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星の下で、動く

 

 「カイ、ここは管理人は常勤か?」

 カイが顎を上げて春久を見る。カイが起き上がると子供たちも同じように起きるだろう。荒事は三人に頼って良いのだと、寝転がったまま。

 「平日は居ないけど、基本土日祝日には居るよ。今日は風呂がある日だから、居るはず」

 ボイラーの火を点けたり落としたりするのも管理人の仕事で、人の少ないときは管理人も居なくなり、風呂は休みになるらしい。その時は事前に場所の使用許可申請を取るそうだ。今回は管理人が居るから、予約だけして使用許可は当日事務所で受けた。

 「判った。俺が行ってくる」春久は立ち上がった。それから、戸野原の息子たちを見て

 「人が近づいてくるのには、いろいろな理由がある。好意というより、善意、悪意というべきかもしれないが。そこに含まれる可能性をいろいろ考えないと、危険に巻き込まれることもある。今回の相手は悪意が勝っていたようだ。なので、戸野原さんが慎重になった。そういうことだよ」

 それだけを口にし、事務所に向かう。警察手帳がポケットに入っているのは確認済みだ。

 

 春久が戻ってきたときも、戸野原や垣内たち、男ばかり五人が空を見上げていた。

 「遅かったな。どうだった?」

 「ひとまず、今日の使用者名簿を確認させて貰いました。ソロは居ませんでしたよ」

 使用者名簿は連絡先が入っているのだ、個人情報になる。そこは、警察権限を使って確認させてもらった。被害の有無は別にして、実際に詐欺行為が発生している。正式な令状を取るなら裁判所を通す必要が有るのだが、手っ取り早く地元の警察に連絡、口添えをして貰い、キャンプ場も大事になって悪い噂が立つと今後の運営にも関わるので、そこはある程度融通を効かせて貰った。

 春久たちも、大人六人、中学生以下二人、幼児二人、テント五張りで申請している。

 「子供が居るところは除外して、大人三名以上のところは区画確認してきました。戸野原さんが言っていた区画を指定されていた三人組、別の空き区画に移動していました。俺の顔も見られているので、遠くからしか見ていませんが。今日は風が無いこともあってペグを打ち込んでなさそうで、あれ、好きに移動していますね。今は管理人に見て貰ってますが、区画を勝手に移動されると困ると、伝えて貰おうかと思ってます」

 少し早口で、状況を説明する。

 「で、どうするんだ?」

 「被害が出ていないので、警察を動かすわけにもいかず。写真だけでも入手出来ると、調べて貰えるんですけどね」

 「お風呂終わった?」時計を見て「日付変わってる。終わっちゃってる」

 戸野原と春久が大事になりそうだと言っている横で、カイはノンビリだ。確かに、彼には関係無いことではあるが。それにしてもノンビリ過ぎないか? 先ほどまでその火の粉が降りかかりそうだったのに。

 

 「ハルさん、管理人さん居るんだよね」

 「え? ああ、居るけど」

 「じゃあ、一緒に来て」

 「カイ?」

 「ハルさんがボディーガードだって、戸野原さん言っていたからね」

 カイはブーツを履きなおし、きっちりヒモを締めている。それを見て、春久も何か考えがあるのだろうと、一つ息を吐いた。

 「行ってきます。ここは二人にお願いします」

 カイに引っ張られるように、春久は管理人に居て貰っている方へと動いた。カイのことだから何か考えがあるだろうし、信頼して任せておくことに決めているのだ。

 

 

 「あ、管理人さん!」

 一瞬息を吸い込んだと思ったら、カイがいきなり手を振った。春久にその場で待っていてくれと言われた管理人の方が驚いている。その後ろに春久も付いているのだから尚更だ。

 「済みません。お湯落としたって聞いたんですけど、温くても良いので入れませんか? 星を見ていて、お風呂の時間忘れていて」

 管理人は春久を見ている。警察官だと示したからそれを盾にごり押しされていると思っている? カイ……。何をするのか、一言教えてくれ。顔の前で手を振って断ってくれと言おうとした途端

 「さっきのお姉さん」カイは要注意人物を見つけて、声を掛けた。

 「え? 誰……」

 どうやらカイの顔は覚えていなかったらしい。そうか、カイに意識を向けさせないようにしていた。

 「テント移動させたいって言われたって聞いていたんだけど、もう大丈夫?」

 いや、お前人見知りだろう? 自分から話しかけて大丈夫なのか? そっちが心配だ。

 「え、ええ。こっちの方に空きがあるって教えて貰って」

 「良かった。女の人のソロで、変な人に絡まれていたって聞いていたから、心配していたんだ。今日はグループに交ぜて貰ったけど、俺も殆どソロだから。あ、そうだ。この人管理人さんだから、何か有ったら声を掛けるといろいろ対応してくれるよ。俺もいつもお世話になってる」

 「あ、ありがとう。そうね、そうするわ」

 女の目が泳いでいる。

 「そう言えばお姉さんに絡んでいたって男の人たちって、どうしたの? まだそこに居るの?」

 日付は変わったけれど、満天の星空の中流星が次々と瞬いて消える、そんな自然のショーを見ようとまだ起きている人は多い。カイと話している女は自然、注目されている。

 「あのグループ、さっき着いたばっかりだって言っていたよな」

 近くから聞こえてきた声。遅くに着いたばかりだからと言い訳してバタバタテントを立てていたのに、彼らも知らない他のグループの人間といつの間に話をしていたのかと、不審の声。

 「昼ごろからいらっしゃいましたよ」

 先ほど二人で管理簿を確認したから、管理人が自信満々で後押しする。

 

