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6話 細やかな宴会とその本心

 みんなの所へと戻った瑛二と雫の2人は、クラスのみんなと今後のことを話し合うことにした。


「今後のことですけれども、皆さんは、どうなさいますか?この国の王女殿下である、レヴォネ王女殿下からの話では、この城で私たち全員を保護する用意があるそうです。ただし、保護と言っても、ただというわけにもいかず、それぞれに合った仕事に就いてもらう予定だそうです。ですが、この城に住むのを拒む場合には、城を出て行っても構わないそうです。その際には、謝礼として相応の金銭を渡すそうです。また、その後は関与しないそうです」


 雫の話を聞き、各々どうするか考える。


「雫さんたちは、どうするの?」

「私たちは、このまま城に残る予定ですが……瑛二は、何か言いたげですね」

「お嬢様の護衛を任せられている身で申しますと、この城に留まるのは正直反対でございます」

「瑛二がそこまで反対するなんて珍しいですね。理由を聞いても良いですか?」

「この城内には、先王……ゼルフォート前国王の息のかかった者が潜伏しております。レヴォネ王女殿下の周りにいた人物に関しては問題ないとは思いますが、私はあまりこの城に長居するのは反対でございます。ですが、レヴォネ王女殿下の保護があればこの世界での身分などが保障されるのも事実ですので、これ以上は、私から反対することは申し上げません」

「瑛二の意見はわかりました。確かに国王派だった者たちが私たちに何か仕掛けて来る可能性はありそうですね。それと同時に、王女派からは助けてもらえる。ただし、城から出た場合は、最初の資金援助だけで、後は一切保証しないから、この城から出るのも問題がありますね」


 この城には、国王派と王女派の2つの派閥が存在しており、異世界人がどちらの派閥に友好的になるかによって、今後の動きに関わるのである。

 瑛二としては、雫とこの城から逃げ出し、何処か安全な場所で暮らしたいと思っているが、それでは、雫がクラスメイトを裏切ったと思われる可能性があるため、考え直すことにした。


「今はとにかく、今後について話し合いましょう」

「そうね」

「ところで瑛二たちは、どうするんだ?」


 (はじめ)が瑛二と雫に尋ねる。


「そうですね……私としては城から出たいですが、お嬢様のことを考えるのであれば、この城に留まろうかと思います。逆に、一様はどうなさいますか?」

「瑛二に様付けされるのは慣れんな」

「確かに。私の身分がバレないようにするために普段は、タメ口で話していましたしね。ですが、身分がバレてしまっている以上は、この話し方で話させていただきます」

「そ、そうか……あ、えっと確か俺たちがどうするかって話だったよな?俺は、特に決めてないな。だが、瑛二らがここにいるっていうなら、俺もここにいようと思う」

「私も一緒にいる」

「あ、私も」

「俺も」


 自分たちもこの城に残ると言い、少し戸惑う瑛二。

 そんな彼らに対して、瑛二が問い掛ける。


「皆さん、分かっているのですか?今この城では、2つの派閥が争っていて、安全とは言い切れないのですよ?」

「それは、城の外も同じじゃないの?だって、私たちは、この城の外のことなんてまったく知らないし」


 瑛二の問いにそう答えを返したのは、秋山和葉(あきやま かずは)だった。


「確かに和葉様の言うことには一理あります。ですが、国王派からの暗殺対象なる可能性だってあるんですよ。外ならば、そういった者達から逃れる(すべ)もあるかもしれません」

「それだって、可能性の話じゃない。だったら、みんなと一緒にいた方が少しは安全だと私は思うけど?」

「そ、その通りですね……」

「え!あの瑛二が珍しく折れた」


 瑛二が折れたのを見て、雫が驚く。瑛二が基本的に相手の言葉に折れることはない。それが例え雫だったとしてもだ。だからこそ雫は、瑛二が折れたことに、割りかし本気で驚いているのである。


