中 第四十三幕 城なき王家(ラフシド ヘイル)
「どうなっているウィルヘルムよ!?、いつになったらアーデルハイムをここに連れて来れるのだ!!?」
豪奢な法衣を纏い、幾人も従者を連れた老人は手に持った雌獅子の意匠があしらわれた杖を握りしめ嗄れた声を震わせ激昂した。
深い皺が刻まれた肌は赤みを帯び、窪んだ眼窩の奥に燃えるように紅く充血した目からも頭に血が昇っていることは明らかだ。
その眼前で片膝を突き頭を垂れ控えるのは白と赤を基調としたローブが似合わない髭を蓄えた偉丈夫、ウィルヘルム枢機卿……
「その件については誠に申し訳ございません……オルフェリウス教皇猊下」
ウィルヘルムは体勢はそのままに老人に対して謝罪を口にする。
「謝罪の言など聞く耳持たぬ!今すぐここにアーデルハイムを連れて来い!!そして彼奴の持つ"不死の秘法"を手に入れよ!犠牲は厭わぬ!信者のネットワークを活用しろ!」
大声と唾液を撒き散らして老人はヒステリックに捲し立てる。
「……仰せのままに……」
ウィルヘルムはさらに頭を下げる。
漸く落ち着きを取り戻しふらつきを見せた教皇はお付きの者に支えられながら椅子に腰掛ける。
「……行け、ウィルヘルム……失敗は許されぬと知れ……」
教皇の言葉にウィルヘルムは立ち上がり、無言で恭しく一礼して退室する。
「儂の体よ……持ってくれ……漸く手に入れた地位なのだ……」
「教皇猊下!お体に障ります、お休みください!」
息を切らせながら言葉を紡ぐ教皇を従者の一人が宥める。
「……より強固に、そして広くアリエラの教えを広めねばならぬ……我ら服わぬ民の末裔が世の思想を統べる……その悲願が叶うまで儂は死ねぬのだ……」
しかし、オルフェリウスは目を閉じたまま自らに言い聞かせるように呟き続ける。
「そして、アーデルハイム……"城なき王家"に連なる末裔である彼奴も……儂の手で消さねばならぬ……」
息も荒く教皇は言葉を紡ぎ、グッタリと椅子に身体を預ける。
この数ヶ月後、教皇オルフェリウス崩御の報が世界を駆け巡ることとなる。




