表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/50

休み明け

 「休み中に、何か良いこと有りました?」

 部下に問われて顔を上げた。

 「俺が?」

 「なんとなく、楽しそうなので。それとも今日の出先にいい女が居るとか」

 溜息を吐いた。

 「今日は一日事務所仕事だよ」

 

 昨日の夜「家に着いた。お休み」と一言だけのメールが入って、やっぱりバテたかと苦笑した。

 結局、二人とも何も買わなかったのだけれど、形だの大きさだの色だのと、展示品や空箱の色シールを前に言い合ったのは初めてだった。

 これまでは日用品や食料ばかりで、どちらかが「これ」と言えばそれで終わっていたのだ。

 キャンプ用品に対するカイのこだわりは相当なもので、体力のことなど忘れて歩き回った挙げ句、あっさりダウンしたらしい。

 

 カイが気遣ってくれた土産の珪藻土のコースターに目をやった。楽しかったのはカイとショッピングセンターを回ったこと、完全なプライベートな時間。

 それを……出先で女? お前は何を考えて仕事をしているのかと問いたい。折角ストレスを解消して快適に仕事が出来ると思った矢先に、朝からでかいストレスを押し付けてくる。

 「班長の頭越しに出す書類が有るなら受け取るが?」

 書類が山積みになっている春久の机の上を見て、それでもまだ出したいのであれば。

 「あ、い、いえ。何でもありません!」

 飛んで逃げた。

 「丹波長。書類、いくつか引き受けようか?」

 「とりあえず締めきり別に分けるので、間に合わない奴が有れば、お願いします」

 隣の係長に声を掛けて貰って、春久は頭を下げた。たった一日の休みで、なんでこれほど書類が溜まる? 春久が休みになるのを狙って積み上げたとしか思えない。こんな時こそ注意しないと、怪しい書類が紛れ込まされたりするのだ。

 

 課長の決済が必要な書類、他の係長に渡す書類。春久は立ち上がり、机の上に積み重なっていた資料を持って、班長の机に置いた。

 「回覧分。よろしくお願いします」

 その下に隠して、と言っても班長からはちゃんと認識して貰えるように一枚だけ大きくずらして書類を挟み込んでおいた。

 「了解です」

 危惧していた通り、班長の頭越しに提出された書類。班長に相談出来ないこと、特にコンプライアンスや内部告発ならそのまま上や横に渡す。けれど、班長が目を通さなくてはならない資料であれば、きちんと差し戻す。班長は最上段の冊子を拾い上げて付箋の部分を開き、そこに問題の書類を挟んだ。まるでじっくりと雑誌を読んでいる振りで書類を検分している。

 「係長、手持ちの書類、明日の午前中に上げるので間に合います?」

 今渡した書類の話。出した本人は居ない。ホワイトボードを見ると出先となっている。帰って来るのを待つ? 帰ってこない可能性も有る。相手に掴まって巡回が長引いたとか何とか理由を付けて。明日も朝から出てくるようだから、事情を確認するのは明日になるか。

 「明日は十時から約束があるんで、明日中に上げてくれれば構いませんよ」

 「判りました」

 「丹波長、済みません、今の仕事の段取りで打ち合わせのお時間貰えます?」

 「もちろん。今日はずっと居るんで、時間はそちらの都合に合わせます」

 「助かります」

 「丹波長、ちょっと」

 他の係長から呼ばれて一緒に席を外す。フロアにある自動販売機でコーヒーを購入し、側のソファーに座った。

 

 「俺が休みの時、うちのメンバー、何かしでかしました?」

 先ほどの書類のようなことが他にも有ったかと、少しばかりうんざりした口調になってしまった。

 「違うよ。注意喚起。最近、下の連中で悪い遊びが流行ってるようなので。中途採用が、夜勤の弁当は経費で出るなんてからかわれたのを真面目に受け取って、領収書出してきたんで、うちの班長が叱ったんだよ。どうも、県内全域でその手の悪さが流行っているようで、昨日一応係長たちとは情報共有したんでね」

 こういった情報共有は大事だ。わざわざ教えてくれたことに礼を言う。

 「だったら、今日のは確実に、俺の見落としを狙ってましたね」

 「は?」

 「新卒五年目の奴です。班長の頭越しに書類を出してきてましたよ。弁当三人分」

 中途採用が知識不足を突かれてやってしまったのなら、新卒は判ってやっているということだろう。新卒五年目。二十二で仕事について二十七。カイより年上で、春久と三歳しか違わない。

 もちろんそれが経費で落ちるパターンも有る。純然たる捜査経費の時もあれば福利厚生費の時もあるので、その判断は上長に任されるが。結局は舐められていると言うことか。

 「捜査費名目で?」

 「そうですね。でも例え理由がどうであれ、班長を飛び越して良い書類じゃ無い。注意されたら書類が紛れ込んだと言い訳するつもりなんだろうとは思いましたよ。なので、本人ではなく班長に差し戻しました」

 「ああ、それが良い。なんでこんな質の悪い遊びが流行るのやら。お前ら警察官だろうって思うんだが」

 「それには俺も賛同します。後、公務員なんですよね。詐欺行為、窃盗行為に当たるってこと、理解してないんですかね。懲戒免職物の」

 「まったくだ。一応、課長が警察学校に徹底するように申請上げるそうで、我々も学校に研修に行ったら言われるって事だな」

 「ああ、確かに」

 警察学校を卒業して終わりじゃない。平巡査だと年に一度、上になっても数年に一度は学校に顔を出して地位に応じた研修を受ける必要がある。その研修に、子供でも善悪の判断が付くような薄っぺらい内容が増える。自分で自分の首を絞めていることも理解出来ないのだろうか。友人たちとそんなくだらない事が有ったのだと笑い飛ばしたいが、守秘義務が邪魔をして、関係者以外には話せない。係長になってから、ストレスの溜まり方が明らかに変わった。

 「その研修、招集が来たんで、来月頭から一週間フォローを頼む。昨日他の係長にも話はしたけど、横並び全員、確実に休みがズレるので」

 「了解です。こればっかりは我々じゃあ調整付けられませんしね」

 係長レベルだと、数年に一度、部署単位にして一年に一人から二人は研修に参加して、参加しない年は、参加した同役同士で情報共有だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