85・番外編5・傍流・1
番外編5ぼちぼち書いています。
【慶長5年10月】
美濃の大戦が終わった。
どうやら上様が亡くなられたらしい。
戦に負けた西軍の奴らは戦場から一斉に逃げ出した。
ここら辺に落ちて来た残党狩りが行われている。
「もうちっと早く来てくれりゃ・・・」
亀吉は踏み荒らされた畑の隅に座り込んでいる。
大戦のあと亀吉が暮らしていた垂井の上中村に、16人の野伏りが現れた。
その16人に25戸、120人以上の村人が全て殺された。
百姓と戦争を生業としている者とでは、そもそも勝負にもならない。
何もできずただただ好きなように蹂躙された。
真田のお殿様の落武者狩りで村を襲った野伏りは捕まり斬首された。
ただ首領の左右の頬に2本の猫ヒゲ傷のある男は逃げおおせた。
お侍様の話しだと、真田の目をかいくぐった手際から、おそらく伊賀あたりの忍び崩れであろうとの事であった。
亀吉は両親、祖父祖母、村の仲間を殺した猫ヒゲ傷を許さない。
「必ず村のもんの仇は取ってやる・・・」
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亀吉は近江の淡海を目指していた。
倒れている時、猫ヒゲ傷が淡海の話しをしていたのを耳にしたからだ。
「引け!そこをのけ!」
若い男の声を聞いた。
草むらをかき分け小川に着くと、旅装束に身を包んだ若い侍が5人の野党に囲まれていた。
野党は西軍の落武者らしい。
「金、着物、刀、全てよこせ!」
野党どもは錆た刀を振り上げている。
それを見た亀吉は村が襲われた事を思い出し身体が熱くなった。
全力で野党に飛び付いた。
「うわっ!何だテメェ!」
男と揉みあい地面に転がる。
その隙に若い侍が刀を抜き一瞬で2人を屠った。
凄まじい腕前だ。
斬ったのは2人なのに何故か5人倒れていた。
切って居ない男の額から棒が出ている。
亀吉が揉み合って転がった男の頭上からも棒が出ている。
「つまらん者を斬ってしまったな」
若い男は手前の倒れた男の服で刀を拭い、3人の頭から先の尖った鉄の棒を引き抜く。
「おい!大丈夫かそこの者」
「かっ、亀吉でごさいます」
「ん?亀か・・・亀を呼んだか?これは面白い」
亀吉は若侍の前に跪いた。
「けっ、剣を教えてけろ!何でもやりますだ!」
若侍はあっけに取られている。
「・・・何か訳があるのか?申してみよ」
亀吉は村の話しと猫ヒゲ傷の男の話しをした。
若侍は暫く考えたうえ、亀吉を従者にし美濃の若侍の屋敷に向かった。
「亀か・・・まぁこれも縁かの。励めよ亀吉」
主様の御流儀は四門流・玄武派と呼ばれるそうで、特に暗器と印字打ちを得意とするらしい。
わしはお屋敷の下働きの合間に、剣と投てきを教えてもらう事になった。
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「亀吉、何故横は切れん?」
「主様、クワは縦には振るもんだが、横には振らねえです」
庭で主様に稽古を受けている。
投てきの方はまだいいんだが、剣がとにかく難しい。
大きく振りかぶって足を揃えて弓なりから斬る。足を大きく開きシコを踏むようにし大きく振りかぶり斬る。これは出来るのだが、横に斬るのが出来ない。
刀は主様がくれた無銘の同田貫って刀だ。ちょっと変わってて普通の同田貫より更に頑丈らしい。
これは昔から身体が硬く滅法丈夫で、村が襲われた時もこの頑丈な身体のおかげで助かった。っと主様に話したら「亀吉に似合いな頑丈な刀が有る」っと頂いたのだ。
持ってみるとほんとうにぶっといお刀で驚いた!
「無銘だから“鬼包丁”と名を付けてやる。そう呼ぶが良かろう」
主様は同田貫清国って刀らしいから、おんなじ同田貫で嬉しい。
オラの命より大事な刀だ。
命より大事っと言ったら主様は「亀吉、命より大事な物な無いぞ」って怒られてしまった。本当に良いお人だ。
「亀吉、鎌は使わんのか?」
「使います」
「大きい鎌で草を払う感じで刀を扱えんのか?」
「承知しました!なるほどそれならいけるかもしんねえ!」
これで上段、左右と使えるようになった。
「主様、今やってるこいつは技の名はあるんですかの?」
「ん?まぁ・・・シトウかの?」
「はぁ〜、何ともけったいな名ですな」
「亀吉よ、お前のその身体の頑強さは良いぞ。それも武器の一つじゃ、もっともっと鍛えるが良かろう」
主様に身体を頑強にする稽古も教わった。
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3年近くの月日が流れた。
相変わらずオラは上段と左右しかできねえ。
そんなオラを主様は凄え上達しているっと言ってくれる。
嬉しいもんだ。
世の中は上様が変わり徳川様が上様になって、都を江戸っちゅう所に移したそうだ。
主様によると戦さはもう無くなるっちゅー話しだった。
茶を飲み主様とそんな事を話していると目の前で主様が消えた!
神隠しのようにきれいに消えた。
「主様?」
消えた所の地面や屋敷の周辺や、井戸の中も探したが主様は見つからなかった・・・
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主様の帰りをふた月待ったが全く音沙汰が無い・・・
(こりゃ神隠しかの?それとも主様が神さんだったのかの?)
亀吉は意を決して屋敷を出る決意をした。
屋敷を隅から隅まで掃除し綺麗に清め、師範代様に挨拶をした。
屋敷は流儀の方々が守っていってくれるそうだ。
ありがたい事に御流儀の方々に引き留められたが、
オイラは正式な流儀の者では無く主様の使用人だから、ここにいて流儀の方々から厚かましく剣を教わる訳にはいかねえ。
そこまで甘えては申し訳ねえ。
ここまで教わった剣で仇を打ちに行くり
この剣がオイラの精一杯だからだ。
新しい都の江戸ちゅう所に行く事にする。
新都であれば人も集まる。
あるいは猫ヒゲ傷も見つかるかも知れない。




