黒根古島奇譚 DAY5つづき
金ピカの部屋は猫型知的宇宙人の宇宙船内だった。主人公と宇宙人との関係は。世界情勢もだんだんときな臭くなってきた。それに対しての主人公の決断は?
DAY5つづき
金ピカの部屋:俺はいったい・・・
映像が消えるとカプセルの窓から三つの顔が俺を覗き込んでいるのが見えた。カプセルの蓋が開き、ぼやっとしていた顔に焦点合うと、金ピカの部屋でいつの間にか三人の顔が俺を笑いながら見ていた。
まずは、親父と言っているネコ顔だ。その向こうには沖縄本島に帰ったはず金城さんが見える。それにもう一人は照じーだ。よく見ると、ネコ顔であるが髪型や皮膚の色やヒゲで違いはあるが、三人は似ている。そして、良く良く見ていると三人とも俺にも似ている。ちょっと歳をとった俺が三人いるような気になった。
親父が俺に「どうだ、ワシラ、似ているじゃろニャ。どうやら分かったようじゃニャ。実は俺達は、親子なのじゃニャ。金城さんと照じーはおミャーの兄弟ニャ。」他の二人が頷く。「金城さんと照じーが俺の兄弟だって?親父の兄弟なんじゃないのか?それより、あんたは死んだんじゃなかったのか?」
親父が、頷きながら優しい口調で話しだした。「まあ、突然言われたらびっくりするわニャ。残念ながら生きてるのニャ。葬式したって?あれはおミャーを呼び戻すために三人で仕組んだ芝居ニャ。すまんニャかった。じゃあ、なぜ呼び返ししたのかというとニャ、おミャーさんがだいぶヒト属生活に疲れてぶっ壊れそうだったからニャ。それとあとで話すがもう一つ理由があるのニャ。ただこうでもしないと、帰って来いと言ってもおミャーは戻って来ないと思ったからニャ、一芝居うったんニャ。」
「しかし、葬式して墓には遺体もあったし、洗骨もしたじゃないか。金城さん、あんたも一緒にしてくれたよね。」「あれはそれらしく作ったダミーなのさニャ。あとで説明するがニャ。」と親父ネコが言う。「ダミーって・・・・?まあ、でも生きているならなんで早く連絡しないんだよ。俺が島に戻ってから五年も経っているんだぞ。ましてや俺しかいなかったのだから、さっさと連絡してくればよかっただろう。いったいどうなっているんだよ。」口は出るが相変わらず、身体はしびれていて思うように動かない。文句を言う俺を尻目に、親父は金色の目の瞳孔を縦に細くし、そして鼻をピクピクさせながらカプセルの蓋を開けて顔を近づけ俺を覗き込んできた。「うお、まだヒト臭いニャ。後で、臭い抜きせんとあかんニャ。すぐに連絡しなかったのは、色々あってニャ。それに小さいながらも観光ビジネスをしている島がワシラにはいい具合の隠れ蓑になるって思ってニャ。我が子ながら良いことを考えたニャ、さすがワシの後継ぎだニャ。」「褒めてくれるのはいいけど、連絡しない言い訳にもなってないぞ。」と俺が抗議するが、意に介していないようだ。しかし、親父たちがニャニャ言うのは、違和感がありすぎて、トホホ感が半端ない。俺の文句はさしおいて、親父が話を続ける。「さて、話を続けるかニャ。少し長くなるから、上の連中が騒ぐと面倒だから、金城さん、しばらくこいつになって、上の騒ぎを押さえてきてくれニャ。」と親父が機械をいじると、金城さんの顔が変化して俺の顔になった。いつの間にか俺の服を着ている。「お任せくださいニャ〜。行ってきますニャ。」と言って出て行こうとしたとき、親父が笑いながら「金城さん、尻尾が伸びたままだニャ。引っ込めて行ってニャ。」と言うと、「おっと、すんませんニャ。久しぶりにヒトになるのでニャー。」と照れ笑いしながら出ていった。狐につままれた気分、いや、ネコにつままれた気分と言うのか。「ポカンとしているニャー。顔が変わったから驚いたのかニャ。中身は金城さんだがニャ。ワシもおミャーらも本当の身体は凍眠状態であそこのユニットにいるのニャ。」俺が親父の言う方向に首を向けると棚の縦横にいくつかのカプセルが収納されている。
