中 第三十九幕 負傷兵
私は体を震わせて目を開けた
「……⁉︎……‼︎?」
同時に放り出された光景は梢の間から陽の光が差し込むどこかの山道だった。
「………………っつ!!」
戸惑う間も無く襲いかかってきた頭痛に私は額に手を当てる。
どうにか視線を巡らすとアリアにエレノア、カルロスがそれぞれに大きな石の上に座って私を心配そうに見ている。
さっきまで自分が何をしていたのかわからない。
自分はどこにいた?何をしていた?
「クレアお姉ちゃん……どうしたの?」
「……あ、あぁ……アリア……私、寝てた……?」
朦朧とする意識の中で少女の呼びかけに私は問いを返す。
「少しの間動かなかったけど、ほんのちょっとの間だったよ?」
アリアの言葉に私は眉根を寄せつつも 回復してきた思考力を回転させる。
恐らくさっきまで私はかなり長い夢を見ていた……しかし、今回は内容を思い出せない。
まだ頭痛が私を苛んでいる。
短時間で多くの量の情報が頭に流れ込んだ……そんな感じがした。
"ヴァロワレアンの工房"で吐いてしまった時によく似ている症状……あの時に比べればかなりマシだが。
「大丈夫か……歩けそうか?」
カルロスの言葉に私は少し無理をして笑みを浮かべて頷く。
「……異端審問官の襲撃があった以上、移動せざるを得ない……辛いところだけど頑張るしかないわ……」
エレノアは自分が住んでいた町の方に目を向けて物憂げに目を細める。
私はなんとか記憶を呼び出して頭を整理する。
異端審問官ミシュパートの襲撃を受けた後、私達は話し合いをしてすぐに移動することにした。
エレノアの父、酒場のマスターであるトビーに相談すると山道のルートを勧められたものの、ポートギスと帝国の衝突が激しさを増しているため二国間の戦闘に巻き込まれるかもしれないと忠告された。
しかし、あの異様なまでに私達に対して執念を燃やす危険な異端審問官ミシュパートに所在が知れたままでただ座して待つわけにもいかず、私達は深夜を回っていたが準備と出発を決行した。
エレノアの蒐集した貴重な薬草を厳選する作業が思いの外難航し出発は翌日の昼を回ってしまった。
その後かなり歩き続け日が西に傾き始め、さすがに疲弊を感じ少しの休憩を取ることにして岩に腰掛けた途端に私を睡魔が襲った。
寝てしまったのはどうやら少しの間のようだが、ぼやけた記憶の中で恐ろしい程に濃密な体験をした……そんな確信が私にはあった。
「そろそろ行くか……ここはいつ戦場になってもおかしくない地域だ……」
カルロスの言葉に頷き、私達は立ち上がる。
その時、突然薮が揺れて人影が姿を現す。
それは明らかに兵士だった、しかし私が驚いたのは……彼のその姿だった。
彼の着ている軍服は血で染まり、深傷を負っていることが一目で見て取れた。
見た瞬間に私は彼の死が近いことを悟った。
兵士は驚きの表情を浮かべていたが、すぐ怪我の痛みと疲弊を思い出したように苦鳴をあげて地面を覆う木の葉の上に膝をつく。
私は慌て負傷兵に駆け寄り手を差し伸べようとしたその時
『どうするつもりですか?見ての通り彼は助かりませんよ』
レインフォルトの冷たい言葉が私の頭の中に響いた。




