、キッチンのシンク周りから食事は無くなっていた。オーブンの中も空っぽだ。

 「どこに入れたんだ?」

 「ひとまず冷蔵庫。時期的にそろそろ外に出しっ放しに出来ないからね。明日も食べるよね? 明日、数日で食べ切れそうなものを選んでくれたら、それ以外を冷凍する」

 「了解」

 

 翌日、両方の車の中で寝転がったりシートを倒したりして、積み込める荷物の量を確認。結局カイの車で行くことに決まった。カイの身長だと、後部シートを片方倒すだけで眠れるし、後部シートに当たるまで助手席を後ろにスライドさせた状態で背もたれを倒せば、春久も体を伸ばして眠れる。二人とも車で眠れるのなら、インフレータブルマットよりも毛布を数枚用意した方が良さそうだと言うことも判った。マットは直線だが、毛布なら体の歪みに合わせて形を変えてくれる。床の高さによって調整することもだ。丸めれば、枕代わりにもなる。

 運転席側のアシストグリップにガイロープを二本、助手席に一本、もやいむすびで固定した。運転席側からは左右後部にそれぞれロープを伸ばせば、荷室を三角に囲える。助手席側は左後部に伸ばして簡易カーテンにする。寝るときのお互いのプライベート空間だ。温泉で濡れたタオルを、干しておくこともできる。

 フロントはサンシェードで覆う。リアゲートはどうしようかと思ったが、スモークシールドなので、中を覗こうと思わない限りは外からは見えないだろう。ということで、そのままにすることにした。一番の理由は、開閉に布を挟まないか気を遣うのが面倒だから。そこまで確認してロープを回収。ロープは布の長さを確認するために部屋に持ち帰った。

 シーツとバスタオル二枚で何とかなれば良いんだが。後は洗濯ばさみを用意して、ロープが多少斜めになってもずれ落ちないようにした方が良いことも確認。それは春久が買っておく。

 

 車が終われば、今度は家の中だ。二人で朝食と昼食を食べた。確かに、全部冷凍する必要はなかった。

 その後、夕食と翌日の朝食にするものを問われ、それ以外のものを全て冷凍室に収められた。製氷室の氷まで放り出されたけれど。まあ、人が来るわけでもないので、取り急ぎ氷は必要ない。

 「なんとか入ったけど、入らなかった物は早めに食べてね。作りすぎた?」

 「いや全然。また食べ尽くすよ。お前のお陰で力が出る。コンビニのむすびじゃ物足りなくなったんで、口が肥えてきたってことだな。またお前に色んなものを作ってもらうためにも、旨い店に連れて行く。そうしたらお前、それを真似てなんか作るだろう? それも楽しみになった。キャンプ用にアレンジも良いな」

 「俺の料理は基本、漫画のアレンジだよ。後は適当」

 「適当で料理ができるんだから、すごいな」

 春久が笑えば、カイも満更ではなさそうで、少しだけ鼻の頭を掻いてからにっと笑った。

 

 帰り際、カイは自分の荷物を拾い上げながら

 「またツーリング土産持ってくる。なので、ハルさんも無理しないようにね」

 「判った。待ってる。俺の予定は知らせるんで、出来れば俺が居る時間帯にな。来る日を教えてくれれば、ケーキぐらい買っておくぞ」

 「夏になってきたから、チーズケーキでお願いします」

 「よし。判った」

 きちんと日時を知らせてくると言うことだ。それだけで満足。いや、それだけじゃないな。しっかり料理を作らせてしまって、職場に持っていくクッキーも大量に作ってくれたんだから、大感謝だ。

 

 次の出勤は翌日、朝から、と言うことで夕食もしっかり食ってしっかり眠った。


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