「あのカプセルに、ワシやおミャーのシャトネビュロニアンの身体が人工冬眠しるのニャ。カプセルは”ハモニャン”というこの宇宙船の猫脳アシスタントシステムに繋がっていて”ハモニャン”が人工冬眠をモニターしているのニャ。では、カプセルに入っているはずのワシラがなんでここにいるのかという問題じゃニャ。”ハモニャン”はデジタル・トランスフォーマー・デバイスという生物クローンを作るバイオクローン3D細胞プリンターに繋がっているのニャ。そこへワシラの骨格、内蔵、脳、神経機能などの情報と人間のDNA情報を流し込むとヒト属のクローン+アンドロイドみたいなものができるのニャ。それに”ハモニャン”を経由してワシラの脳が繋がるとこういうことになるってことニャ。どうやって繋がっているのかってニャ?詳しい仕組みはわからないが、心理共鳴ミューロンというものニャ。ミューロンって遠くの宇宙からしか来ないと思っているが、実は人体内の放射線同位体崩壊からミューロンが出ているのは知っているかニャ。ミューロンは電波と違ってどんなものでも突き抜けるからそれを脳とリンクすることでどんな場所でも、どんなに遠くでも連絡できるのニャ。出来上がった身体は外見も機能も人だから基本的にはヒト属のできることは一通り普通にできたはずだよニャ?おミャーもお楽しみもできただろニャ。ニャニャニャニャ。今のワシの格好はなにかって?この格好はほとんどカプセルで寝ている本体と一緒じゃニャ。だから、シャトネビュロニアンの本当の姿を見ていると思っていいニャ。しかし、ヒト特有の形に慣れるのは尻尾がないから苦労したニャー。ただ、別の星で百本脚のムカデみたいな奴になったときよりは、ヒト属のほうが簡単だったニャ。ワシは、もうこの宇宙船にいるだけだからこの姿で良いんニャ。尻尾がないとなんかバランスも取れないし、尻尾コミュニケーションもあるし、暇なときに尻尾で遊べないからニャ。」親父は相当尻尾に未練があるようだが、話を続ける。
「女のクローンはいないのか?」と俺が興味本位に聞くと親父はあらたまった顔で、「女はここに連れてきていないんニャ。なぜかというとメスが発情期になるとオスもそれにつられて発情しちゃうのニャ。そうなると色々とややこしいからニャ。メスがいなければオスは発情しないからニャ。」と言った親父の顔が悲しげに変わった。
「悲しいことにおミャーたちのカーさんはシャトネビュロニアン星でおミャーたちを産んでから体調を崩して亡くなったのニャ。悲しかったニャ。そんなときに地球の調査という話しがあってニャ、おミャーたちも一緒に連れてきたのニャ。そうだ、ワシラの本名を教えておかなきゃニャ。ワシは”タマ”、金城さんは”トラ”、照じーは”ジジ”、そしてお前は”テツ”じゃニャ。金城さんと照じーの身体も同じヒト属データをベースに作っているから、お前のクローンみたいなものニャ。元々のネコ属では毛色とか同じ兄弟でも違うのだが、島にいたのは基本四人だけだったからニャ。ちょっとだけ違いがあるけど、面倒だったから、そんなに差をつけていないのニャ。ヒト属でもよく似た親子ってことかニャ。ただし、四十年前におミャーだけをヒト属の特性調査に行かせるためにヒト属の六歳児のおミャーにデザインし直したニャ。あと普通の日本人として成長するように脳もシステムから切り離して、自立学習で動くようにプログラミングをして東京に行かせたのニャ。だからおミャーにはヒトの記憶しかないのニャ。さて、本題ニャ。なぜおミャーだけをネコ属の記憶なしにヒト属世界に送り出したかってニャ?」親父は、ちょっと真面目な顔になって話しだした。
地球に来た理由と”宇宙の根源様”とは?
