77 番外編2・What a Wonderful World
本編これで終わりです。
「静おばあちゃん誕生日おめでとう!」
「おめでとー!」
「おめでとうございます!」
「おばあちゃんおめでとう!」
うちの長男の重秋と杏の長女の一里との子供で長女の鞘香と長男の鞘内だ。
うちの長女の円と杏の長男の隼人の子、長男の天河と次男の星夜の4人の孫たちが、Web越しに誕生日を祝ってくれている。
モニター越しに一緒にケーキを食べる。
静はいつもの地元のチーズケーキ専門店で、康義が好きだったレモンチーズケーキとオレンジチーズケーキ。
飲み物は康義が好きだった、モカイルガチャフィを淹れ香りと酸味を味わう。
食べ終わると孫たちは近況を話し始めた。ロッキングチェアに腰掛け、両足をオットマンに置き皆の話しを聞いた。
今は色々な人の話しを聞く、こういう時間がとても楽しい。
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私もう76歳になる。最愛の夫の康義さんは1年前に他界。友人達もその前に旅立って行った。
(もう、あたしだけだな・・・)
5年前から神田のお店湖南は円と一里に任せて、自分は両親の住んでいた神奈川県秦野市の家を改築して犬の袈裟丸と住んでいる。
長男の重秋も四門流の宗家になり。天位になったので降魔ノ剣を受け継いだ。
牧野の長男の隼人も侍になり天位になった。
坂市夫妻の長男の渉は国会議員になっている。長女の紡は官僚になった。
秦野に引越した私は、天気が良い日は車で頭高山桜公園に行っている。
春は八重桜が咲き乱れる、日本一の八重桜の公園だ。
鶯の囀りも心地よい。
向こうの世界ではここの近くに康義さんの家があったらしい。
それを聞いた坂市首相はここの奥の、公園に隣接する土地を買い生前に墓を作った。
牧野と杏も墓が欲しいという事で一緒に作った。
現在ここには康義さん・牧野さんと杏・坂市義秋おじいちゃんと妻の八重さんとおけ丸一族のお墓がある事から、英雄の丘と呼ばれている。
展墓に訪れる人も多く一年中献花が絶えない。
左端におけ丸の石像のオケ丸一族の墓。その隣は坂市家・工藤家・牧野家となる。四家とも墓標が地に刺さる日本刀なのがビジュアル的に凄い。
墓と言うよりオブジェのようだ。
もう英雄の丘の名前の方がメジャーになったので、国の方でも名前を変える事にした。2週間後にセレモニーがあり静は主賓として呼ばれている。
名前を変更すると同時に国管理の公園とするそうだ。
ちょうどその頃は八重桜も満開になりそうなので楽しみだ。
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雪華を腰に差し、ゆっくり丁寧に身体の動きと剣の動きを確認しながら振る。
徐々に速くする。
10分ほど稽古をして10分休む。
これを朝晩3セット行っている。
江の島の戦いで身体を痛め、その後も騙し騙し来たが、これまでの蓄積した疲労とさすがに歳も歳なので激しい動きは命にかかわる。
途中から今までと同じ稽古は出来なくなったので、四門流の稽古をおじいちゃんと康義さんに教えてもらった。
それを歳をとってから、毎日必ず欠かさず行っている。
朝の稽古を終え朝食にする。
アッサムティーを濃いめに入れ、ガーバーシルバーナイトのブレードを開けコミスブロートを真ん中から切る。
ブルーベリージャムをシルバーナイトですくい塗る。半分にはスキッピーチャンクを塗り、先に塗ったブルーベリーと合わせる。
甘酸っぱい風味が口の中に広がる。最後はアッサムで口の中をさっぱりさせてヨーグルトを食べる。
(康義さんはどっちかっていうと、アメリカンブレックファスト派だったかな?)
コンチネンタルブレックファストを終える。毎日の1人だけの朝食はいつもこんな感じ。
皿とカップを片付け、セレモニーに行く準備をする。
久しぶりにバトルドレスユニフォームを着る。
ただしセレモニー用なので色は白く上着は胸ポケットだけ。
パンツ両腿のポケットは無いので、全体的にスッキリしてどこかスタイリッシュだ。
雪華を左手に持ち袈裟丸に首輪をして、オーディオでエンヤのカリビアンブルー・チャイナローゼスを聴きながら迎えの車を待った。
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車から降り薄紅色が満開の公園に入る。
咲き乱れる桜を見上げる。
八重桜はちょうど満開だ。
ソメイヨシノより花数が圧倒的に多いので、花の密度による明るさはただただ圧巻だ。
(八重桜はほんとうに美しいわね・・・)
セレモニーが始まる。
全世界にネットでLive中継をされているからか、市長は緊張気味にスピーチしている。
祝電が読まれる。外国の大使館からなど結構な面子だ。
近所の幼稚園児が花を持ってお墓に歩いていく。
音楽が流れる。
運営の方からBGMの希望を聞かれたので、この素晴らしき世界にしてもらった。
ルイアームストロングの声は、春の暖かい日差しの中とても心地よい。
「ワン!」
「ワン!ワン!」
「ワン!ワン!ワン!」
隣に座っていた袈裟丸が立ち上がり警戒の声を上げる。
周りを警備している侍に緊張が走る。
出た!
オリが7体だ!
吹返が1体いる。
吹返1体と硬種1体は賓客を襲った。
警備の侍がシビリアンを避難させながら何とか対応している。
硬種5体が奥に進んでいる。
まずい!
先には地元の幼稚園児が居る。
静は硬種を押し除け進む先に立ちはだかる。
「下がりなさい!」
静の殺気に押され硬種は足を止める。
後ろを振り向くと子供達が泣いている。
引率の先生も震えている。
「もう大丈夫よ」
声をかけた。
オリが動く気配を見せる。
(これ以上先には進ませない)
子供達の応援の声が聞こえ思わず微笑む。
(私に出来るかしら康義さん、おじいちゃん)
静の顔からスウッと表情が消えた。
足を軽く開き右足を少し前に出し居合腰になる。
雪華の鞘をヘソより前に出し、右手を軽く柄にかける。
大きく深く鼻から息を吸い、細く口から吐く。
ヒューっと息吹きをしゾーンに入る。
深く・・・深く・・・
(四門流奥義・神域)
左斬
右斬
前斬
前斬
左斬
5体のオリが10体になり地面に転がった。
静はその場で膝をついた。
かなり無理をした。
(さすがに・・・身体に負荷を・・・かけ過ぎちゃった・・・)
子供達の安全を確認したところで、意識が遠くなっていく。
康義さんとおじいちゃんがよく歌っていた、この素晴らしき世界が聞こえる。
(あたしの神域は合格かな?)
康義さんとおじいちゃんが首を縦に振っていた。
『静、良かったよ!』
その後ろには杏達もいる。
『静!みんなで迎えにきたよ!』
(みんな久しぶりだね!)
静は康義の広げた腕に飛び込んだ。
「お待たせしました旦那様・・・みんなにも話すことがいっぱいだからね!」
一陣の風が吹き抜け、満開の八重桜が賑やかに音をたて揺らいだ。
番外編2・完




