5話 その頃の出来事
※今回の話は、春人回です。その為、本作の主人公である、瑛二や雫は、一切登場しません。今回の内容は、瑛二達が異世界に召喚されてからの地球での話となります。
望月家本家の屋敷に、伊集院家当主であり、雫の父親でもある伊集院聡之が春人と対面していた。
「伊集院家当主がわざわざ、私の所まで足を運んで来るとは、いったいどのようなご用件で?」
春人の質問に聡之が答える。
「既にご存知だとは思いますが、我が娘である雫とその執事である久遠瑛二が学園内で突然とそのクラスにいた友人らと共に姿を消してしまいました」
「その件ならば、私の耳にも入ってはいます。その場に駆けつけた捜査員からの報告書では、姿を消した原因は一切不明であり、テレビなどのメディアでも「星王学園神隠し事件」として、今話題のニュースですからね。それで、聡之殿は私にいったい何をさせたいのですか?」
「それはもうわかっているのでは?」
「質問に質問で返さないでほしいのですが……まぁ、聡之殿が何をさせたいのかはわかっているつもりです。ですが、このままでは、正式な依頼という形にはならないので、直接貴方の口から依頼してほしい」
「わかりました。では、望月家第87代目当主、望月春人様に伊集院家第74代目当主、伊集院聡之が依頼します。星王学園で発生した集団行方不明事件の捜査をお願いします」
「その依頼、引き受けさせてもらいます」
その後聡之は、春人から手渡された依頼書にサインをして、春人にその依頼書を提出した。
「確かに確認しました。では、今夜から捜査を開始します。おい、星王学園に向かう準備をせよ。今回は念のため剣士隊を20人、銃士隊を30人や術師隊を40人出動させる。準備を急がせろ」
「当主。お言葉ですが、今回の捜査にそれだけの人員を割く必要があるのですか?」
「今回の事件、聡之殿はどうやら妖が関係していると考えているようだが、私は今回の事件は、妖が関与しているとは思えん」
「そうなのですか!?」
春人の予想外の言葉に聡之が驚く。すると、春人の部下が再び自身の疑問を春人に尋ねる。
「ならば、なおさらそれだけの人員を星王学園に派遣なさる理由がわかりません」
「今回は、妖が関わっている可能性はかなり低いとはいえ、もしも妖が関わっているとしたら恐らく強力な妖だ。だからそんなもしもに備えて戦力は、整えておきたいと考えている」
「なるほど……わかりました。至急、剣士隊、銃士隊、術師隊の準備を行います。また、車は偽装民間車両でよろしいですか?」
「構わん」
「畏まりました。急ぎ準備を致します」
春人の部下が襖を閉めて部屋から出て行き、部屋の中には、春人と聡之の2人だけとなり、聡之は春人に尋ねる。
「先程言っておられた、偽装民間車両とはなんですか?」
「簡単に言ってしまうと覆面車両ですが、覆面と違う点は、民間車両とほとんど変わりませんが、望月家用に独自で様々な改造を行っていて、妖からの攻撃にもある程度耐えることができるうえに、奴等からの襲撃があったとしても対処ができるようになっている。もちろん、普通の覆面のように赤色灯や無線機なども搭載している」
すると、突然襖が開き、さっきとは違う人が部屋の中へと入る。
「当主。準備が完了致しました。いつでも向かえます」
「うむ、ご苦労。ところで、私の車は用意してあるんだろうな?」
「今、この屋敷内にある当主専用車両がレクサスLMしかないのですが、それでもよろしいでしょうか?」
「構わん。私も直ぐに行くから表に準備しろ」
「至急、準備致します」
その部下は、春人の車を表に出すため、部屋から出て行った。
「というわけで、すまないが聡之殿には、お引取り願えるだろうか」
「わかりました。どうかよろしくお願い申し上げます。それでは、私はこれにて失礼させていただきます」
聡之の後ろにいた使用人であり、瑛二の父でもある久遠英一郎が春人に話し掛ける。
「春人様。私の息子である瑛二のこともお願い致します」
そう言って英一郎は、春人に深々と頭を下げた。
「もちろんだ。雫嬢のことはもちろんだが、瑛二殿のことも探すつもりだから安心しろ。それよりも早く行った方が良いのではないか?お前の主が待っているぞ」
英一郎が後ろを見ると、自分の主である聡之が見ていた。
「申し訳ありません。聡之様!」
「気にするな。むしろ、子を思う気持ちは同じなのだと安心したぐらいだ。他の護衛から急に行方不明になったという報告を聞いた時に、お前だけが冷静だったからな。だがこうして、心配している姿を見れば、私と同じ気持ちなのだと安心したさ」