「では、皆さんはこのまま城に残るということで宜しいのですね?ところで沢田先生は、先程からどうなさったのですか?」

「ご、ごめんなさい!まだこの状況に慣れなくて……」


 沢田先生、本名 沢田橙子(さわだ とうこ)。地理歴史、公民の教師であり、瑛二たちの担任であり、現在は、公民を教えているのだが、本人曰く、歴史が一番得意であり、その中でも戦争などの分野に異常に詳しいらしく、軍事関係にも詳しく、この先生に目をつけられた生徒は、大抵が自衛隊へと行くらしい……。


「まぁ、それはそうですよね。沢田先生は、これからどうなさいますか?」

「今のところは、この城でこの世界のことを調べてからどうするかを考えたいと思っています」

「そうですか。では、全員この城に留まるということで、レヴォネ王女殿下には、報告しておきます。お嬢様は、ご一緒に来られますか?」

「一緒に行くわ」


 そう言って2人は、レヴォネの所へと向かった。

 途中で会ったメイドにレヴォネの執務室の場所を聞いた瑛二たちは、そこへ向かい、ドアをノックする。


「はい、どうぞ」


 部屋の中からそう聞こえてから中へと入る。


「失礼します。レヴォネ王女殿下」

「瑛二さんと雫さん。どうなさいましたか?」

「先程のことについてお話に参りました」

「そうですか。あ、とりあえずそちらにお掛けください」

「失礼します」


 2人は、ソファーに座り、その後に席から立ち上がったレヴォネが、2人のテーブルを挟んだ向かい側にあるソファーへと座る。

 

「では、早速ですが、結論からお教え願えますか?」

「はい。結論から言いますと、全員がこの城に留まるという選択肢を選びました。もちろん、私たちもですが」

「そうですか、わかりました。では、人数を教えて下さい。人数分の部屋を確保できるよう調整しますので」

「人数は、教員1名と生徒22名。そのうち女性教諭1名、男子生徒12名、女子生徒10名の計23名です」

「わかりました。お部屋の件は、私に任せて下さい。夕食時までに終わらせるようにしますね。それと、夕食の時間になりましたら、召喚の間にメイドを向かわせますので」

「ありがとうございます」


 部屋を出ると、みんなの所へと戻った。


「皆さん。これからは、暫くこの城で暮らすことになります。まだ皆さんの仕事については決まっていませんが、恐らく明日にはその話があると思います。それと話は変わるのですが、夕食まではこの部屋で待機していてほしいそうです。あと、夕食を食べ終わった後に、各自の部屋に移動してもらいます。部屋割りについてはまだ決まっていませんので、そこら辺はまた後ほどということで」

「皆さんは、それで構いませんね?」


 全員が頷く。

 そして数分が経過すると、瑛二たちのいる召喚の間へと、ひとりのメイドがやって来た。


「失礼致します。お食事のご用意が出来ましたので、食堂までご案内致します」


 そう言うと、そのメイドは全員を食堂へと案内する。

 瑛二たちが食堂の中に入ると、4〜5メートルぐらいある長テーブルの上には、食事が人数分にプラス1人分が用意されていた。瑛二たちは、その事に気付くことがなかった。そして瑛二と雫は、お互いに正面の席に座った。

 全員が席に座ったところで、食事が1人分多いことに瑛二が気付く。


(1人分多いですね……。まさか!?)


 瑛二の予想は当たり、レヴォネが食堂の中に入ると、何気ない顔をしながら、空いていた瑛二の隣の席に座った。

 そのことに対して、全員が驚いた。


「レヴォネ王女殿下?何故、私の隣というか、この食堂で私たちと一緒に食事をなさろうとしているのですか?」

「お邪魔でしたか?」

「い、いえ!そのようなことはございません。ただ、王族の方が我々と一緒に食事をしようとしているのが、かなり疑問に感じたからです」


 レヴォネの反応に、瑛二は慌てて言い方わ変えた。


「まぁ、普段でしたら確かに瑛二さんの言う通り、一緒に食事をするということはありません。ですが、無理を言って許可をいただきました」

「何故、そこまでなさってまで、一緒に食事をしようと思われたのですか?」

「食事は、私の中ではついであり、この場を借りて謝罪の意を示したく、皆さんと食事等をしたいと思い、メイドらに無理を言って、皆さんとの食事に参加させていただきました」

