【短編ホラー】幽霊さん、皿探してます
都内の築浅マンションに引っ越してきたばかりのサラリーマン・田辺。
荷ほどきもそこそこに、ワインを開けて一人祝いをしていると、壁の向こうから女の声が聞こえてきた。
「いちまい……にまい……さんまい……」
(おいおい、まさか隣、皿数えてんのか?)
夜中に数を数える声ってだけで、ちょっと気味が悪い。
けれど田辺は酒のせいもあって「変わった趣味の人だな」で済ませた。
翌晩。
今度は少し小声で、
「よんまい……ごまい……」
(……やっぱり皿数えてる。怖ぇな……)
しかし気になりだすと止まらない。
ついに我慢できず、田辺は壁に耳をくっつけて聞き入った。
「ろくまい……ななまい……はちまい……」
(そろそろ九枚か?次どうなる?)
ドキドキしながら待っていると、
「きゅうまい……あれ?ちょっと待って、どこいったっけ?」
突然、隣の女の声があたふたし始めた。
「ねえ、そこの人ー!うちの皿一枚、そちらにまぎれこんでない?」
田辺は慌てて飛び起きた。
(えっ、俺!?聞き耳してるのわかったの!?)
女はこちらの部屋に向かってトントンと叩いている。
「わかってるわよ」
「えっ!?し、知らないよっ!第一、壁の向こうだし!」
「じゃあ……ちょっと見に行っていい?」
「いや来るなって!!」
次の瞬間、インターホンが鳴った。
モニターには、血の気のない顔色の女が皿を一枚抱えて立っている。
「……あった。隣んちに落ちてた。ごめーん!」
ペコリと頭を下げると、そのままスーッと画面から消えた。
翌朝、田辺のドアポストにはメモが一枚。
「お騒がせしました。引っ越しそば置いときます。」
昨日の皿と共に置いてある…
(幽霊って……意外と礼儀正しいんだな……)
翌日…お隣。
「ろくまい……ななまい……はちまい……」
トントン…
「ねえ、そこの人ー!うちの皿一枚、そちらにまぎれこんでない?」
「いや、あんたが昨日置いてったんでしょ!!」
「ちょっと、そっち行くね!」
「いやいや、もう来るなって!」