 「え? 何? 嘘?」

 「お姉さんの場所ここじゃ無いよね? 他の人たちもぎゅうぎゅう詰めより間が空いている方がノンビリ出来るだろうし。ペグまだ打ってないの? 山の上は突風が吹くから危ないよ。他の人まで巻き込んでしまうから」

 「よ、夜遅くにペグなんて打ったら五月蠅いから」

 「でも、巻き込む方が危ないし。で、お姉さんに絡んでいた男の人たちって?」

 カイが春久を見る。

 「一緒に様子を見に行った人が言うには、他にテントなんて無かったらしい」

 もちろん名前は出さない。春久の返事を聞いて、カイが困った子を見るような諦めにも聞こえるような息を吐いた。

 「ここってフリーサイトじゃ無いから、自分の区画決まってるし。管理人さんに事情を話せば考慮してくれるそうだけど」

 「さ、最初に行ったとき、管理人室に居なかったのよ!」

 「なんか、話が全部その場しのぎっぽいなぁ。ダメだよ。嘘吐いちゃ。それから、同じテントの中に人が居るって事は、ソロでも無いってことだよね。さすがにライトで陰が出ることぐらいは想像着くよね」

 

 そこまでカイに指摘されれば、先ほど彼らと対応した身としての不信感の籠もった視線を送るしか無い。もちろん最初から不信感というか、彼女の言葉に信は置いていないけれど。あくまでも指摘されて初めて気づいた振りだ。

 「女性のソロキャンプで、男に絡まれているから助けて欲しいって話じゃなかったかな」

 「今着いたところだからって言われたけど、そう言えば車の音しなかったと思ったんだよな」

 「え? テント立ててたの、男だったよな。グルキャンだって」

 春久の言葉に、周りのキャンパーたちもザワザワと違和感を口にし始めた。

 「ちょっと、話聞かせて貰いたいんだけど」

 「な、なんでそんなことを」

 「職務質問」

 女は口を押さえ、テントの中から裸足で飛び出してきた男は、いつの間にか来ていた戸野原が押さえてくれた。もう一人、テントの中で動いていない。けれど、他のキャンパーの明かりがテントを透過して、中でうずくまっている人物が居るのは判る。

 「済みません、緊急事案なので110番して貰って良いですか? 三名確保したと言ってくれれば伝わります」

 管理人に言えば、彼は急いで携帯電話を出してきた。

 

 山の上、パトカーの到着は遅かったけれど、周りは興味津々で行方を見守っていた。むしろ野次馬が増えている。あれこれ言い訳していた三人組が、渋々荷物検めに同意するのを待って、制服警察官が、テントの中から荷物を出してその場に広げ始めた。

 「それ! 俺の!」

 という声が上がったのを皮切りに、いろいろ出てきた。なんと、クーラーボックスの中から、財布なども。近くのキャンパーたちは急いで自分の荷物を検めている

 彼らの写真も撮られて、本部に回され、すぐに身元も確認されているし、管理人は管理簿に記載された連絡先やチェックイン時間などを知らせるために、警察官の一人と管理人事務所に向かう。

 

 「それじゃあ、後はお任せします」

 警察官たちに挨拶をして、春久も自分のテントに戻った。

 戸野原には逃亡者を押さえて貰った礼を言い、その戸野原と一緒にカイには先にテントに戻らせていた。深夜、頭の上を次々と星が流れていく。こんな事が無ければ、みんなで流星を見ながら楽しんでいたのにと、がっくり力が抜ける。

 自分たちのテント区画に戻って驚いた。

 カイ一人が、まだレジャーシートに寝転がっていた。

 「お帰りなさい」

 「ただいま」

 「何か飲む?」

 「いや。良い。眠りたい」

 「明日、戻るの昼からでも良いよ? その代わり、来学期の授業計画メールでよろしく」

 「昼から?」

 「戸野原さんが、食材残ってるから昼までは付き合ってくれるって。だからしっかり寝て良いって言ってくれたよ」

 「お前は?」

 「流星群見てた」

 春久もその隣に寝転がった。星が綺麗だ。

 

 「さっきは驚いたぞ」

 「さっき?」

 カイの視線も空に向いたままだ。

 「人見知りのお前が、いきなりあの女に話し掛けたりするから」

 カイはしばらく黙っていたけれど

 「ハルさんが着いていてくれたから、かな。それにせっかくみんなでキャンプを楽しんでくれていて、特に戸野原さんの息子さんたちなんて、来て良かったって言ってくれたのに、ケチが付くの嫌だからね。垣内さんちのチビちゃんたちも危ない目に遭うの嫌だし。ソロで来てたら、我関せずで終わりかな」

 「そうか」

 カイなりに、みんなで遊ぶこの場所が心地良いと思ってくれ、勇気を振り絞ってくれたらしい。

 

 「連中はいったん近くの署に身柄確保で、明日、ここのキャンパー全員に自分たちの荷物を改めて貰って、必要な人間には被害届を出して貰うようだ。今日はもう寝ろよ」

 「うん」

 それでもカイは動こうとはしない。

 「寝るのならテントに入れよ? 夜露に濡れると、風邪を引くぞ」

 再度注意した。それでもカイは動かない。

 「カイ? 言いたいことが有るのなら聞くぞ?」

 小さく息を吸い込んで

 「本当は怖かった。ハルさんが無事に戻ってきたから、安心した。お休み」

 それで自分のテントに飛び込んだ。あれほど、端は危ないからテントを替われと言ったのに。

 仕方が無い。三人組は掴まった。パトカーがまだ居るのに、悪さをするのも居ないだろう。先ほどみんなにパラコードを配っていたぐらいだ、子供じゃないのだからと信じるしかない。


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