3話 協力者の会得
瑛二の目の前にあるのは、屍と化した前ゼルフォート王国国王マゼル・ナサ・ゼルフォートだ。
そして、マゼルの死体からメーティスが索敵を応用して新たに製作したスキル記憶探査を使って、脳内の記憶を読み取る。
記憶探査を発動させると、マゼルの記憶の中から瑛二が欲しかった記憶が瑛二の脳内へと映像化して流れて行く。
そこには、瑛二たちを召喚した者たちの姿と、少女たち(恐らくこの国の王女とその部下だと思われる)が言い争っている姿が見えた。この人ならば、もしかしたら瑛二たちの協力者となってくれるかも知れないと考えた。
「その顔は、何か分かって作戦が思いついたっていう顔ですね」
「いや、どういう顔ですか?それ……まあ、思いついたのは確かですけれどもね」
「いったいどういう作戦ですか?」
「まずは、この国の王女を私たち側に取り込みます。どうやら、記憶で読み取った限りでは、異世界召喚には反対のようで、マゼル前国王と言い争っている様子が何度か見受けられました」
「なるほど。確かにそれなら、私たち側についてくれそうですね。それに、王族の後ろ盾があるのはかなり心強いです」
「王族をこちら側に取り込めれば、かなりこちらが有利になりますからね。至急、探して参ります」
「お願いします」
「畏まりました。私がいない間の護衛は、どう致しましょうか……」
「必要ありません。私だって護身術は一通り学んでありますので、そう簡単にやられたりはしません」
「わかりました。できる限り早めに戻ります」
そう言って瑛二は、召喚された部屋から出て、その王女を探したり何か情報がないかを調べるために城内を探索する。
そのまま城内を探索していると、騎士たちに警護されているかたちで身なりの良さそうな少女が歩いていた。それは、記憶探査で見たこの国の王女だった。
瑛二は、丁度良いところで会えたと思うが、このままでは怪しまれるのが関の山だとも思った。
そうこう考えているうちに奥の方へと行ってしまいそうだったので、一か八か声を掛けることにした。
「すみません。少しお話をよろしいでしょうか?」
「貴様、いったい何者だ!」
「突然声を掛けてしまって申し訳ありません。ですが、私は敵ではありません」
「急に現れた奴をそう簡単に信じらるわけがないだろうが!」
「待ちなさい!」
「ひ、姫様?」
「貴方、もしかしてお父様が異世界から召喚した召喚者でしょうか?」
「ええ、その通りです。私を含め、23名がゼルフォート国王によって召喚されました」
「お父様…まさか本当に実行してしまうなんて……お父様がこちらの世界に呼び出してしまい大変申し訳ございませんでした」
そう言って、ゼルフォート王女は深々と頭を下げる。
「それで、どうやってあの召喚の間から?あそこには、お父様が許可しない限り出られないようになっていたはずなのですが……」
「恐らくですが、私があの国王を殺したせいかと思います」
『……!?』
瑛二の言葉にその場にいた全員が驚く。
「お嬢様を殺そうとした罰です。ですので、ゼルフォート国王をはじめとした、その場にいた王国関係者には全員死んでいただきました。どうやら私たちに危害が加わるのは確実だったようですので」
「そうですか……お父様が大変申し訳ありませんでした。無理矢理こちらに召喚した挙句にそのような態度。国を代表して謝罪させていただきます」
そう言い、ゼルフォート王女殿下が頭を下げる。
「貴女が頭を下げる必要はありません。この騒動は、そもそもあのゼルフォート国王が貴女の言葉を無視して起こった出来事……つまりは、自業自得なのです。ですので、一国の王女がそう簡単に見ず知らずの者に対して頭を下げてはなりません」
「貴方がそう言うのでしたら、貴方にこれ以上頭は下げないことにします。それで、私にお話があったのではないですか?」
「そうでした。実は、ゼルフォート王女殿下にお願いしたいことがありまして……」
「長くなるようでしたら、会談ができるお部屋を準備させましょうか?」
「では、お願いします」
ゼルフォート王女は頷き、隣にいた騎士に部屋の準備を命じる。
「そういえば、貴方のお名前は何ですか?あ、ちなみに私の名前は、レヴォネ・ナサ・ゼルフォートと申します」
「私は、伊集院家に仕えている久遠瑛二と申します。そして、伊集院家当主の一人娘であらせられる伊集院雫様の側近兼執事として仕えています」
「もしかして、貴方が仕えているお方は向こうの世界では、すごい方なのですか?」
「その通りです。伊集院家は、向こうの世界では、世界の財政のおよそ6割を操れるほどの力を持っています。その為、伊集院家は、国家に対しても色々とできたりするため、その伊集院家当主の一人娘である雫お嬢様は、身を狙われやすい立場にあります。そのため、自分で言うのもあれなのですが、伊集院家に代々仕える久遠家で一番の実力を持つ私が、雫お嬢様に仕えることとなりました」
「どうやら、召喚してはならない方を呼び出してしまったようですね」
少し焦った顔でそう言う。
「その他にも、向こうの世界では、かなりの重要人物も何人か一緒に来ています」