「その前になんでここに来たのかの説明から始めようニャ。この惑星、ヒト属は地球と言っているようだが、この惑星、分類番号ZZ-2856-2222ほど生物が色々に進化している例はこの宇宙でも珍しいのニャ。その原因は、太陽に対して公転周期が楕円であることから十万年単位で暑くなったり寒くなったりするニャ。それに加えて地軸が数万年周期で変化するからニャ、同じ場所で気候が変わるニャろ。氷河期と温暖期の繰り返しが起こるのニャ。ということはその激しい気候変化に対応するため動物も植物も色々に進化せざる得なかったニャ。だから気候に適応するたびに多様性が高まり、同じ種でも場所場所で大きく変化してくるのニャ。また、時々小惑星衝突や大規模な地殻変動もあるからし、花と昆虫とか生物同士の共進化もあるしニャ、さらに激しい進化が起こってきたんだニャ。ワシラの住んでいるゆっくりと安定した宇宙中心ではこんなことはないニャ。この地球のネコ属はどのようになっているのかを知りたがったのは、ワシラの親分である宇宙の中心にいる”宇宙の根源様”なのニャ。」
「根源様っていったい何なんニャって?根源様はワシラ、ネコ属の親分じゃニャ。根源様も宇宙の中心にいるエネルギーからできている生き物みたいなものじゃが、あまり、聞かれてもうまくは説明できニャいが・・・・分かる限りで言うとニャ。
昔々、まだ単なる知的生物だった根源様が宇宙探索に行った時に、間違えてブラックホールに吸い込まれダークマターとダークエネルギーの狭間に紛れ込んだニャ。その時はまだ、精神と肉体をもった実体のある生物だったが、ダークの狭間の凄い力で分解されて粉々になったんだそうニャ。でも、精神の力が強かった根源様は粉々になった精神を素粒子に置き換えて自分を再構成したのニャ。そう、肉体はないけど精神がある実体=精神体になったのニャ。すると、クォークやグルーオンを直接操ることができるようになって、電磁力・強い力・弱い力の三つの”宇宙の根源力”を制御できるようになったんだそうニャ。その力を使って、自分をダークエネルギーとは正反対のホワイトエネルギー体に変えてダーク宇宙をも制御できるようになったそうニャ。ダーク宇宙もコントロールできるということは全宇宙を操れる力を持てるようになったということニャ。そこで宇宙を眺め直してみたらまだまだ宇宙全体が未完成であり、そこに一番必要なのは”存在の調和”という精神だと悟ったそうニャ。究極の”存在の調和”を創るのが自分の役割だと悟られたそうニャ。しかし、そんな根源様だって生き物だった記憶があったから、ふと孤独を感じられて宇宙を散歩しているときにワシラの星にきたのニャ。根源様としては、宇宙のことばかり考えていて、疲れ切っていた。その時、可愛いワシラがただただ仲良く暮らしていることを見て、癒やされたのニャ。楽しく生きているなら無理して進化する必要があるのかニャ。それこそが調和だと、本質を悟ったそうニャ。だから宇宙の調和のためには、ネコ属が必要だとニャ。だから、宇宙中のネコ属の調査が必要になったのニャ。それで、根源様はワシラにこの宇宙船を提供して調査をさせているのニャね。