「そういうことでしたか」


 レヴォネが言い終わると、瑛二がレヴォネの行動にそう納得した。

 そして、レヴォネが皆に謝罪する。


「皆様。ご挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。私は、このゼルフォート王国第一王女のレヴォネ・ナサ・ゼルフォートと申します。また、この度は、私の父である、ゼルフォート王国前国王マゼル・ナサ・ゼルフォートのあなた方の召喚の儀を阻止することができず、申し訳ありませんでした」


 レヴォネが椅子から立ち上がると、頭を深く下げながら、そう言って謝罪した。

 

「レヴォネ王女が気になさらないで下さい。確かに突然呼ばれたことについては皆、驚いていますが、悪いのは自分たちを呼び出したあの王様であって、レヴォネ王女ではないのですから」


 そう言ったのは、父親が外科医で母親が弁護士であり、風紀委員長の黒羽匠海(くろば たくみ)である。余談だが、雫は生徒会会長で、瑛二は生徒会副会長である。


「ありがとうございます」


 レヴォネはそう礼を言いながら、頭を上げた。


「それでは皆さん。お食事をお楽しみ下さい」


 レヴォネがグラスを持つのと同時に全員グラスを持つ。

 この動作をしたならばやることは一つ。


「では、乾杯!」

『乾杯!!』


 そう、乾杯である。

 そして瑛二たちは、食事を楽しむ。時々、雫と会話をしながら、飲んだりする。飲むと言っても、アルコール飲料は、提供されていない。どうやら異世界人のことは、本なんかで、ある程度、レヴォネは、そのことを知っていたのだ。


「それにしてもレヴォネ王女殿下が来たときには、私も驚きましたよ」

「皆さんにどうしても謝りたかったものですから」

「それに、グラスの中身がアルコール飲料ではなく、水なのには想定外でしたね」

「図書館で、過去にこちらの世界に召喚された方々のことを本で調べたんです。そうしたら、召喚されたのは、すべて日本人の方だということがわかりました。そして、その国では20歳未満の方は、お酒を飲んではいけないという法律があって、皆さんその法律をこの世界でも守っていることもわかったため、本来ならばお酒を提供するべきところをお水にさせていただきました」

「我々の日本人のことを勉強なさっていたようですね」

「勝手に呼び出したのは、こちら側ですからね。それぐらいのことはしますよ」

「そうですか。あ、それと、部屋割りが決まった後に、少しお話をよろしいですか?」

「この場では、話せない内容なのですか?」


 瑛二とレヴォネは、他のみんなに聞こえないように、小声で話す。


「そうです。特に今の段階では、お嬢様には、お話できない内容ですので」

「わかりました。では、瑛二さんの都合の良い時間帯にお越しください」

「良いのですか?」

「構いません」

「ありがとうございます」


 食事が終わり、部屋割りを行う。部屋は、22部屋しか用意ができなかったようだ。そのため、それぞれが自分の部屋を決めるが、雫が瑛二と同じ部屋にすることにしたようだ。流石に瑛二もこれには反対したが……。


「それでは、誰が私の警護を行うのかしら?いつもは他の方が常時部屋の前で立っているけども、今は、瑛二しか私の警護はいないのよ?」


 雫がそういうと、瑛二は渋々納得して、一緒の部屋になった。


(これで、瑛二と一緒の部屋になれる口実ができたわね。元の世界では、決してできないことだけども、この世界でなら、色々と我慢していたことができそうね)


 雫は、心の中でそんなことを思いながら少し笑みを浮かべてしまう。


「お嬢様?急に笑みを浮かべてどうなされたのですか?」

「な、何でもないわ!」


 そう誤魔化す、雫であった。

『良かった』、『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。投稿日時は特に決めていませんが、どうぞこれからもよろしくお願いします。

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