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01.プロローグ

「勘違いしないでくれ。この結婚はあくまでお互いの利害のためのものだ。」


灯りを絞った寝室のベッドで、女が顔を寄せながら「愛してる」とささやくと、男はハッと身をこわばらせ、体を起こしてそう言い放った。


(そうだ。ここにいるのは婚約者のいる男にも手を出す女だ。)


「…キリル?」


リシーとキリルは今日、教会で二人きりの結婚式を挙げ、身も心も真の夫婦となったばかりであった。


そのはずだった。


先程まで熱っぽくリシーを見つめていたキリルの瞳は、冷えきっている。


日差しを浴びてきらめく新緑のようだと見上げていた青緑(せいりょく)の瞳は、今や真冬の湖のように凍りついて、かすかな温かみも感じない。


上質な銀糸のような髪もまた、ベッドサイドの薄明かりを受けて美しく冷たく輝く。


いつも一筋の乱れ無く整えられている髪は無造作に額に垂らされて、そこから覗く瞳は極上の翡翠のようにどこまでも透き通っていた。


やや薄い唇と瞳、すっと通った鼻がバランスよく配置されている顔は恐ろしく整っており、しかし今はそれらすべてが男を酷薄に見せる。


呆然とするリシーを一瞥すると、キリルは一方的に告げた。


「あなたには充分な費用を渡そう。それでこの結婚に不満は無いはずだ。

 ただし、当家の品位を下げるような行動は控えてほしい。

 後継ぎは遠縁から迎えるつもりだが、もし我々に子が出来たら後継ぎとする。

 あなたが他の男と遊ぶのを我慢できれば、の話だが。

 もちろんアイアスに会うことは許されない。」


突然出てきた弟の名にリシーは驚いた。


リシーは平民で、弟は貴族。


少し訳アリの関係で、弟やその家族に迷惑がかかってはいけないという思いから、キリルにその存在を伝えそびれていた。


「アイアスは血のつながった弟よ。半分だけど。あの、実は、私は学校に入るのがおくれ…」


キリルは聞きたくないとばかりにリシーの言葉を遮る。


「そんな見え透いた嘘を…

 あなたもアイアスと同様に学校を卒業して一年だと言っていた。

 彼は私と違って純粋で優しい男なんだ。知っての通り素晴らしい婚約者がいる。

 あなたのような(ひと)が近づいていい人間じゃない。」


上着を羽織りながらキリルはなおも続ける。


「それに、アイアスの父上は奥方の妊娠中に他の女と遊ぶような下劣な人では無い。

 せっかく考えた言い訳だろうが、年齢が合わないよ。」


あくまでリシーの不貞と決めつけるキリルに、これ以上の説明を諦め、口をつぐんだ。


黙り込んだその様子をどう取ったのか、夫となった男はリシーを顧みることもなく寝室を出ていったのであった。

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