さて、次は地球のネコ属の話をしようかニャ。リビアヤマネコから進化したイエネコ属が、ヒト属が苦労して手に入れた肉や穀物をネズミや他の動物から守るばかりか、動物を媒介とする病気からもヒト属を守ってあげた歴史は知っているだろうニャ。それはイエネコ属とヒト属がお互いにメリットがある「相利共生」という関係のことニャ。イエネコ属は豊富な食糧確保、天敵のいない安全な場所を、ヒト属は手間いらずの害獣駆除システムを手に入れたのニャ。こうして、イエネコ属は”ヒト属が自分にとって都合の良い環境を提供してくれる存在”と認識し、自らその社会に入り込むことを選択したのニャ。このプロセスは、ヒト属が牛や豚を飼育するために積極的に家畜化したのとは対照的でニャ、ヒト属が”イエネコ属に選ばれた”ということだとヒト属の学者も言っておるニャ。ここからが、わがイエネコ属の凄いところでニャ。人間との共生が深まるにつれて、わがイエネコ属は人間とコミュニケーションを取るための能力を発達させたのニャ。例えば、野生のネコ属は互いにあまり鳴き合わないのに対し、イエネコは人にも鳴くだろうにゃ。その”ニャーオ”という鳴き声は、人間の子どもの声と同じように高音で、人間の耳に心地よく響くような声に進化したのだからニャ。鳴き声が人に通じることを知っているのニャ。そして、ここが一番の自慢じゃが、鳴き声だけでなく、ヒト属に懐く仕草を身に着けたんじゃニャ。つまりイエネコ属特有の可愛いオーラを出すことで、ヒト属の心を癒やす存在となったのニャ。まさにヒト属の恩人じゃなく恩猫じゃと思わんかニャ。地球のイエネコ属こそ、自らの種としての意思でヒト属と共生して生きる戦略をとった宇宙で珍しいネコ属なのニャ。そして、DNAを調べてみたら、なんとワシラと極めて近いことが分かった。遠い宇宙の中心と果てのこの星のイエネコの遺伝子が近いということは、とんでもないことだと分かるだろニャ。ネコ属は宇宙のどこでも同じ能力を持っているということニャ。これをワシラは星を隔てた遺伝ってことで、ヒト属の”隔世遺伝”を洒落て”隔星遺伝”と名付けたのニャ。
その結果、ヒト属は意識しているのかどうか分からないから、ネコ属を飼っているではなくいつの間にかネコ属のために奉仕する者となったのニャ。古代エジプトでは神にもなっているだろうがニャ。それがイエネコの進化戦略ニャ。そのおかげでイエネコはいわゆるペットとしては約二億匹ニャ。野良も合わせるとヒト属社会で約六億匹という大繁栄時代を迎えることになったけどニャ。こんなに可愛いネコ属が大繁栄している惑星はワシラの星を除けば、どこにもない特別な星なのじゃから貴重なのニャ。ただ、この二百年間でヒト属の人口は十億から八倍の八十億人になったニャ。人口が増えてもヒト属同士、そして他の生物とも仲良くやっているなら問題なかったがニャー。ヒト属が増えることで大規模な戦争とかヘイトとか様々な問題が出てきたのニャ。つまり、調和を望むネコ属と一緒に暮らす資格に欠けてきているということニャ。」と親父は呆れたような顔をして言った。「欠けてきているって、今だって人はネコと共生しているぞ。ネコを見にこんな島に来る人たちがいるくらいじゃないか?」「そうだな。普通のヒト属はそうかもしれんニャ。一番の問題は、欲望に取り憑かれた地球の国家権力者たちなのニャ。資格に欠けるのは己の権力に固執し、自分の欲望のために軍隊と言う暴力兵器を使う連中ニャ。つまり、そいつらが欲望の戦いで核戦争を起こして自分たちだけ滅ぶのはいいが、ヒト属と一緒に住んでいるネコ属も巻き込まれてしまうというのはすぐに分かるだろうニャ。そのリスクがあると思ったのは、第二次世界大戦後ニャ。核爆弾を開発したことがきっかけになったニャ。この島だけではなくて、地球のネコ属の多い地域十五エリアに八十年前からワシラのクローン団を配置していたのニャ。何をしていたのかというと世界の権力者たちの動向・リスク調査といざという時に世界中のイエネコを住んでいる場所からワシラの宇宙船に転送する装置を各地に設置する作業をしていたのニャ。」