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虚飾の魔王  作者: 黒餡蜜きなこもち
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序章

初投稿です。よろしくお願いします。

 今から約150年前、魔王率いる魔物、魔人と、人間や亜人などを含むその他の種族の間で世界の主導権を賭けた争いが起こりました。

 それから30年…両陣営に多数の犠牲を生み出しながら激化したその戦争は、圧倒的に数も少なく、神々の加護が無いにも関わらず、高濃度で莫大な量の魔力を有する魔物や魔人を従えた魔王軍が優勢だったそうです。しかもダメ押しとばかりに、太古の魔神を蘇らせ、その加護を受けた魔王軍によって人々は追い詰められていきました。

 この現状を受け止めた神々は、特定の生命に加護を重ねることで魔王に対抗するための力を兼ね備える生命体を創りあげることにしたとか。そう、それが後に「勇者」と呼ばれる存在達だったそうです。

 勇者達は人類最後の希望。様々な種族から生まれた彼らは、それまで優勢だった魔王軍を蹴散らし、知将と名高き魔王軍幹部 アガレスを討ち取り、魔王を追い詰めた彼らは─



─呆気なく死んだそうです。



「………」


…続けますね。勇者達が死んだのは今から100年程前。最後の希望を摘み取られた他種族の方々は魔王軍に降伏し、魔王がこの世界を征服。その恐ろしくも尊き威光により、身内間の争いが絶えなかった人間達も争いを止め、以降100年間は安寧と秩序がもたらされました。ですが…その安寧と秩序は、今や見る影もありません。


「…どうして?」


…5年前のことです。勇者達でさえ、倒すに至らなかった魔王は、ある夜、何者かに暗殺されました。


「…そっか」


…魔王が死んだという報せは瞬く間に世界中に広まりました。これをチャンスと考えた人類は反旗を翻そうしたのですが…人類が反旗を翻す前にとある宣言がされ、人類は再び魔王軍の管轄下に従えられ…そして、かつて人々が行っていた戦争のように、此度は魔王軍が内乱を起こしました。


「…宣言?」


はい。魔王が亡くなった数日後、魔王軍の幹部であった7人はそれぞれ「魔王」と名乗り、こう宣言しました。


『我ら7人の魔王のうち、最後まで生き残った魔王が、後継者となり、世界を治める』


つまり彼らは、後継者を決めるための殺し合いを国レベルで行っているのです…私達のような一般人…いえ、一般魔人としては本当にはた迷惑な話です。ですが、どうすることもできません。私達はただ、この嵐が一刻も早く過ぎてくれるのを祈るばかりなのです。




「…とまあ、随分と駆け足でしたが、これが今の世界の現状です。魔王が世界を支配し、神々は隠居。そして、今や後釜争いによる混沌とした世界…ああ、早く7人の内の6人が死んでくれますように…」


「…殺し合い…6人が死ぬ…?…それは、ちょっと困る…」


「…え?」


「…僕の中に残された、言葉…父さんと母さんが、僕に託したんだ…『いずれ現れる7人の魔王を従え、来たる厄災に立ち向かえ』って」


「それって、えと、なんです…?予言か何か?」


「…分からない。でも、僕はやり遂げなければならない…そんな気がするんだ。」


困惑した様子の少女に少年は自信無さげに返す。

すると少女は半ば諦めも込めた様子で言う。


「7人の魔王を従えるって…無理ですよ、そんなの。だって、彼らは正真正銘の化け物ですから。」


「化け物…?…怪物か何かなの?」


「あー、今のは例えです例え。姿形は凡そ人型なんですが、その力は化け物としか言えないレベルなんです。」


そうですね…、と彼女は思い出しながら語る。


「彼らが宣言した時、次期幹部候補と言われてた方がいたんですが、彼らに意見をしたようで…その方もかなりの実力者だったそうなんですが…それは、惨たらしい最期だったと聞きます。」


「……」


「…彼らはそれぞれ奇怪なアーティファクトを所有し、獣を模した鎧を全身に纏うとか。遠巻きに見ていた兵士が言うには、まるで天変地異のようだと…」


「……」


「ですから、滅多なことを言わない方がいいと思います…命が惜しいのであれば。」


心配、いや純粋な善意の忠告だ。少女は出会ったばかりの名前すら知らない少年に対して、諭すように言葉をかけてくれている。嗚呼、それでも、だとしても…


「…ありがとう。でも、やらなきゃ、だから。」


「…そうですか、意外と強情なんですね。」


ほんの一瞬、悲しげな顔をした少女に申し訳なくなり謝罪の言葉が零れる。


「…ごめん。」


「なんで貴方が謝るんですか…貴方がそうしたいと望むのであれば、その通りにすればいいと思いますよ。まあ、先程言ったように、それはとてつもなく険しい道のりでしょうけど…ほんとにやるんですか?」


