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03.母と父の真実

キリルがリシーに出会うしばらく前のこと────


いくつもの偶然が重なった結果、父と娘は巡り合った。


あるとき、服の仕立てを頼んできた客が、リシーの指抜きに目を留めた。

その客は隣街の領主の屋敷に勤めているという。


リシーは、普段それをチェーンに通して首から下げているのだが、縫い物をする時だけ、針が当たって指が痛くならないよう指抜きとして使っていた。


客いわく、その指輪──本来は指輪だったらしい──に彫られた紋様は領主が好んで使う珍しいものだが、自分が見たのとはやや異なっているという。


この指抜きは母から譲り受けた物で、母も指抜きとして使っていたので思いもしなかったが、確かに元は指輪のようだった。


母が誰かから譲り受けた物だろうと推察し、母に(ゆかり)のある人間に出会えたことは嬉しかった。


そのときは単なる世間話で終わったつもりだったが、その後、何かの縁だからと領主の衣装の仕立てを依頼され、屋敷に出向くこととなった。


*****


40代半ばだろうか、どこか落ち着かない様子の、優しそうな琥珀の瞳の領主は、リシーを出迎えるなり母の名を叫んだ。


(なぜ来たこともない土地の領主様が母の名を!?)


リシーは混乱したが、あらかじめ用意されていたらしい応接間に改めて招き入れられ、リシー以上に動揺している様子の領主と話をすることとなった。


母が亡くなっていることを一番に伝えると、かなりショックを受けた様子でしばらく黙り込んだ。


やがて我に返ったようにこちらに向き直ると、ぽつりぽつりと母とのことを話してくれた。


領主は──父親の跡を継ぐ以前の10代の頃──留学先でリシーの母と出会って恋仲になったこと。

当時領主には婚約者がおり、母とのことを認めてもらうため、一時帰国をしたこと。

留学先に戻った時には、母はいなくなっていたこと。


『おそらくその時には、君がおなかにいることが分かっていたんだろう』そう領主は、父は言った。


「妊娠のことは知らなかったから、彼女には『いったん国に帰る』としか伝えなかった私が悪いんだ…

 もっときちんと話し合ってから行動していれば…」


一方、母に捨てられたと思った父も、失意の中を支えてくれた婚約者と結ばれ義弟が生まれたという。


婚約者にもまた父以外の想う相手がいたが、その相手はすでに結婚していて、行き場の無い思いを抱えていたのだそうだ。


────二人の間に男女の情熱的な愛情は生まれなかったものの、生まれてきた息子アイアスに一層の愛を注ぎ、親子3人温かく穏やかな家庭を築いてきた。


父とその妻は、お互いを敬愛し、幸福と言える家族となったが、我が子には愛する人と結ばれて欲しいと願っていた。


このため政略的な利害のための結婚は強いず、この国では遅めの年齢になってやっと、望み望まれる相手と婚約したのだった。────


平民だと聞かされていた母は、正確には、没落して平民同様の暮らしを送っていた貴族の娘だったということだった。


その他にもリシーの知らない母のことを聞かせてもらい、リシーもまた母娘二人のこれまでの暮らしについて父に話して聞かせた。


「知らなかったこととは言え、これまで力になれずにすまなかった。」

母娘二人の生活に苦労も多かっただろうことを察した父は、そう言って頭を下げてくれた。


母との暮らしは楽しいことの方が随分多かったことを父に伝え、リシーは新しい家族ができたことを心から喜んだ。


父にはすぐにでも娘として家に迎えたいと言ってもらったが、今更貴族の暮らしなど自分には無理だとリシーは固辞した。


それならせめて、と今度は父の現在の家族──妻と息子──を交えて会いたいという話になったところで、親子の初めての語らいは終了した。


その後、リシーは言葉通り父とその家族との交流を深めていった。

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