3話
新緑が映える快晴の日。サクラは廊下で窓を拭いていた。それをドメニカとマシューが角から覗いている。
「ほら、今がチャンスですよ。さっさと行ってください!」
「まだ心の準備が出来てねぇっていうか……」
「もー!」
ドンッと勢いよく押され、サクラの隣まで来てしまった。
「……!」
よろけているマシューをサクラが抱きとめた。サクラが不安そうな眼差しでマシューの目を見ている。怪我はないのかと聞いているのだろうか。
「お、俺は大丈夫だ!」
そういうとホッと安心した……ように見える。ように見えるというのはサクラの表情がほとんど変わらないため雰囲気でしか分からないのだ。
(って、こんなことをしてる場合じゃない!今日こそサクラとデートするんだ!)
「さ、サクラ。その……この後暇か?か、買い物に行きたくてだな……って!お、俺のためだからな!サクラと一緒にデートに行きたいとか全然考えてないんだからな!」
サクラは少し考え、手でOKマークを作った。サクラをデートに誘うというマシューの計画の第一段階は突破したようだ。
「ほ、ホントか!?じ、じゃあ五時に玄関に集合でいいか?お、俺を待たせるんじゃないぞ!」
そう言い捨てマシューはドメニカの所へ駆けていった。サクラはマシューを見送った後、そのまま窓拭きを再開した。
「ド、ドド、ドドドメニカ!おおお、おお、おれ!」
「いーから落ち着いて下さい!」
「おちつきましたか?」
「あぁ、すまない。そうか……成功したのか……」
「……」
「おい、なんか言え」
「ま、これから先は一人で頑張ってくださいね」
「わ、わかってるさ」
それだけ言うとドメニカはマシューから離れていった。
本館から離れ、使用人の宿舎へドメニカは向かってる。一刻も早くあの場所から離れたかった。
(もう諦めたはずなのに…。私ってばつくづくダメね)
「これで良かったのよ。これで……いいのよ。アンタが幸せなら十分だもの」
そう声には出してみたもののやはりまだ諦めきれてないのか涙が溢れてくる。泣きたくなんてないのに。必死で涙を拭うが溢れていく。
「もう……恋がこんなに辛いだなんて思いもしなかったわ……。あの頃に戻りたい。ただ楽しかったあの頃に……」
そう呟いても時間は進むばかりで何もしてくれない。どうして現実はこんなにも非情なのか。
「成功させなさいよ。アンタの為にも、アタシの為にも」
広く煌びやかな装飾が施された玄関で、マシューはソワソワしてサクラを待っている。いつもより気合いが入っているのか、少し大人びた服装だ。
「あっ、サクラっ!お、遅いぞ。俺を待たせんなって言っただろうが!べっ、別にサクラとのデートが楽しみで予定より三十分早く来てしまったとかそういう訳じゃないんだからな!」
サクラは申し訳なさそうな様子で深々と頭を下げた。まさか頭を下げられるとは思わなかったのか、マシューは慌てて訂正する。
「ちっ、違っ!そんなつもりじゃ……頭を上げろよ!俺は優しいから今日は許してやるよ!ほら、行くぞ」
そうして二人は街へと出かけた。