違えた道
新卒なんですけど仕事が忙しすぎる……
なんだかんだ言ってあのだるかった学生時代が楽しかった思い出になるなんて……大人の人の言うことは正しいんだな……と痛感した今日の頃。
私はこれからどう復讐を成就させるかを考えていた。
あの男は簡単には死なせやしない。
もういっそ生きているのが嫌だと思うほど絶望させてから殺してやる。
復讐の黒炎が燃え上がっていた。
そしてそのための強さを作るためにどうしようかなど、私はその手に刺さったナイフを見つめながら考えていた。
「キャアアアアアアアアア!」
そんな時、背後から叫び声が聞こえる。
振り返るとそこにはコバルト色の髪をした短髪の幼女がいた。
私の幼馴染のネモフィラ。
彼女は持っていた籠を落とし震えていた。
髪と同じ色の目からは怯えを感じられ、私の目の前で転がっている2体の死体に対して特に恐怖を感じているようだった。
おそらく誕生日祝いに来たのだろう。
今日は私の誕生日なのだから。
そしてこんなに早く来ているのは5歳から取得できる冒険者ライセンスを取得し、パーティー申請を共にすると言う約束があったからそれが楽しみだったのだろう。
その結果彼女がこの現場の第一発見者になってしまった。
(面倒臭いな……)
この状況を見たら彼女は私を慰めながら彼女自身も同情して大泣きするだろう。
無駄に同情するやつは今のわたしには必要が無かった。
だってどんな言葉をかけられても、どんな言葉を掛けられたとしても両親が帰ってくることは決してないのだから。
それに彼女に大泣きされると考え事の集中力も削がれるし、なんといっても辛い思いをした本人よりも泣いて逆に慰められるレベルだから今彼女が来たことがとても煩わしく思えた。
「ねぇ……大丈夫?怪我してるの?どうしてこうなったの?」
私の手に刺さったナイフを見つけ彼女は急いでこちらに近づいてきた。
そして彼女は私の怪我を確認しようと私の体に触れた。
その瞬間ゾワッと悪寒が走る。
なんと例えればいいかわからない精神の奥底から嫌悪感がした。
「触るなッッッ!」
私は彼女の手を払うと手に刺さったナイフを乱雑に抜きあろうことかそれを彼女に向けた。
考えるよりも先にそれをしていた。
本能が言っていた。
彼女もきっと私を絶望へと追いやる、と。
関わらない方が良いのだと。
「ネモフィラ……二度と私に近づかないで」
私は彼女を拒絶した。
おそらく私が感じたのは彼女が守れず再び絶望する可能性だろう。
だから結局失うのならば最初から何も無い方がいい。
「嫌だッ!」
彼女も拒絶した。
私と縁を切ることを。
昔から何をするにも一緒だった私が本気で彼女と絶交しようとしていることを勘づいたのだろう。
「何か辛いことがあったのはわかるよ?
だからってみんなを避けて一人で抱え込むくらいならせめて私にだけは相談してよ……」
悲痛な声がこのシンッとしている空間に広がる。
しかしそんな声を聞いてもわたしには彼女はいらない。
二度と大切な人を目の前で殺されるのを見たくなかったから。
「とにかくお前に相談することはない。それにお前と冒険もする気はない。」
彼女はショックを受けているようだった。
大粒の涙が流れていた。
それを見て私の心は悲鳴をあげていた。
ここまでしてまで彼女を突き放す必要はあるのかと嘆いていた。
しかし出来ることなら彼女には生きていて欲しかった。
それが例え恨まれたとしても……
いつの前にか落としていたナイフを拾い上げ、構える。
もう私には後が無い。
これしか方法がなかった。
「え?何をする気?」
彼女は私を見てさらに怯える。
「そっちも構えて?今からあなたがいらない理由を教えてあげるから。」
彼女は意味が分からないようだが私を警戒し出した。
もしこれをしてしまえば全てが壊れる。
今まで積み上げてきた友情も何もかも。
そして私は強く踏み出し彼女に肉薄する。
まるで私自身に言い聞かせるように迷いを断ち切って。
彼女は後ろに引いた。
それも両足を地面から離して。
その瞬間さらに地面を蹴り上げ彼女の脇をくぐり、後ろへ回る。
一瞬懐に入られた彼女は私が攻撃すると感じたのか腕で急所に当たらないようにと防御する。
しかし私は彼女の着地した瞬間の足に蹴りを入れ体勢を崩す。
彼女が倒れ込んだところに組みかかり身動きを封じて喉元にナイフを当てがった。
そのナイフの刃が彼女の皮膚には当たらないように細心の注意を払って。
「これが理由。自分が足手まといなの分かる?」
彼女は放心していた。
私もこれで最後だと思うと胸が痛くなった。
まだまだ彼女と遊びたかったし話もしたかった。
いろんな場所にいって思い出を共有しながら旅もしたかった。
でもそれは出来ない。
両親が亡くなった今、もう私の大切な人が目の前からいなくなることに耐えられないだろうから。
私が臆病でなければ、もっと強ければ彼女と共に同じ道を歩めたのかもしれない。
「おいっ!何をしてるんだ!!」
怒号が聞こえる。
声のした方から大人たちが来て私は無理やり彼女から剥がされ事件の事情聴取に連れて行かれた。
これが最後だからと私は彼女の横を通る時もう一度彼女の目を見た。
彼女はぐしょ濡れの顔で私を睨んでいた。
そう……それでいい。
そのまんま私を憎んで忘れてしまえばいい。
私とあなたの進むべき道は違うのだから。
「ごめんね……フィー」
ボソッとそう呟き私はその場を離れた。
前が涙で歪んで何も見えなかった。
「あはは……さよなら、最愛の人」
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それにしてもゲームが楽しすぎる……