中 第五幕 対面
暫しの空の旅を終え、私は荒野に点在する岩山の一つに降り立っていた。
私は余韻に浸っていた。
十数分程の飛行だったが貴重な体験だった。
『帰りにまた乗れます、身体をお借りしますよ』
私は半分夢心地で許可を出す。
レインフォルトが光球を生み出して大岩の後ろに入り狭い隙間を進むと、隠された洞窟が口を開けていた。
入り口から狭くなった岩の間を抜けていく。
光源が無ければ一切視界が利かない闇の中をレインフォルトは迷わず進んでいく。
やがて開けた空間に行き当たる。
レインフォルトが光球を斜め上に飛ばし、光を強めると、広間全体が照らし出される。
人工的に広げられたと思われる球状の広間の底に今まで歩いできた通路は繋がっていた。
床にも壁面にも膨大な数の文字と記号が刻まれている。
私の身体が球の中央の真下に来た時、文字と記号達に火が灯る。
その荘厳とも言える光景は突然湧き起こった白い光に飲み込まれた。
辺りを埋め尽くした光が粒子となって砕け散り、視界が晴れると辺りの光景は一変していた。
燃え盛る建物の中に私はいた。
私は一瞬焦るが、熱気を一切感じないことから危険がないことを察する。
気がつくと私の目の前には茶色いローブを纏った男が佇んでいた。
右手には白い蛇が巻き付いた意匠の杖を持っている。
目深にフードを被っているため顔を見ることはできない。
『ここは……?』
レインフォルトは少し戸惑いがちに呟く
『なるほど……まぁいいでしょう……』
すぐにレインフォルトは何かに納得したようでこちらに向き直り
『ようこそ、私の領域へ……生者のままでここへ来たのはあなたが初めてです……歓迎いたしましょう、クレア=ブランフォード』
男は聞き覚えのある声音で言ってフードを取る。
眼鏡をかけた男……どこにでも居そうな風貌だが、その奥底に秘した危険さを私は感じ取っていた。
『こうして対面するのは初めてですね……』
『……??、どういうこと?』
私は混乱し問いを投げかける。
『今現在、私もあなたも精神体として存在しています……先程の陣は精神をこの領域にアクセスするための装置と言ったところでしょうか……あなたが理解する必要はありませんが』
『私……戻れるの?』
『心配は無用です、肉体と精神と魂は本来は三位一体……不可分なものなのです、魂と肉体に損傷がないあなたの精神だけをここにいさせることの方が余程無理があることなのですよ』
問いかけに対してレインフォルトは苦笑して答え私に背を向ける。
『ここで待っていてください……物質の転送は流石に骨が折れますのでね』
レインフォルト言葉を残しその姿を消してしまう。
残された私は辺りを見回す。
目に入るのは炎と舞い散る火の粉、そしてそれらに照らし出された建物の内壁や崩れ落ちた梁や柱……
しかし、熱も音もなく、建物がこれ以上燃えて崩れる様子もない。
ただただ静寂の中で炎が燃えている。
レインフォルトが術を使う時、決まって見える炎に似ている。
『なんなの、ここは……?』
私は呟く。
『ここは、"彼"が死んだ……いえ、"生まれ変わった時"を再現した領域……』
背後から聞こえた声に振り向くと、そこには一人の女性が佇んでいた。




