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男だけのクリスマスパーティ

 出迎えに行けば、両手にまだ見ていない袋を持っている。「こっち、三人のお土産が入ってる。ハルさんのは一番小さいのね。で、こっちがハルさんへのクリスマスプレゼント」

 「ありがとう」

 素直に礼を言って、サンダルの袋を受け取った。

 「で、これが、ハルさんの誕生日プレゼント」

 「は?」

 そっちは聞いていないが?

 「オイルランタンの、俺の持ってる奴と色違い。夜、ベランダに吊して火を付けると癒やされるからね。焔の揺らぎは心に良いんだよ」

 「カイ」

 「何?」

 「頭を撫でていいか? 撫でまくってやりたい気がするんだが」

 「き、却下!」

 「もう持って下りる荷物は無いのか?」

 「これで全部……じゃなかった。着替えとパソコンと教科書! 取ってくる!」

 脱ごうとしたサンダルをはき直し、またバタバタと出て行く。普通ここは、なで回しオッケーだろう? まあ、感動したことは感動で返すことにする。

 

 鍵を掛けるから急ぎ使う荷物が入ってないことを確認して、春久は男四人が集まっての食事会の邪魔にならないよう、カイのバッグを自分の寝室に入れた。

 「あ、ツリー!」

 ペーパークラフトで、ツリーのイラストが印刷されている二枚の紙を交差させるだけ。それでも有るだけで、少しは雰囲気が出る。

 

 「お前のケーキも冷蔵庫に入れた。その代わり、肉や魚は出しっ放しだ。エアコンの温度は低めにしているから傷まないだろう?」

 「オッケー。すぐに料理に取りかかる!」

 「エプロンは、シンクの上に出してる」

 「ありがとう。調味料は?」

 「ケースの有る物はケースに詰め替えた。瓶類はいつものところに並べた」

 「オッケー。じゃあ、ハルさん、アジを袋に入れて、小麦粉入れて、空気を入れたら振っておいて」

 「判った」

 

 狭いキッチンだから、横並びで、カイの言う通りにする。豆アジの南蛮漬けは春久の仕事になった。手順はちゃんと教えてくれる。

 袋の中で小麦粉まみれになったアジをしっぽを掴んで引っ張り出し、二匹を軽くぶつけて余分な粉を落として油に投入。中火でじっくり揚げれば中までかりかりになり、三杯酢に漬け込めば中骨まで食べられる。その間にカイは、鶏肉にスパイスと塩胡椒、砂糖とみりんを振りかけて揉んでいる。

 「砂糖を入れるのか?」

 春久が甘い物は食べないのを知っているカイのやり方に、少しだけ疑問を挟んだ。

 「テリが出るのと、肉が軟らかくなるからね。甘く感じるほどは入れてないよ。醤油は焼き上がりに皮に塗ると香ばしい香りがするから後で。焼くまで冷蔵庫で味を馴染ませる」

 甘くないらしい。だったらオッケーだ。

 

 「俺はお前の頭を撫でたいけどな。凄いなと、褒めてやりたい」

 「あのね、ハルさん。俺はこの距離に居られることが、自分でも凄いって思ってる」

 狭いキッチンで、肩が触れそうになる距離。言われてみれば確かにそうだ。以前は交互にキッチンに立っていた。

 「そうだな。そのうち、突くぐらいなら平気になるか。お前も成長しているってことだな」

 「子どもじゃ無いけど?」

 「子どもで良いじゃないか。人の成長なんて差が有って当たり前なんだから。うちの同僚たちでも同じだよ。もうちょっと勉強してこいと思うような奴と、素直に凄いと思わせる奴。お前は素直に凄いと思わせる奴、だ」

 「照れる」

 「ははは」

 隣あって話をしながら料理をする。時間をおいた方が良いもの、冷めても大丈夫なもの、冷めてもレンジで温め直せば大丈夫なもの、できたてが一番なもの。順番も考えて、カイは料理を作っていく。

 

 

