1話
(サクラだ!今は一人みたいだな)
サクラことサクラ・タニザキは我が家に使えるメイドだ。主に俺、マシュー・リー・アシュビーの身の回りの世話をしてくれる。
サクラの故郷は遠い東の島国だそうだ。マシューの住む国も島国だが、聞くところによると文化や感じ方が殆ど違うものだそう。国から出たことがないマシューにとって異国の文化はとても興味深いものだ。
しかし、使用人の殆どは国から出たことがなく噂程度でしか知ることが出来なかった。そんな時にサクラが来た。これは異国の文化を知ることが出来る絶好のチャンスだ。そう思って何度も話しかけているのに…話しかけているのに!!尽く避けられている。
(そう、11歳の俺でも分かるぐらいに。今日こそ教えて貰うぞ、サクラ!)
今、サクラは洗濯物を干している。ちょうど一人。これなら誰かに邪魔されることはないだろう。
「サクラ!」
サクラは返事をするわけでもなく、ただこちら振り返った。相変わらず無口で無表情だ。
「サクラの国ではどんな音楽が人気なんだ?俺はクラシックとかジャズが好きなんだが…サクラのオススメはあるか?」
「…………」
「……」
(なんか言えよ!!これは考えているのか!?それとも固まっているのか!?あぁもう!なんで何も話さないんだ!)
「サクラちゃん、洗濯物干終わったらキッチンを手伝ってくれないかしら?今日料理長が風邪ひいてて人手が足りないの」
(リオぉぉぉぉ!?お前ぇぇぇぇぇぇぇぇ!)
リオの言葉を聞いて、サクラはチラリとこちらを見る。あちらに向かっても大丈夫かということなのだろうか。
「え?あぁ、行けよ。リオが待ってるからな。べ、別にお前の好みが聞きたかった訳でもないしな」
サクラは綺麗に一礼した後、リオの方へ行ってしまった。
仕方ない、次の作戦に移ろう。しかし、暫くは戻って来れないだろうしな。
とは言っても、
(なんにも思いつかないな)
ある程度の事は実行しているからかもしれない。何度も話しかけたりしたんのだが。
そもそも、友達ってどうやって作るんだ?
(別に友達が少ないわけじゃない!あくまであっちから言い寄ってくるのであって決して!)
「くっそぉ〜!」
「コラっ!そんな言葉を使っちゃダメでしょ!」
「ドメニカ……なんだよお前かよ」
「なんだとは失礼ね!アンタのため来てやったのに酷いじゃない!」
「つーかノックしろよ」
「したわよ!アンタが返事しないからびっくりしたんだから!」
ドメニカ・メオナードは俺の幼なじみで家の使用人だ。まだ子どもだから許されているが、来年からは敬語を使わないとクビにされる。本当にわかっているのだろうか。
「とにかく!もうすぐお食事の時間ですよ。さっさと降りてきてくださいね」
「わかったよ。アメデオは?」
「アメデオ様は自室らしいですよ」
「そうか……なぁ、ドメニカ」
「なに」
「後で話があるんだ。食事が終わったあと部屋に来てくれないか?」
「へ?ちょっ、それって……!」
ドメニカの顔が赤いが大丈夫なのだろうか。
ドメニカは食事中でも顔を赤くして、こちらをチラチラと覗いていた。不思議なやつだ。
夕食が終わり、ドメニカが部屋に入ってきた。