絶え間ない邪魔者たち
夜の帳が降り、世界は静寂に包まれる。しかし、その静寂の裏側では、目に見えない論理の歯車が静かに、そして確実に回り続けていた。
カエルは、ただのパターン探しに過ぎないと思っていた。夢、シンボル、そして偶然とは呼べないほどの奇妙な一致。それらは、彼が信じる「壊れた世界」の、不完全な設計図のように思えた。
だが、マルコスとリナという、予期せぬ「邪魔者たち」が現れたことで、彼の孤独な探求は新たな様相を呈する。彼らは、カエルの無機質な論理の世界に、感情と人間関係という予測不能な変数を持ち込んだのだ。
これは、神も信仰も信じない一人の青年が、友情という奇跡と、シミュレーションという悪夢の間で揺れ動きながら、世界の真実へと迫っていく物語の、新たな一歩である。
第四章:絶え間ない邪魔者たち
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シーン1:研究所の空き教室(午後6時42分)
窓から差し込む夕日が、教室をオレンジ色に染めている。カエルの向かい側に、マルコスとリナは座っていた。テーブルの上にはノートが一冊と水筒。ピリピリとした、しかし敵意のない空気が漂っている。
カエルは静かに口を開いた。「…少し想像してみてほしい。これは現実ではないかもしれないが…あり得ることだ」
マルコスが眉をひそめた。「またお前のなぞなぞか、哲学者?」
カエルは続けた。「…誰かがパターンを見始めたとしよう。夢、シンボル…世界の出来事とあまりにも一致しすぎる、あり得ないことばかり。そして、もしそれが、その人物が何かに選ばれたということを示しているとしたら…」
リナは心配そうに尋ねた。「…預言者のように?」
カエルは首を横に振った。「彼は神を信じていない。その一部になりたいとも思っていない。ただ知りたいだけなんだ。これが現実なのか…それともすべてがシミュレーションなのか、実験なのかを」
マルコスは笑った。「…それが宇宙のジョークだとしたら?」
カエルは即座に答えた。「…なら、誰かがそれを動かしている。そして俺は、神よりもそのことに興味がある」
沈黙が訪れた。リナは唾を飲み込み、マルコスは天井を見上げた。
リナは静かに言った。「…もしそれが本物だとしたら?でも神聖なものではないとしたら?」
カエルは深く頷いた。「…それが、俺にとって唯一意味のある問いだ」
シーン2:研究所の図書館(昨年、午後6時12分)
薄暗い図書館。時計は午後の遅い時間を指している。カエルは比較哲学の本に集中し、リナは山積みの本から彼を眺めている。内気だが、興味をそそられているようだ。
リナは小さな声で尋ねた。「…神様って、本当にいるんだと思う?それとも、ただ形になったアイデアに過ぎないの?」
カエルはページから目を上げない。少し間を置いてから答えた。
「…アイデアが、信仰を必要とするものだとしたら…それは自立できないからだ」
リナは彼を見つめ、困惑しつつも魅了されている。彼女が何かを言おうと口を開いた瞬間、笑い声がそれを遮った。
マルコスが現れた。眉には小さな傷、シャツは訓練か喧嘩で汚れている。彼はカエルの答えを大声で笑い飛ばし、尋ねることもなくテーブルに座った。
マルコスは嘲るように、しかし本心から言った。
「は!どこから来た?ひねくれた哲学者の地下室か?」
カエルは初めて顔を上げた。無表情で彼を見つめる。
カエルは静かに言った。「…いいや。誰も、答えに点数がつかなければ、答えようとしない教室からだ」
マルコスは一瞬、彼を見つめた…そして再び笑った。今度は少しだけ、優しく。
「…お前みたいな変な奴、好きだよ。名前はあるのか?それとも実存主義的な格言しかないのか?」
カエルは答えた。「…カエル」
リナは微笑んで言った。「…私はリナ」
マルコスはにやりと笑った。「…マルコス。まぁ、そういうことだ」
短い沈黙。テーブルは、開かれた本やノート、走り書きで埋まっていく。その時初めて、カエルは場違いだと感じなかった。
(カエルの独白)
「俺は友達を探していたわけじゃない。彼らは邪魔者として現れ…そして、常にそこにいる者となった。笑い声、未解決の疑問、そして、もしかしたらそこまで不条理ではないかもしれない奇妙な理論…」
シーン3:カエルの部屋、夜
カエルは一人、机に座っている。書きかけの紙を見つめている。
「仮説1:集団幻覚。仮説2:高度なテクノロジー。仮説3:生物学的操作。」
(カエルの独白)
「俺は信仰を信じない。だが、パターンは信じる。…そしてパターンが繰り返される時…誰かがそれをコントロールしている」
彼は窓に映る自分の姿を見た。七つの印のシルエットが、再び形をなしているように見えた。
シーン4:研究所の外、夕暮れ(午後7時5分)
カエルは研究所の脇ドアから出ていく。空は紫に変わり、分厚い雲が道を塞いでいる。冷たく鋭い風が吹き、彼の息は小さな白い雲となって目の前で溶けていく。
周りのすべてが静止しているように見えた。街灯は点滅し、雨上がりの濡れた歩道は、弱々しい光を水たまりに映している。遠くで、乾いた葉がカサカサと音を立てる。声はない。ただ、沈黙した都市のこだまだけがある。
カエルはゆっくりと階段を降りていく。彼は少し体を縮こめて、ジャケットの中に身を隠した。最後の段で、彼は立ち止まる。空を見て、それから地面を見て、そして何もないところを見た。
カエルは静かに言った。「…もしこれが実験だとしたら…信仰の試練だとしたら…信じる者から一体何を求めているんだ?」
風はさらに強く吹き荒れる。突風が彼の髪をかき乱し、葉っぱが渦を巻く。カエルはひるむことなく、ただ一瞬、目を閉じた。
(カエルの独白)
「俺は自分が特別だとは思わない。だが、自分が偶然の産物だとも思わない。俺が唯一信じているのは…何かが壊れたということだ」
彼は数秒間、黙り込んだ。そして視線を下げ、バックパックを調整し、人気のない歩道を歩いていく。彼の足音が、濡れたコンクリートに響く。カメラはゆっくりと彼を追いかけ、次第に離れていく。
「コデックス・グノーシス・デイ」 - 断片IV
> 「神聖さを疑う者は、価値が下がるのではない…より危険になるのだ」
>
> 「なぜなら、その心は恐怖ではなく…論理によって従うからだ」
>
> 「そして論理こそが…神々が唯一コントロールできないものなのだ」
カエルの背中が、街灯の光の中へと消えていく。
彼の心の中には、マルコスとリナという新たな「変数」が、深く刻み込まれていた。彼らの存在は、カエルがこれまで積み上げてきた論理の壁に、小さな亀裂を生み出した。
「信仰を信じない」と断言しながらも、カエルは今、見えない「誰か」が作り出した、パターンという名の神話に囚われつつある。そして、そのパターンは、彼の人生を、そして彼を取り巻く世界そのものを、確実に動かし始めていた。
彼が探求しているのは、単なる真実ではない。それは、自分の存在理由を探す、終わりのない旅だ。彼はまだ知らない。その旅の終着点が、神の不在を証明する場所なのか、それとも、新たな神話の始まりなのかを。
暗闇の中、七つの印が、再びカエルの影に寄り添うように浮かび上がっていた。それは、彼がこれから歩む、危険な道のりの予兆なのかもしれない。