最初に選ばれた者
ティベリウムの街は、いつもと変わらない朝を迎えていた。通勤ラッシュの喧騒、ビルの谷間を吹き抜ける風、そして人々の心に渦巻く日常の煩雑さ。しかし、そのありふれた光景は、一人の男の出現によって一瞬にして塗り替えられる。白と金のローブをまとったその人物は、世界の中心で静かに立ち尽くし、破滅の序曲を奏で始める。
遠く離れた場所では、平凡な学生カエルが、自分のノートに突如現れた謎のメッセージに戸惑っていた。それは、彼の日常を打ち破る、運命からの呼び声だった。異なる二つの場所で、異なる二つの運命が交錯する。人類の存亡をかけた、壮大な物語の幕が今、静かに上がる。
シーン1:ティベリウム市街地 – 午前8時30分
薄汚れた路地裏から、白と金のローブをまとった人影が、通勤ラッシュでごった返す道路に堂々と姿を現した。彼は自信に満ち、恐れることなく、道の真ん中に立ち尽くす。
数台の車が彼を避けようと急ブレーキを踏み、玉突き事故が発生する。彼の後ろで停車した車に、後続車が次々と衝突していく。
誰もが彼に道を空けるよう叫ぶが、彼は耳を貸さない。聞く耳を持たないのだ。目に見えない微風が、彼の白と金のローブをはためかせる。周囲にヘブライ語の記号が現れ始め、人々は彼が何者なのかとざわつき、恐怖を覚える者もいる。彼はただ、両手を横に広げていた。
シーン2:学院 – 午前8時14分
カエルは語学の授業中、退屈そうに座っていた。周囲のことは何も耳に入らず、自分のまとまりのない、無意味な思考に耽っていた。
ふと、気晴らしに周囲を見渡す。すべてがいつも通りに見えた。生徒たちは集中し、完璧な姿勢で、黒板に書かれた内容をノートに書き写している。彼もそれに倣おうと、ノートを開く。その瞬間、彼の目は開かれたノートに釘付けになった。まるで目に見えない手、あるいは魔法によって書かれているかのように、ページの真ん中に文字が形成され始めたのだ。
浮かび上がったメッセージは明確だった。
「今すぐティベリウムの中心部へ行け。さもなくば人類は滅びる。」
一瞬、彼は躊躇した。しかし、これまでに見てきたこと、経験してきたこと、そして今まさに目の前で、何もしていないのにノートに勝手にメッセージが書かれるという現象を思い出す。
シーン3:ティベリウム市街地 – 午前8時15分
騒動はさらに大きくなる。クラクションが鳴りやまない。誰かが叫び、別の誰かが携帯電話で録画を始める。通勤ラッシュ時の交通を妨害する狂人がいるという通報を受け、警察もすでに現場に向かっている。
激怒した一人の男が車から降りてきた。アスファルトに彼の足音が響く。
男:「一体、道の真ん中で何してやがるんだ!? 動け、この間抜け野郎!」
男はローブ姿の人物に飛びかかり、その胸ぐらを掴んだ。そして…すべてが壊れた。
彼の瞳孔は開き、体は震え、空の袋のように崩れ落ちた。彼の脳は…停止したのだ。静寂。永遠に続くかのような一瞬。
群衆は凍り付く。後ずさりする者もいれば、悲鳴を上げる者もいる。多くの人々が、カバンやリュックサックなど、行く手を阻むものを蹴散らしながら逆方向に走り始めた。
しかし、ローブ姿の人物は微動だにしない。両手を横に広げたまま、彼は煙のようなものを放ち始める。それはほとんど目に見えない黄金のオーラで、ティベリウムのダウンタウン全体に広がっていく。
空気が変わる。重く、そして濃密になる。
半径200メートル以内の人々が次々と倒れていく。
一人、また一人と。まるで内側から目を閉じられたかのように。
アスファルトの上、車の屋根、市場の屋台の間…あちこちに体が倒れていく。震える者もいれば、硬直して動かなくなる者もいる。まるで空っぽの彫像のようだ。
最初に倒れた男は、ミイラのように横たわっていた。乾いた目、骨にへばりついた皮膚。
近くでサイレンが鳴り響く。数台のパトカーが急ブレーキをかけて停車する。警官たちが銃を構えて車から降りてくる。しかし、彼らは狙いを定めることすらできない。一人、また一人と、地面に倒れ伏していく。
上空ではヘリコプターが制御不能に陥る。オーラがパイロットに達し、彼らが意識を失ったことで、金属の塊が空から鉛のように落ちていく。
ヘリコプターが一機、鋭く降下し、高層ビルの影を横切り、ティベリウムの中心部に墜落した。その爆発が窓を揺らす。至る所で警報が鳴り響く。ガラスが砕け散る。煙と悲鳴が空気を満たした。
それでも…見知らぬ男は動じない。彼はただ歩く。まるで、周囲で崩壊していく都市が何の意味も持たないかのように。
シーン4:カエル – 午前8時15分
カエルは唐突に立ち上がった。説明を求める時間はない。彼は走り出す。頭で何が起こっているか処理する前に、足が動き始めていた。
一体何が起こっていて、なぜノートに勝手にメッ
ージが書かれるようなことが起きたのか、彼は推測
し始める。頭の中にあるのは、最近見た謎の人物、彼の幻視、そして自分の周りで起こったすべての出来事だった。あれは夢だったのか? 幻覚だったのか? 妄想だったのか? そんなことはどうでもいい。この恐怖は現実なのだ。
すべてを無視してきた。すべてを否定してきた。幻視も、兆候も。この現実をもたらしたのは、自分の否定だったのか?
カエルは、恐怖で震える声で、ティベリウムのダウンタウンに向かって走りながら、空に向かって叫んだ。
「神々は…本当に存在するのか?」
コデックス・グノーシス・デイ – 断片VIII
> ベールが破れるとき、信仰は恐怖へと変わる。
> 選ばれし者は我らの中にいる、救済と破壊の力を携えて。
> 彼の両手に、人間と神、両方の運命が委ねられている。
ティベリウムの街は沈黙に包まれた。かつて生命と活気に満ちていた場所は、今や静寂と絶望に満ちた廃墟と化している。黄金のオーラによって人々は意識を奪われ、都市の機能は完全に停止した。この破壊の中心に立つローブの男は、ただ静かに歩みを進める。彼の背後には、崩壊した文明の残骸が広がっていた。
一方、カエルは街の中心へと走り続けていた。恐怖と混乱が彼の心を支配するが、ノートに刻まれたメッセージと、これまでの不可解な出来事が彼を突き動かす。彼は、目の前の現実が、これまで無視してきた予兆の結末であると悟り始める。神の存在、そして人類の運命。彼はその答えを求めて、崩れゆく街へと向かう。この悲劇の果てに、一体何が待っているのだろうか。