ヒゲを少しピクピクさせながら親父が言った。「そんな、猫だけをどうやって転送できるんだよ?そんなことできるなら戦争を止めろよ。核兵器だけ宇宙に転送して爆発させろよ。」と言った俺の顔を覗き込んで、”わからんやつ”だという顔をしながら親父は言った。「ネコ属だけを転送できるというのは、ネコ属が発している”癒やしオーラ”を探知すれば簡単ニャ。その時期が近づいたら探知ドローンを一斉に飛ばして、位置を転送装置にインプットすればあとは自動的にワシラの宇宙船に転送されてくるってことニャ。じゃあなんで核兵器を転送しないのかということは、感知しづらいところに保管されていることもあるが、それよりもっと重要なのは、”宇宙生命文明進化不干渉ルール”なのニャ。それは、ワシラが他の星に行った時のルールにゃ。観察はするがその星の生命の進化を助けるとか、進化を止めるとかの介入はしないと言うことニャ。つまり、ヒト属の進化・破滅を決めるのはヒト属だからワシラは干渉しないのニャ。また、例えばワシラが核兵器をヒト属から取り上げても、なんで取り上げられたのかヒト属は分からないどころか、ワシラを敵としてみなして争ってくるだろうニャ。それはヒト属の運命にワシラが干渉することになる。それは、宇宙の調和のルールに反することになるからニャ。ネコ属の救助作戦は、ヒト属が自らの欲望のために自滅の道を歩むことが確定した時点で実行されるから、ネコ属を救助することが、ヒト属の進化・破滅と関わらないことが分かるだろニャ。」と親父は言った。
IS国首都
IS国首都の夜中の公園の雑木林で黒装束の男二人が金属製のスーツケースを穴に埋めている。「アンテナは木の上までとどくようん。あとはスマホで起爆コードを送るだけだん。最初の作業完了だん。」「十箇所で一斉に爆発すればこの街は壊滅するん。復讐の始まりだん。」と仲間を振り返った瞬間、サイレンサーから発射された銃弾が二人を撃ち抜いた。「情報通りす。任務完了す。スーツケースの回収す、アジト捜索して他の奴らの居場所を探すす。まだ八個あるはずす。実行は近いす。急ぐす。」という声が聞こえて数秒後には空の穴だけが残っているだけで、夜蝉の声だけが公園に響いていた。
井戸の上の社員たち
俺が井戸に落ちてだいぶ経つが、海にでているはずの照じーを除く我が社員たちは井戸に誰が入るのかまだ揉めていた。衛星電話で石垣からヘリで救助隊を呼ぼうとしたが、突然、電磁波異常が始まったらしく通じない。
「島主―、返事してよん、誰か早く、降りて行ってよ。ツンパさん、あなたの命の恩人でしょ。お世話になっているのでしょ。早くロープ巻いて降りなさいよぉ。」ゴドーがツンパを怒鳴っているが、ツンパは思考停止なのか体が固まって、動けないまま棒立ちしている。「そうでしゅよ、ツンパさん、早く降りてくだしゃいよ。お先にどうじょ。どうじょよー。ほんまに、どうじょ。」とソン。「ねえ、ツンパさん、なにをしてんのよ、自衛隊でしょ、降りてよ。島主が死んじゃうわよ。あたしが行ければ行きますよ。行けと言われればね。でも。そう、あたし泳げないから。」とゴドーがヤギを見ながら言うと横で気弱そうなヤギが頷く。ツンパはじっと井戸の横で立ったまま。ケツもキンもソンもバストもどうも尻込みしている。結局のところ、全員で井戸を囲んで、「お先にどうぞ」をみんなで押し付け合うコント大会状態。誰も降りようとしなかった。
