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中 第八幕 舞台

ようやく中の最新のシーンにリンクできました。


クレアが選んだ道を見守っていただけたら幸いです

「解呪完了……重症化は……していませんね」


 薄い幌越しの明かりと魔術の光源に照らされたアリアの様子を見てレインフォルトは息をつく。


 そして、何かしらの薬の調合を始める。


 アリアの許に戻って来た私は再び空を飛べたことを喜んでいる場合ではなかった。


 帰りは手術の指導とシミュレーションを脳内で受けることとなったからだ。


 レインフォルトの送ってきたイメージは鮮明かつリアルだった。


 兄であるアルフレッドの手術は見てはいたが、改めて治すために人の体に刃物を入れることが生半可なことではないことがわかった。


 女の身でもあるし、さらに聖騎士なんてことをしていたから訓練中の事故などで血はある程度見慣れてはいたが、それが救う対象の、さらに言えば未来ある少女のものであるのなら話は別だ。


 押し寄せる不安、緊張……


 そんな中、調合を終えたレインフォルトの操る私の体は忙しなく動きだす。


 アリアの両親も場に居合わせている。


 張り詰めた空気の中、極めて細い針を何本もアリアの身体に打ち込む。


「この針で神経の伝達を鈍くできます、打ち込む位置が重要です、更に幻術による感覚の置換を行い……」


 レインフォルトは鮮やかな手際で作業を進め、片手間で説明しつつトラードの廃墟で御者が自らの首筋に刺していたものに似ている針のついた筒を取り出し、調合した薬を注ぐ


「そして、この薬を腰椎……背骨から投与することによってさらに痛みを軽減します、これらを複合的に行うことにより身体への負担を極めて少なくできます……アリア……痛いですが少し我慢をしてください……ご両親はアリアの身体が動かないよう押さえてください……」


 レインフォルトの指示にアリアの両親は従う。


 レインフォルトはアリアに声をかけて背骨に針を刺して薬剤を注入する。


 アリアは呻き声を少し上げるが激しい反応は見せなかった。


 もう、そうする力もなかったのかもしれないが……


 レインフォルトは指示を出してアリアを仰向けに寝かせて両親を外に出させる。


 レインフォルトがアリアに背を向けて手を翳すと、私の髪が靡き、空気が動くのに伴って馬車の中の塵が集まるのが見える。


 集まった塵を馬車の外に追いやり、次に荷物から取り出した瓶からアルコールの匂いのする霧が湧き立ち、馬車内を満たした後にすぐに消える。


 アリアに向き直ってしゃがみ込んだレインフォルトはアリアの脇腹に瓶の中身の液体を綿に浸して塗りつけてさらに乾いた布で拭き取り、荷物の中から手術道具を取り出し、小さな刃物……メスを取り出す


「さぁ、ここから後はあなたの舞台です……」


 そ言葉を境に身体の支配権が私に移ると同時に私の身体が震え始める。


 私は震えを抑えようと左手で自分の肩を抱く。


 しかし、震えは収まらない。

 

「……収まれ……お願いだから収まって……」


 私は湧き起こる震えを必死に抑えようと自分に何度も言い聞かす。


『クレア……目を閉じてゆっくりと何度か大きく息をして力を抜きなさい……落ち着くことこそが肝要です……』


 もう慣れてきたレインフォルトの皮肉混じりの言葉に私は従い目を閉じて大きく息を吸い、そして吐き出す。


 何度か繰り返していると、落ち着いてくるのが分かり、震えが収まってくる。


 私は目を開け、視線を下に向ける。


 そこには私が救うと決めた少女が板張りの床にその身を横たえていた。


『さあ、舞台は整いました……術式を開始しましょう』

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