 夕食時間より少し前に、午後から休みを取ると言っていた垣内と、時間休が取れるからと言っていた戸野原がやってきた。

 「手ぶらでと言われたんで、そのとおりにしたぞ」

 「秋津君には、これ、うちの奴から。以前言っていただろう、お薦めのチョコ」

 「ありがとうございます」

 部屋に入ってくるなり戸野原がカイに箱を差し出すから、カイはエプロンを外して急いでそれを受け取った。

 「んじゃあ、そのカイからだ。ツーリング土産だそうだ」

 春久が戸野原と垣内にカイから預かった袋を渡す。

 「そりゃ手ぶらじゃ悪いことをしたな。また今度の機会に」

 「いえいえ。それから、薄力粉が余ったけど、放っておいたらハルさん絶対に使わないだろうから。植物性の油とタマゴと砂糖と小麦粉だけで作ったクッキー。ネットで分量は調べたんで、味は大丈夫だと思う。持って帰ってください。ハルさんは職場に持って行くっていうから」

 そう言って、袋に分けたクッキー、子どもの小さな垣内には少量、食べ盛りの子どもがいる戸野原には結構量の入った方を渡した。それを合わせたぐらいを一つ、春久が職場で渡す用、一番少ないのをカイが持ち帰る。

 「すごいな」

 「生地を作ったのは俺だけど、丸めて切って焼いたのはハルさんだから」

 「粉物を残すと虫だらけにするだろうって言うんで、言われた通りに筒状にまるめて、切って、鉄板に並べただけだよ。その間、カイが料理をしてくれた」

 「ケーキ置くところ有る?」

 「無いよ。あれは後でお前が食え。残ったら持ち帰れ」

 「ええ~」

 「そこは素直にありがとうだろう」

 「ありがとうございます」

 この素直さは反則だろう。けれど、表情には絶対に出さない。ポーカーフェイスを守る。守れたと思う。

 

 「基本的にこの机の上の料理は、カイが作ってくれた奴だ。俺も手伝ったのがいくつかある」

 「秋津君が料理をするのはキャンプでも何回か見ているが、丹波の料理は怖い物見たさ、って奴だな」

 「ハルさんは頭が良いから、説明しただけで理解してくれるし、そのままの流れで続きまで全部やってくれるよ。あと、キッチンの中は全部綺麗になって、使った物は乾燥中。手早いよね」

 「好き勝手言ってないで。ビールは最初の一本だけだ。炭酸系ならいくつも入れてる。それで我慢して、帰りにはアルコールチェックな」

 カイに褒められると照れる。照れ隠しもあって、急いで飲み物を聞いた。

 「秋津君、炭酸系、何がある?」

 戸野原はカイが飲み物を把握しているだろうと、そっちに問いかけた。

 「甘くないのが良いかなと思って、強炭酸とか、レモンの奴とか。後は適当に炭酸で割れるように、原液系」

 「だったら、レモンの強炭酸、頼む」

 「ノンアルもあるよ? ハルさん、戸野原さんにって、そっちも入れてる」

 「ノンアルは丹波が待機の時の、ビール代わりだな。待機の時は呑めない分、尚更飲みたくなることが有るんだ」

 戸野原とカイが、頭を突き合わせて袋の中を漁っている。カイは気づいていないのだろうけれど、距離近すぎないか?

 

 「このスパゲティーは?」

 垣内が示すのは、三種類のスパゲティ。それぞれ皿に載っていて、自分で取り分けるようになっている。

 「茹でて三等分して、三種類のソースと和えた奴だな」

 「こっちの魚は?」アジの南蛮漬けを指さして。

 「俺が作った。聞きながら」

 「刺身は?」まさかそれも一からか?と聞きたそうな顔で。さすがにそれは無理だ。

 「切れてた奴を適当に盛りつけただけだ。後はピザも、チルドのを買ってきて焼いた。どんな風に焼くのか、やって見せてくれた分だ。足りなければまだある。それ以外は基本的にカイが作ったよ」

 「すごいなぁ」

 「日頃のお礼ってことだ。来年もまた、キャンプツーリングにも行きたいしな。俺も警察官になって、ずっと寮や官舎暮らしだったから、友人を呼んでの宴会は大学以来なんだ。なので今日は付き合ってくれ」

 

 「飲み物決まったよ」

 カイの合図に、全員の手にコップが握られ、取り皿や箸も充分用意されていることを確認した。

 「オッケーだ。それじゃあ、乾杯」

 四人がグラスを重ね合わせる。春久は一気にコップを空にした。旨い。

 

