中 第四十四幕 誘拐
揺れる馬車の中で私は猿轡を咬まされ、手首に枷をつけられていた。
なんとか状況を把握しようと窓の外に目を向けると流れる街並みと並走する騎馬兵らしき影が見える。
揺れ方と馬の足音からしてもかなりのスピードで馬車は走っているようだった。
馬車内では私の両脇を男と女が固めている。
2人共仮面をつけているため顔を見ることはできない。
そして、2人がほぼ同時に仮面に手をかけた。
時は少し遡る
「クレアお姉ちゃん!!」
アリアの声が響く。
それはあっという間の出来事だった。
診察が終わり、町の中を歩いていたクレアが目の前で仮面をつけた二人組に馬車に押し込められ連れ去られた。
あまりに鮮やかな手並みに場の全員が反応できなかった。
場所はポートギス辺境の町
ポートギスにどうにか入国したクレア達は戦場から少し離れた町に辿り着き、廃屋で診療所を開設し活動していた。
クレアも医師として経験を積んで様々な症例に対応できつつあった。
と言っても戦場に近い地域であるため一線から退いた兵士の外傷や筋、関節の治療が多く偏りがありはしたが。
今回もカルロスの持つ資金とエレノアの持つ謎のコネが助けになった。
そして、どうにか診療所が軌道に乗ってきたある日……それは起きた。
慌てて走り去る馬車を追いかけようとするアリアをカルロスが止める。
「離して!クレアお姉ちゃんが!!」
「とにかく落ち着くんだ!」
アリアをカルロスは冷静に嗜める。
その時、馬に乗り抜き身の剣を携えた2人の男達がアリ達に立ち塞がるように割り込んでくる。
アリアがそのまま駆け出していたら馬に跳ねられていたかもしれない。
2人の男はそのまま馬車に続き走り去っていった。
「……クレアを救ける手段は……?」
冷静なエレノアの言葉にカルロスは険しい表情でクレアの消えていった方を睨み
「……あの動きは只者じゃない……恐らくはかなりの訓練を受けた軍属だ……俺達がただ追っても徒に身を危険に晒すだけだ……」
カルロスの言葉にエレノアは顎先に軽く握った手を添えて少し考え
「……あまり使いたくはないけど……しょうがないか……私は父の伝手を頼りにいってくる……夕方にアジトで落ち合いましょう」
そう言ってエレノアは路地裏に姿を消す。
「あの……エレノアさんのお父さんって……?」
アリアの問いにカルロスは苦笑し
「今はしがない場末の酒場のマスターだけど、昔は盗賊ギルドを取り仕切り、国にその存在を認めさせるに至った偉大なギルドマスターだったらしい……裏稼業の世界ではその名を知らぬ者が居ないほどの影響力があるという話だ……だからこそ俺も頼ったんだがな」
カルロスは立ち上がり
「……さて、俺達は俺達のやれることをやろう」
歩き始めるカルロスに逸る心を抑えつつアリアは続いた。




