番外02.指輪の秘密
お互い仕事の調整がつかない時を除いて、二人きりで昼下がりのお茶会をするのが恒例となっていた。
──当初用意された椅子は一人用のもので、向かい合って座っていたはずだが、結婚式のバタバタを経て再開したときには、なぜか二人掛けのベンチにすり替わっていた。──
リシーは、以前からの客にどうしてもと頼まれるうち、以前と同等とまではいかないものの、それなりの量の仕事を請け負うようになっていた。
「公爵夫人」としての仕事ももちろんあり勉強も並行して行っているが、キリルはそちらの仕事は最低限でいいと言ってくれるし、裁縫の腕を落としたくない気持ちもあってそのような形になっている。
数日前に急ぎの仕立ての仕事があり、その日は3日ぶりのお茶会だった。
「どうして指輪をつけていないのかな?」
カップを持ち上げるリシーの薬指を見ながら、キリルが不安そうにも怒ったようにも見える表情で尋ねる。
リシーが、バレたかと言わんばかりに気まずそうに答える。
「………ほら、縫い物をしていて傷をつけちゃったらイヤだからっ」
「それならその時だけ外せばいいだろう」
「しょっちゅう外して無くしたらいけないし。それに、大事な物だから」
これも本当。
それでも追及をやめないキリルに、やがて観念したリシーが小さな声で囁くように言う。
「あのね…恥ずかしくて言えなかったんだけどね、あの石の色、あなたの瞳の色にそっくりなの。
あなたは知らないと思うんだけど、ベッドにいる時だけああいう色になるの。
それで、あの…わたし…ドキドキしちゃってダメなの」
知ってるやつだった。
キリルの瞳が赤く燃えた。