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DIVINVM  作者: KennetWrites
9/14

オーラ

朝は静かだった。

いや――静かすぎた。

風さえも息を潜め、街は呼吸を忘れていた。

その中心に、見知らぬ“選ばれし者”がいた。

彼の歩みは嵐の心臓へと続き、

見る者すべての魂を裸にする。


人は、己の影を直視できるのか。

それとも――影に飲み込まれるのか。

【場面 I ― ティベリウム市街 ― 午前8時33分】


カエルは煙の柱の間を進む。

世界は止まってしまったかのようだ。叫び声も、サイレンも、もうない。

ただ静止した死体と、足元で砕けるガラスの音だけが残っている。


倒れた自転車から垂れるマフラーで口元を覆う。

焦げた匂いが、感覚を鋭く裂く。


立ち止まり、地平線を見据える。

選ばれし者の姿が歩み続けていた。

まるで自分こそが災厄の中心ではないかのように、静かに。


(心の声)カエル:

――これが……神々の言う“秩序”なのか?


視線が、薬局の扉にもたれかかる一体の遺体に向く。

老人だ。目は開いたまま、しかし乾ききっている。

魂だけを抜き取られたかのように。


(小声で)カエル:

――お前は……誰だ……?


空気が微かに震える。

まるで何かが応えたかのように。

だが言葉はない。

ただ胸を押し潰す、目に見えぬ重みだけがあった。


【場面 II ― オーラの影響 | 午前8時39分】


カエルは壁に背を預ける。視界が霞む。

まだ内側には入っていない……だが、縁に立っている。オーラの外郭に。


体が震える。耳でなく――記憶で音を聴く。


> 母の声(歪んで):

――また逃げているの……?




> 死んだ友の声:

――お前は誰も救えない、カエル。自分すらな。




頭を抱える。理性を保とうとする。

まだ中ではない……だがオーラが背後から触れる。

奈落に落ちる前の、指先の感触のように。


(心の声)カエル:

――これは力じゃない。これは……裁きだ。純粋で、剥き出しの。言葉すらいらない。


一つの人影が近づく。

先ほどの災厄を起こした男ではない。

清掃員の制服を着た青年だ。まだ意識はあるが、完全に衝撃に呑まれている。


カエル:

――大丈夫か? お前も……感じているのか?


青年:

――……思い出したくなかった……あれを、もう一度見るなんて……


青年は膝をつき、泣き崩れる。カエルは沈黙したまま見つめる。


(心の声)カエル:

――これは攻撃じゃない。試練だ。内側からしか開かぬ、心の牢獄。


【場面 III ― コーデックスと決意 | 午前8時47分】


上着の下に隠していたコーデックスが震える。

カエルが取り出すと、ページ上の文字が赤熱する。


> 「嵐の眼へ入れ。己を生き延びよ。」




カエルは息を吐く。震える手。

崩れた塔の前に立つ“彼”を見やる。両腕を広げ、十字のように。


(小声で)カエル:

――生き延びる……? それだけが……残されたことか……


ゆっくりと、しかし決して揺るがぬ一歩を踏み出す。


(小声で)カエル:

――クソくらえだ……神々め……


一歩。また一歩。

黄金のオーラが彼を完全に包み込む。


目を閉じた。


コーデックス・グノーシス・デイ ― 第九断片


> 魂が境界を越える時、

そこに待つのは神でも魔でもなく――己自身である。


己を知らぬまま光に入る者は、

自らの影に皮を剥がれるだろう。


選ばれし者は炎で裁かず、

真実で裁く。


埋葬できぬ記憶ほど純粋な地獄はない。


裁きは天からではなく、内から訪れる。

光の中には答えはなかった。

あったのは、問いだけだった。


「お前は誰だ?」


その声は外からではなく、内から響いた。

神々はただ見ている。

裁くのは、いつだって自分自身だ。


そして、カエルは一歩を踏み出した。

二度と戻れぬ場所へ――。

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