「そうでしたか。……聡之様、次のご予定の時間ですのでそろそろ……」
「お前、今の話の流れからよく通常業務に戻れるな!?」
話の流れを急に変えた英一郎にそのように聡之が驚く。
「そういうわけですので、我々はこれにて失礼致します。どうか、娘たちをよろしくお願い致します」
そう言って聡之は、後のことを春人に任せて帰宅した。この時、聡之は、瑛二からの例のメールを春人に伝えることはなかった。
そして春人もまた、車が停められている表に出た。
そして、車に春人が乗り込んだと同時に、他の人達も車に乗車して、星王学園へと移動する。
21時31分、星王学園現着。
続々と車から降車する。そして全員が校門前に整列し、春人が正面に立つ。
「これより星王学園への立ち入り捜査を行う。また、警察にも協力要請をし、この辺り一帯は、立ち入り禁止区域にしてもらってはいるが、そこを突破して入って我々の邪魔をする者がいる可能性もある。今回の捜査は、伊集院家当主直々の依頼ではあるが、今回の件は、警察でも事前の捜査で何一つ手掛かりを見つけられていない。そして、目撃情報などから、高位の妖が関与している可能性が大いにある。そのため、この校門を抜けた瞬間に襲われる可能性もある。幸いなことに、この学園では、事件捜査のためにしばらくの間、臨時休校扱いとなっている。そのため、生徒や教職員を含めて誰も入ってはいないため、今のところはあの事件以外に被害は出ていない。だが、決して油断はするな!」
『はっ!』
校門を開けて学校の敷地内へと入る。そして、事件の現場となった瑛二や雫たちの教室へと入る。
(それにしても何故、学校の教室内でクラスにいた者たちが集団で消えるという現象が発生したんだ?そもそも、これは本当に妖の仕業なのか?だとしたらそのようなことをできるのは、神クラスの高位の妖ぐらいだ。だが、この学園内からはそのような気配を感じないどころか、中級クラスの妖の気配も感じない。感じるとしても精々小物程度だ。だとしたらここでいったい何があったというんだ!)
そのようなことを心の中で、春人は呟いていた。
「ん?」
春人はその時、ふと、あることに疑問を感じた。
「どうかなさいましたか?当主」
「いや、なんでもない。作業を続けろ」
「は」
すると、廊下からある男が春人に声を掛けた。
「当主。少々よろしいでしょうか?」
「なんだ?」
その男は、50代後半で、今回春人が連れて来た術師部隊の小隊長だった。
「君は確か……」
「私は、術師部隊所属第3小隊小隊長の井瀬壯介ニ等術師です」
※術師にはそれぞれ階級があり、階級は、見習い術師→三等術師員→二等術師員→一等術師員→術師長→三等術師補→二等術師補→一等術師補→三等術師→二等術師→一等術師→三等術師正→二等術師正→一等術師正→術師監→術師副総監→術師総監の17階級あり、この壯介の階級は、下から10番目である。また、1番上の術師総監になれるのは、当主だけである。だが、その家族にも階級は存在するが、そのほとんどが実力を持っている為、下から14番目の一等術師正以上の階級からが普通である。だが、春人の場合は、才能があったことにより、上から2番目の術師副総監からのスタートだった。
「それで、何かようか?」
「これは私の予想なのですが……」
「構わん。話せ」
「では。これは、あくまでも私の予想なのですが、今回のこの集団失踪事件は、妖との関連性が低いと考えられます」
「そうか。では、その根拠を聞かせてくれ」
「はい。まず、この学園の内部と外部両方ともに、小物以上の気配が全く無いという点。次に、学園内部には多数の人が居たにも関わらず、この1クラスだけで終わり、他のクラスや人間には、一切の被害がないという点。この2つの点から、私はこの事件に妖の関連性は低いものと考えられます」
「ふむ、なるほど。私と同じ考えを持つ者がいるとはな」
「当主!」
教室の中で作業をしていた者が春人を呼ぶ。
「どうした?」
「ここなのですが、なんだか妙な反応があるのですが……」
「どれ」
言われた場所を確認すると、教室の中央にあるそれは、確かに妙なものがあった。作業をしている者たちにはどうやら見えていないらしい。
「……陣か」
「陣ですか?」
「あぁ。とは言っても、我々が使うような陣ではなく、言ってしまえば魔法陣だ」