そこへ俺の家にいたヒトミが騒ぎを聞きつけて井戸へやってきた。「みなさんで井戸を覗いてなにを揉めているの。」とヒトミが言うと、ケツが「お客さん、実は島主がこの井戸に落ちまして、上がってこんのですよ。拙者が行こうと思いましたが、閉所恐怖症に高所恐怖症なので。拙者だけかと思ったら、ここにいる全員がみな閉所と高所恐怖症だと。それで誰が助けに行くのかと話し合っていたんですが。」と言い訳をする。普段は威勢が良いが意外にケツも根性がない。
「ということは、まだ、誰も助けに行ってないの?落ちてからどのくらい経つの?じゃあ、急がないと。私が行くわ。」
「あんた、大丈夫?」とゴドーが言った。「大丈夫よ、こう見えても、洞窟探検もしたこともあるし、知識もあるから。さあ、早くロープをちょうだい。」とソンが持っていたロープを腰に締めて、降りようとしたところ井戸の底から「おーい、ロープを下ろしてくれ。俺だよ。」と声が聞こえた。「あらー、島主が生きてたー。良かったわねぇ、オネーサン。」とゴドーがヒトミに抱きついた。それでバランスが崩れて、ヒトミは井戸に落ちていった。
R国・首都・大統領府
「他の国はどないなっておるすか。シベリアの地磁気異常の原因は分かったのかちゃー。博士、我が国の状況はどないののっち?」と大きなテーブルに端にちょこんと座った神経質な顔の痩身の小男が、ピザを手にし口からは融けたチーズを垂らしている歩く赤いマリモのような女に尋ねた。
「モグモグ、うるさいびぃちぇ、ピザくちょーくるとよ。どうも、磁気異常の原因はA国のせいなののっち。核兵器よりも恐ろしい地中マントルを活発化してマントル噴火を兵器に使おうという計画と考えていると思うのだのっし。ワテの研究と同じ研究してるのびっち。それで地磁気がおかしくなって来たのっちゃとちゃうか。モグモグ。実用化目前ということでシャロ。うちのAIもそう言ってるすかのびっち。」それを聞いて神経質な小男の顔が青ざめて来た。「本当かっち?ということは、このわしの国が攻撃されるというーとらすかびっち?いや、A国の花札大統領は肝はちっちゃい男っち。あいつは戦争をする根性はないぽるか。しかし、戦争をディールに使うことはあるのっち。脅すとすぐに凹むやつーしゃ。すぐに脅すのびっち。」薄ハゲの小男は小刻みに指で机をたたきながら、A国の花札大統領の顔を思い浮かべた。あいつならやりかねない。こっちが有利なことを思い出させよう。アイツの好きなディールとやらをやってやろうじゃないか。電話をとると、すぐに例の映像を全世界に流せるようにTikTokにアップさせる準備をしろと命令してから、花札大統領の番号を回した。
金ピカの部屋:ヒト属の問題
「欲望か。人間ってあれがほしい、これがほしいだの、それが向上心になるってこともあるけどな。だってそれが発明とか発見とかという人間の進化じゃないのか?」と俺が言うと親父は自慢げに言い出した。
「それこそ、おミャーにヒト属の普通の社会生活を送らせた理由という訳ニャ。ヒト属の考え方を俺等が知るためにニャ。赤ん坊で生まれて、カネのために勉強して、カネのために働く人になってカネのために不幸せになることを運命づけられるヒト属独特の思考回路を”ハモニャン”でじっくり分析させてもらったニャ。おミャーのようなただの普通のヒト属でも欲望が中心で生きていることがよく分かったニャ。しかし、おミャーも島に戻ってきたら欲望が少なくなってきたニャ。そこにおミャーの仲間も来たので、彼らも観察させてもらったニャ。みんな欲が無くなって諍いもなくどんどん仲良くなるようだニャ。条件によってはヒト属は欲だけで生きていないことがよく分かったニャ。しかし、自分が凄い力を持っていると思っている国の指導者たちや資本家たちはどうも欲だけで生きてるようにしか思えないのニャ。