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フルン・ダークの料理人  作者: 藤里 侑
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第6話 ウィント王国・トゥルプの街 3

 外で待っている、と言っていた他の面々は、本当に好きなように行動しているらしかった。

 リツとソアは市場で食材を見ており、三人娘はウィンドウショッピングを楽しんでいた。

「おっ、終わったかあ」

 二人が役場から出てきたのを一番に見つけたソアが、手を振りながらやってくる。

「どうだった?」

「身分証もらえました」

「よかったな」

 三人娘もやってきたところで、リツが言う。

「さて、これからどうします?」

 それに答えたのはアーキーだった。

「ブティックに寄った方がいいか。鞄とか、いろいろ入り用だろう?」

 後半は、咲に向けた言葉だった。咲は頷く。

 これから先、何もかもを手に持って移動するわけにもいかない。なんでも、昔なじみの店があるらしいので、そこを紹介してもらうことにした。

 再び賑やかな大通りに出る。ここに来ると買い物客や、観光客の姿が増える。路上販売の店や大道芸人なんかもいて、まるでお祭りのようだ。しかし、これがこの街の日常だというので、咲は驚いた。

 目当ての店は、大通りに面した、様々な店が入る大きな建物の一階と二階にあった。

 ずいぶん大きな店である。シックで落ち着いた雰囲気の店で、ショーウィンドウの向こうに見える店内ではお針子やテーラーが忙しそうに行きかっている。その様子はまるで、舞踏会でダンスを踊っているようだ。

 咲は思わず後ずさった。

「え、こんな、立派な店に……?」

「大丈夫だよ。店主は気さくな人だし、金額も幅広いから」

 そう言うリツに、疑いの目を向ける咲。しかし、ここでしり込みしていてもしょうがない。思い切って中に入ることにした。

「いらっしゃいませ」

 出迎えたのは男性だった。中性的な顔立ちで、ミルクティブラウンの長い髪をゆるく淡いオレンジ色のリボンで結んでいる。きちんとしたベスト姿の彼は咲たちを見るなりにっこりと笑った。

「今日は皆さんお揃いで」

「ああ、それがな」

 アーキーは咲を前に出るよう促しながら言った。

「彼女がいろいろと入り用でな」

 そして、軽く咲の事情を説明する。転移者であることを聞くと、リッキーは少し驚いた様子だったが、すぐに仕事モードの表情になった。

「なるほど」

 リッキーは言うと、咲の前に立った。つくづくこの世界の人は背が高い、と咲は思った。ナロもほかの人たちと比べて小柄というだけであって、十分大きかったな、とも思い直す。

「はじめまして。私、ブティック『ドラート』の店主をしております、リッキーです。どうぞよろしく」

「よろしくお願いします。えっと……咲と言います」

「サキ様ですね。ではさっそくいろいろと紹介させていただこうと思っているのですが、よろしいですか」

「はい」

 他の面々は思い思いに商品を見に行ってしまった。緊張でカチコチになっている咲に、リッキーは笑いかけた。

「どうぞ気楽になさってください。サキ様はどういったものがご入用で?」

「そうですね……今は、まず、鞄が欲しいです」

「鞄ですね」

 少しずつ店の雰囲気に慣れてきた咲は、リッキーが品物を持って来てくれている間に、店の中を見回した。

 確かに高級そうな品物もあるが、よく見ると普段使いらしい服が大半だ。シンプルで、手ごろな価格の品の方が多い。高級なものは二階の特別室にある旨の案内があることにやっと気づいた時、リッキーが戻ってきた。

「こういったものはいかがでしょう」

 リッキーが持ってきたのは革製の丈夫そうなショルダーバッグだった。キャラメル色がかわいらしく、金色の金具がいいアクセントになっている。

「小さく見えますが、物がたくさん入るんですよ。背負うこともできます」

「これ、すごくいいですね」

 咲はすっかりそのかばんが気に入ってしまった。そろいの小物入れや財布もあったので、咲は合わせて買うことにした。

 手にいろいろ持っているのも不便だったので、さっそく荷物を片付ける。

「よくお似合いです」

「ありがとうございます」

 リッキーがニコニコと笑って言った。

 服はまた今度買うことにして、咲たちは店を後にした。

「ふぅー……」

 今日一日、というか午前中だけなのだが、いろいろなことがあり過ぎて咲はすっかりくたびれてしまった。誰にも聞こえないように咲は小さく息をつく。

 これからどこへ行こうか、と盛り上がるメンバー。アーキーはちらりと咲を見てから、皆に言った。

「俺はそろそろ店に戻ろうと思う」

「おっ、そうか。また厨房にこもる気だな?」

 ソアに言われ、アーキーは「まあ、それもそうだが」と言って咲に視線をやる。咲はきょとんとアーキーを見上げた。

「サキ、君はこれからの住まいを探さないといけないだろう。色々と資料が店にあるから、見てみないか?」

「あ、ぜひ。見せていただきたいです」

「それもそうだな~。あの部屋、いうて仮眠室だもんな」

 ソアが言うとみんなも納得した。三人娘はまだ物足りないらしく、買い物を続けることにしたようだった。ソアやリツも目的の店があるようで、咲とアーキーだけが店に帰ることになった。

 店の前で解散し、咲はアーキーと連れ立って歩き始める。

「今日はありがとうございました」

 咲が言うと、アーキーは優しく微笑んで「ああ」と答えた。

 街の喧騒が少しだけ、心地よく感じた咲だった。


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