「本当にお父様が申し訳ありません!!」
瑛二の話を聞いて、かなりやばいことをしてしまったと思ったようで、かなりの勢いで瑛二に謝った。まぁ、瑛二に謝っても仕方ないとは彼女自身わかってはいるのだが、気持ち的に謝りたかったようだ。
すると、部屋の準備が整ったようで、さっき部屋の用意を命じられていた騎士が戻って来た。
「お部屋の準備が整ったようですので行きましょうか?それと1つ聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「何でしょうか?」
「今後、貴方のことは、何とお呼びしたらよろしいでしょうか?」
「瑛二で構いません」
「では、「瑛二さん」でよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ」
「あと、瑛二さんは先程、お父様から記憶を読み取って私のことを知ったと言っていましたが、もしかして、記憶探査を持っているということですよね?」
「はい。そうですね」
「でしたら、瑛二さんの主という雫さんと一緒に話し合いをしませんか?部屋の場所ならば、私の記憶から読み取ってくれて構いませんから」
「正気ですか!?まぁ、本人が良いと言うのならば良いですけれども。では、失礼します。記憶探査」
部屋への通路の記憶を読み取る。
「終わりましたけど、今後は、安易にこのようなことはしないで下さいね。たまたま私だから良かったものの。もし、良からぬことを考えている者が読み取ったならば、下手をすれば、貴女だけではなく、この国にも危険が降りかかる可能性があるんですからね」
「わかっています。ですから、その心配のなさそうな瑛二さんには、こうして許可をしたのですよ?」
「信頼してくださるのは嬉しいのですが、今後は、用心してください」
少し不満気な顔をするが、大体は納得したようだった。
そして瑛二は、雫たちがいる召喚の間へと戻った。
「あ、お帰りなさい瑛二」
「只今戻りました」
「それでどうでしたか?」
「はい。この国の王女と接触をし、話し合いに持ち込むことに成功致しました。この国の代表として、レヴォネ・ナサ・ゼルフォート王女殿下と異世界人代表として、お嬢様との非公式の会談を行うこととなりました」
「上出来です。瑛二」
「ありがとうございます」
「瑛二、早速で悪いのですが、その会談を行うという部屋に案内して下さい」
「かしこまりました」
瑛二は、雫を連れて部屋を出る。他の生徒たちは、またしても放置状態となった。
そして会談を行う部屋へと着く。
「こちらになります。万が一に備えて私から入ります」
「わかったわ」
ドアをコンコンコンとノックをして、部屋の中へ入る。
「瑛二です。雫お嬢様をお連れしました」
「どうぞお入り下さい」
「失礼します」
そう言い、瑛二がまず中に入る。
「それで瑛二さん。その雫さんという方はどちらに?」
「こちらにいらっしゃいます」
雫が部屋の中に入り挨拶をする。
「初めまして、レヴォネ・ナサ・ゼルフォート王女殿下。私は、伊集院家当主が娘、伊集院雫と申します。このような機会を設けて下さり感謝致します」
「いえいえ。こちらこそ、突然の申し出に応じて下さり感謝致します。それでは早速、本題に移りましょうか」
「では、私は外で待機しておりますので、何かあればお声掛け下さい」
そう言って瑛二が部屋から出ようとすると、雫とレヴォネが止める。
「何を言っているのですか?瑛二もこの会談に参加するに決まっていますよね?」
「雫さんのおっしゃっている通りです。何のためにわざわざ、椅子を2人分用意させたと思っているのですか?」
「ですが、私は立場的に違うと思うのですが……」
「瑛二は、優秀な私の側近でもあるでしょう?なら、私の側で私の側近として会談に参加しなさい。これはお願いではなく命令です」
「……畏まりました」
瑛二はそう言い、主である雫の隣に置かれた椅子に腰掛けた。
「それでは。と、その前に。まずは此度の謝罪をさせて下さい」
「どういう事ですか?」
「私は、お父様……マゼル国王の異世界人召喚の儀を止めることが出来ず申し訳ありませんでした。また、瑛二さんから聞いたところ、数々の無礼を働いたそうですね?そちらの件も含めてこの国の王家の人間として、この場にいないお母様……テリーゼ王妃に代わり、私も含めお詫び申し上げます」
椅子から立ち上がったレヴォネが、雫と瑛二の2人に対して、ほぼ土下座に近い状態で深々と頭を下げ、謝罪をした。
頭を上げないレヴォネに対して、雫が彼女の側に行き、そして彼女の肩に手を添えて、そっと言葉を掛けた。
「確かに。謝罪を受け入れました、レヴォネ王女殿下。ですので、どうか頭をお上げください」
その言葉に、レヴォネが涙目になりながら頭を上げた。
「ありがとうございます。雫さん」
「それでは会談を始めましょう。レヴォネ王女殿下」
涙目になっている自分の顔を拭い、覚悟を決めた者の目をする。
「そうですね。では、改めて異世界会談を始めましょうか」
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