ヒト属の進化の問題は、身体も脳も大して進化していないのに、心の中の欲望だけが抽象化されて、余計な方向に膨張・暴走することニャ。ヒト属はかつては地球の多くの種の一つであったが、いつの間にか地球を支配する力を持った種の頂点になったニャ。今はヒト属にすべての動植物が従うようにさせられてしまっているのニャ。これで良いのかニャ。ヒト属だけが地球に選ばれた者なのかニャー。ただ、ようやくヒト属もインターネットとAIを発明したことで、すこしはマシになるかと思ったのニャ。グローバルな発想で互いを認め合って、等質化されると思ったのニャ。地球上の情報が言葉は違えど、国を越えて言葉は違えど同じ価値に共鳴して、人類として心の通じ合う一つの種族になるのかとニャ。ワシラもそれに期待していたのにニャ。ヒト属ってネットもAIも良い使い方よりも悪い使い方に知恵が働く脳構造になっているのか、ワシラが予想していなかった事態が起きそうなのニャ。まさか、世界を一つにするよりもバラバラにする使い方をする奴らが出てくるとはニャ。例えば、おミャーらがA国と言っている国の花札大統領っていったかニャ。金と権力好きで自分の言う事を聞く野郎ばかりを集めて、他の国に脅しをかけているのは知っているだろニャ。政治家が嘘や差別語を平気で言うなんてニャ。それはそいつだけの問題だけでなく国家という信頼もなくすことなるニャ。またそんなクソ情報をネタにネットで金もうけするというする輩が出てくるニャ。ヒト属って信じられないくらい欲まみれじゃニャ。人もおかしくなると気候もおかしくなるのかニャ。国家相互の不信、戦争・紛争への不安、異常気象での水害と干ばつ、バカな政策の失敗での世界経済の混乱にIT・AI化での失業不安で、この世界のバランスは一気に壊れ、秩序崩壊するだろうニャ。そんな指導者たちの核兵器を積んでいるミサイル、飛行機、潜水艦はそこら中にいるから、偶発的になにかが起きても不思議はないニャ。あとは言わなくても分かるニャ。それほど危ういのが地球の今ニャ。ずっと先じゃない、あと一年もすれば危機が訪れるのニャ。」と親父はキツイ目をして俺に言った。
「まさか、たったの一年でそんな簡単に危なくなるのかよ。まさか、第三次世界大戦になるっていうのか?」
「第三次世界大戦って意識する前にすべてが終わるだろうがニャ。ミサイルドンパチだから、あっと言う間ニャ。もう一度言うが、ヒト属を絶滅することがワシラの役目ではないし、ほっといてもヒト属の権力者たちが絶滅の道を進めているから、あえて手を貸すこともないのニャろ。そうだ、あほらしいことに、花札大統領は金が大好きだと言うじゃないか。昔から権力者という連中も金が大好きニャ。金は目立つだけでなく、貨幣制度のメタファーみたいなもんじゃからニャ。権力者という奴らはそれを全部自分のものにしたいらしいニャ。部屋を金ピカにしているのも単なる自慢ニャ。でも、この宇宙船の金ピカの理由は違うのニャ。金が余ってしょうがないから金ピカにしてるだけなのニャ。それは冗談として、金は科学的に優秀な金属だからニャ。」
「金が余っているってどういうことだよ?どこから持ってきたんだ?」金が余っていると聞いて、俺はにわかに色めきたってしまった。やっぱり俺はネコではなくヒトなのか。
「おミャーの教育の費用も渡した遺産も、この部屋の壁の金をちょこっと削ったのをヒト属のカネに替えて、作ったたんじゃニャ。金は、この宇宙船の動力である常温核融合装置で作れるんニャ、というか装置から副産物として出てくるから、捨てるほどあるんニャよ。そんな金をヒト属の連中が、ありがたがっているのを見ると可愛そうになるニャ。」と冷たく言い放った。
つづく