「…うん、ダメかな?」


困ったように上目遣いで尋ねる少年の顔を見て、少女はため息混じりに返す。


「本当にやるというのであれば、課題が山積みですよ?彼らは国を率いていますから、彼ら自身も強敵ですが、国が抱える圧倒的物量というのもまた厄介です。彼らに対抗し、屈服させるのであれば、要求を通すだけの実力、そして何より仲間が要ります。…先程、意見を述べた魔人が殺された話をしましたが、覚えていますか?その話を聞いた権力者の方々はさぞかし、「次は自分では…」と恐怖を覚え、息を潜めているでしょう。しかし、彼らの政策に反対したい方はいるはずです。なにせ、いきなり一部の幹部が勝手に取り決めを行い、我が物顔で世界に混沌をもたらしたのですから、良くない印象を持った方は必ずいるはず…その方々と接触できればいい方ですが、如何せん、貴方はなんの功績もない一般魔人。勝機を示さなければ、我が身がかわいい権力者の方々は重い腰を上げないことでしょう。ですから…って聞いてますか?」


「…あー、えっと、すごい考えているなって…本当にすごい。僕だけじゃ、こんなこと思いつかない…」


感激した様子、いや何も考えていなかったと言外に告げた少年に、少女は呆れてしまう。


「それでよく、立ち向かおうと思いましたね…いや、閉じ込められてて何も知らなかったのであれば、当然でしょうか…」


少女はつい先刻の光景を思い出す。



そう、少年は閉じ込められていた。

ふらりと踏み入ってしまった特に仕掛けも無く、モンスターもいない寂れた遺跡…その奥に氷漬けにされた状態で…


(いきなり、歴史について話を求められたから話しましたが…この人は本当に大丈夫なんでしょうか?)


この少年…口数は少なく、見た目は齢14、5くらいには見えるが、その割に情緒が幼いように感じる。何とかしようとして、まずは情報を集めようとする程度の頭はあるが、それだけだ。そこから先が無く、真正面から殴り込みにいきそうな危うささえある。


「…はあ、まさかとは思いますが…もし私が何も言わなければ、真正面から勝負を挑む、なんてこと考えていたんですか?」


「……ん。」


「…はぁぁぁぁぁぁ………」


ため息をつくしかない。予想通りすぎる。この少年。1人にするとやばいのでは?でも着いてくのはめんどくさそう。

そんな考えが頭を駆け巡る。


「流石に無謀ですって。第一、彼らに対抗するには同じだけの力がいるんですよ?」


「…力。それなら、ここにある。」


少年の目線につられて、少女は彼が肩身離さず身につけていた黒い剣に目を向ける。


「これも、父さんと母さんから託されたもの。魔王に対抗するための、僕の、僕だけの魔王の力。」


「貴方だけの、魔王の力、ですか…改めて見たところ、確かにアーティファクトのような、オーバーテクノロジーを感じますが…」


少女が見つめる中、少年はおもむろに黒い剣に手を触れる。すると、少年を頭痛が襲う。


「…ぐっ!」


「! 大丈夫ですか?」


「だい、じょうぶ……あ…そうだ…思い、出した…」


苦悶しながら、少年は、頭に浮かんだ言葉を口にする。


「僕の名前…レイヴ…レイヴ・アーボス…そして、黒い剣の、名前は…偽王の剣《ダイン、スレイヴ》…うう…」


「え…って、大丈夫ですか?ちょっと!あの!わたs…」


少女の叫ぶ声が遠のくと共に、少年───レイヴは意識を落とした。







かくして、謎の遺跡に封印されていた少年レイヴ・アーボスの予言を叶える旅が始まった訳だ。にしても、厄災、厄災ねえ…まーたこんなこと押し付けるなんて、ほんと人使いが荒いよ全く…はいはい、わかったって。あの少年をそれに対抗出来るようにサポートすればいいんだろ?俺としては別の目的の方が重要だから、面倒事は抱え込みたくないんだけどな。仕方ない、か。

読んで下さりありがとうございます。

記憶喪失の少年レイヴ・アーボスの旅はこうして始まりました。レイヴに歴史を話してくれた少女、そして最後に語っていた謎の人物は一体何者なのか。

次回、もう少し世界観を深掘りしていきますので、是非読んでみてください。

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