「存在するんですか?魔法って……」
「正確には魔術と呼ばれている。お前たちも魔術の存在くらいは聞いたことがあるだろ?」
「聞いたことぐらいはありますが、実在しないものとばかり思っていました」
「魔術は今でも存在しているし、魔術師や魔法使いも昔に比べたら遥かに少なくなってしまっているが、確かに存在している」
もし、魔術師だったりが関与していたとしても疑問が残る。
「当主。難しい顔をなさっていますが、どうなされましたか?」
「もしも、魔術師だったりが関与しているのだとしたら、新たな問題が発生する」
「新たな問題……ですか?」
「あぁ。ところでお前たちは、久遠瑛二殿を覚えているか?」
「もちろんです。術も何も使っていないにも関わらず、あの人間離れした強さを忘れるはずがありません。それがどうかしたのですか?」
「今回の事件の捜査の依頼は何処からか覚えてるか?」
「確か伊集院……あ!」
「そうだ。伊集院に長年仕える家系こそ、久遠家であり、瑛二殿は伊集院雫嬢に仕える者だ。当然、クラスだって同じなわけだが……私が言いたいことは……わかるな?」
「つまり、当主が仰りたいことは、このクラスに瑛二殿がいたのにも関わらず、教室内にいた人物すべてが行方不明となって、もしもこれに、魔術師なんかが関与していたならば、瑛二殿が的確に対応していたはずだと言いたいのですね」
「その通りだ。だが、あの瑛二殿が対応できなかったのならば、相手は相当な腕の持ち主か、外部世界から干渉された可能性も考慮した方が良さそうだな」
外部世界……簡単に言ってしまえば異世界である。異世界から召喚陣によって、召喚されたのならば、瑛二が対応できなかったのも頷けると、春人は考えていた。
異世界に召喚されるというのは、ラノベとかの話だと思うだろうが、この世界の行方不明者の中には、異世界に召喚されたり、世界を無意識のうちに渡ってしまう場合がある。望月家では、そういった人達の情報統制なども行なったりしている。
「もし、それが本当ならば、かなり厄介ですよ。なんせ、この失踪事件は、マスコミに大きく報道されてしまっていますから、今から情報統制をするのはかなり難しいかと……」
「そんなことはわかっている。だがその対応は、マスコミの協力者なんかに任せているから問題はない。我々や妖などの事件の存在が公になることはないから心配いらん」
「そ、そうですよね」
「ところで、作業は終わったか?」
「終わっております」
「よろしい。では、お前たちは集めた物を持ち帰れ」
「当主は、どうなさるのですか?」
「私は、ここにある陣を消してから戻る。流石に陣がこのままこの教室内にあると、色々とまずいからな」
「畏まりました。運転手と銃士隊を残して、あとの者たちで撤退します」
「あぁ。ご苦労」
そう言い。現場鑑識を行なっていた者たちは、回収物を持ち帰り、春人は陣の消す作業を始める。
「やはりこれはこの世界のではなく、何処か別の世界の魔法陣だな。魔法陣の形態がこの世界の既存するどの魔法陣とも異なる。私も異世界ものには興味がないわけではない。アニメなんかは、確かに好きだしな」
実は春人は、アニメやラノベが好きなのだが、家族にも秘密にしているのだ。だが、春人部下なんかにバレると当主としての威厳にも関わってしまう。それに春人の性格を知っている者からしたら予想もしないのだ。それに、妖なんかと対峙する望月の当主としては、冷酷だったりしなければならない。そんな人物がラノベ好きなのがバレると少し問題になるのではないかと、春人は考えているからである。
「一応、召喚陣は消したが、また異世界から召喚が行われるかもしれん。そうなっては面倒だが、私の力でもそれに関してはどうしようもできないし、せめて私にできるとしたら、異世界からの召喚がこの国で召喚陣が展開して、日本人が拉致されないのを祈るぐらいと、発生した場所で、その召喚が行われた痕跡を消すことぐらいだからな。さてと、そろそろ帰るか」
この1年半後、春人は、瑛二たちとは異なる異世界へと転生することとなるのだが、それはまた、別な話である。
今回登場した望月春人は、別作品の“異世界転生術師”に登場する主人公です。もしよろしければ、そちらもお読み下さい。
『良かった』、『続きが気になる』などと思っていただけたなら、評価やブックマークをしてくださると、とても嬉しいです。投稿日時は特に決めていませんが、どうぞこれからもよろしくお願いします。