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中 五十七幕 役割

 もうあれからどれくらい経っただろうか……


 見慣れない街並みを私とレイナードは歩いていた。


 私は少し後ろを歩いているレイナードを軽く振り向き気味に横目で見る。


 成長し、背も伸びたレイナードはただ黙して歩いている。

 小柄だった少年はいつの間にか私の背を追い越していた。

 何度も手を加えてきたため少し歪になった眼鏡のレンズが跳ね返す光でその眼差しは見えないものの、その表情はどこか物憂げに見えた。


 私は前に視線を戻す


 その先には黒衣の女性……ファラクの背があった。


 ファラクは振り向くことなく歩いている。


 あの後ファラクはレイナードの弟子入りを拒んだ。


 それは私達を想ってのことだというのは察している。


 異端者になることは生半可なことではない……ファラクと共に居て私はそれを痛い程に感じていた。


 レイナードがファラクに弟子入りの懇願した時、私とレイチェルはレイナードに思い留まるよう説得したものの、レイナードは諦めず食い下がり、ファラクと行動を共にすることを選んだ。


 バートは何も言わなかった。


 そして私はレイナードと共にバート達と離れて行動することにした。


 レイナードに疎まれても帰るよう説得を続けて、いざとなれば無理矢理にでも連れ戻す……それが私の……自分で決めた役割だ。


 あれから私達は助手としてファラクと共に何人もの患者を救った。


 ファラクは手伝うことを拒まなかった。


 2人きりで話す機会があった時、本当はレイナードを弟子に取りたいとも言っていた。


 この医師という仕事が素晴らしいのは間違いない……


 人の苦しみを取り除き生命を救う……それを成した時にかけられる掛け値のない感謝と達成感は何物にも替え難く、救えなかった人達がいることを差し引いてもファラクがこの道は自分に課された崇高な使命だと言い切るのも頷けた。


 一度出産に立ち会ったが、その時は新しい生命が祝福の中で懸命に産声を上げる姿に感動を覚えた。


 しかし、時代と教えはこの技術を許さなかった。


 異端者狩りは衰えを見せるどころかその苛烈さを増し、さらに広がりを見せている。


 こじつけのような理由で異端者の烙印を押された罪の無い人々が自分達の正しさを謳い熱狂する人々の手によって毎日のように火に焚べられ狂気の炎はその勢いと互いへの疑心暗鬼の嵩を増していく……今の私達を取り巻くのはそんな時勢……


 実際私達が救った人が何人も異端者として断罪され殺されていた。


 ファラクは「一部の人を慮る心のない者が煽動するからこうした悲劇が起こっている」と言っていた、だからこそ「人の全てを憎んではいけない」とも……


 しかし、"綺麗事が通用する程にこの世界は甘くない"というのが私の見解だ。


 今まで私達は心無い人間が同じ人間でも弱いと見た者に対してどれだけ非情になれるかを嫌と言う程に思い知らされてきた。


 このままファラクと同じ道を歩めば、レイナードは自分の優しさに灼かれて……命を落とす……私はそんな気がしていた。

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