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07.いなくなった花嫁

「02.騙された花嫁」から続く場面です。

結婚式の翌日夕方──


屋敷内のどこにもリシーがいないことが分かると、キリルはすぐに捜索を指示した。


比較的安全な街とは言え、若い女が一人でいるのは不安だ。ましてやリシーは。


家のルールを覚えるためなどとそれらしい理由をつけて結婚式の二週間前から屋敷に呼び寄せたのも、いま思えば心配ゆえだ。


真面目なアイアスすらも虜にする魅力を持ったリシーを、これ以上自由にさせてやることなど耐えられなかったのだ。


(屋敷の者に気づかれずに出ていったなら夜明け前の僅かなタイミングだ。

 そこから夕方までにはかなり遠くまで移動できてしまう!)


この一帯は貿易が盛んで、基本的に人々の通行が自由だったことが(あだ)となり、行き先は無数に考えられた。


数日経っても足取りの手がかりすら掴めず、キリルはますます焦っていった。


そんな中、リシーを屋敷に迎えて以降、アイアスからリシー宛に幾度か手紙が来ていたことを思い出した。

キリルは、アイアスが父と長期の外遊に出ているところに結婚式の日を定め、二人が接近するのを阻止していた。


本当は、結婚後しばらくはアイアスにも告げず、リシーを屋敷に閉じ込めておこうと──自分だけを見つめて欲しいと──思っていたのに、手を打つ前にリシーがアイアスに居場所を知らせていたのは誤算だったが。


リシーへ渡さず自室の机の引き出しに投げ入れていた手紙の封蝋を手で乱暴に剥がし、中を(あらた)めた。


便箋には、突然で驚いたが結婚は弟の自分にとっても嬉しいこと、結婚式に出られず残念であること、自分も婚約者を紹介したいこと、キリルとアイアス一家とその婚約者で会食したいこと、などが綴られていた。


(愛人などでは無かった…)


実のところ、結婚式翌日のベッドの様子で、いや、それ以前の彼女の振る舞いから、彼女がそんな人間ではないことは()うに理解していた。


改めてそれを眼前に突きつけられ、それまでと比べ物にならないくらい大きな後悔に(さいな)まれた。


*****


しかしその後も、捜索は遅々として進まなかった。


(いっそ金目の物を持ち出して、どこかで元気で暮らしていてくれれば。)


そんな願いも虚しく、衣装部屋の角に置かれた宝石箱には贈ったジュエリー達が規則正しく並んでおり、持ち出されたものはただの一つも無いようだった。


キリルの瞳を思わせる鮮やかな翡翠の指輪も同様に残されていることに、厚かましいと思いつつ落胆した。


そんなとき、宝石箱のセーム革に、指輪を抜き取ったような跡が残っていることに気づいた。

箱の隅の部分にあり、見落としていたらしい。


リシーへ贈った物はすべて自分で選んでいたから覚えているつもりだったが、そこにあったであろう一個はどうしても思い出せなかった。


(リシーを探すヒントになるかもしれない。)


微かな期待を抱いて店の購入履歴と照合してもらったが、残された指輪と履歴は残念ながらすべて一致し、リシーの持ち出した指輪は謎のままだった。


*****


(あとはアイアスだ…)


外遊から帰ってきたアイアス達にすぐさま連絡を取り、リシーの行方に心当たりが無いか尋ねた。


一連の事情を聞いたアイアス一家は当然激怒したが、キリルのあまりの憔悴ぶりに何も言えなくなった。


彼らの元にも何ら連絡は来ず、リシーの行方は(よう)として知れなかった。


*****


季節はめぐり、その年の酒の完成を祝う祭りが再び近づいていた──

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