 料理はカイ以外が殆ど食べ尽くした。カイにはお楽しみがある。だから、自分の前にあるチキンとスパゲティを少しずつ、後は春久の作った南蛮漬けを一匹。垣内が「小食だな」と言うから、

 「一人でケーキを平らげて貰う予定だからな」と、春久が茶化した。

 「ホールか?」

 「ホールだ」

 「それは是非とも見てみたいなぁ」

 「まずはテーブルを片付けてから、だな」

 ほぼ食べるもののなくなったテーブルの上。皿を集めてシンクに入れて、布巾でテーブルを拭く。飲み物はアルコールの一切入っていない炭酸水に、コーヒー。カイは緑茶だ。

 「ほら」

 冷蔵庫から出してきたケーキの箱。一人で食べるだろうから、大きさは考えた。それでも、ショートケーキ六つ分ぐらいの大きさはありそうだ。

 上には丸ごとイチゴとスライスされたイチゴで作った花が載っているが、そこに箱の外からは見えなかった緑のリボンが鮮やかに流れている。実はそれが抹茶味のクリームなのだ。相手が男だとは言わなかった。祝いのケーキで、抹茶味が好きなのでそれを取り入れて欲しいと。後はお任せにしたら、何故か大きなイチゴの花が載っていたのだ。緑のリボンが花とイチゴを飾るようにして、側面にまで。思った以上に鮮やかに仕上げてくれた。

 「みんな食べるよね?」

 戸野原は顔の前で手を振るし、垣内は「いや、甘そうなんで止めておく」と口にする。カイはじっと春久を見る。

 「お前の分だと言っただろう」

 「ハルさんの誕生日ケーキに少しだけ分けてあげるよ?」などと言って包丁を取りに立ち上がるから、急いでその服を捕まえた。

 「俺の誕生日はまだ先だ」

 「プレゼントは受け取ったじゃない。だったらケーキも受け取るよね?」

 「カイ~」


 「丹波、お前の誕生日、十二月だったか?」

 「そうです」

 「春久、だろう。春生まれだと思った」

 「『寿ぐ』の漢字とどちらにするか考えて、結局『久しい』になったらしく、新春を祝う意味も有ります」

 「そりゃあ、祝いは必要だな。今度持ってきてやる」

 「勘弁してください。もう、誕生日だという歳でも無いので」

 「プレゼントは貰ったんだろう?」

 戸野原がニヤニヤしている。

 「キャンプ道具だと言うから、受け取ったんです。オイルランタン。そう言えば、何か大きいのが二つ入っていたか……」

 「片方はパラフィンオイルだよ。オイルが無いと使えないし、灯油でもいいけど、パラフィンオイルの方が煤が出ないし、扱いやすいからね。後、虫除け用のオイルにした。日頃のお礼で奮発した」

 「そのケーキは俺からのクリスマスプレゼントだから、お前が食え」

 「俺のだから好きに分ける」

 「片付けるぞ?」

 「今から食う!」

 「食ったばかりだろうが」

 「ケーキは別腹」

 ああ言えばこう言う……。


 

 戸野原と話をしているうちにちゃっかり包丁を取ってきていたカイは、厚さにして二センチ程度に切り分け、皿に乗せたが、厚みが無いから、ケーキはぺたりと横たわる。それを春久の前に置いた。

 「歌が欲しかったら垣内さんに頼んで。きっと子どものために歌い慣れてると思う」

 「歌ってやろうか?」

 「止めてくれ」

 「だったら折角の誕生祝いだ、イチゴを一個、クリームは出来るだけ付いてないところを置いてくれ」

 垣内が皿を押し出すから、花のように組まれているスライスイチゴを崩して、二、三個、乗せた。それならクリームは一切付いてない。

 「これで充分」

 カイは今度は戸野原を見た。戸野原は笑って「だったら、丹波と同じぐらいで」と、言うから、カイは素直に新しい皿に薄いケーキを載せた。

 「お前が全部食えば良かったのに」

 「さすがに一気には無理だし、生クリームが傷むのも困るから」

 普通のショートケーキぐらいの大きさに切り分けた物を自分の皿に。それでも四分の一しか減っていないけれど、カイは残ったケーキを箱に戻し、いそいそと冷蔵庫に片付けた。


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