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中 第三十八幕 聖画

一種のおどろおどろしいシーンなのですが、美しい表現を目指して書きました。

この行為は法的に許される人のみが行える行為となります。

そんなことをする方がいるとは思っておりませんが決して真似はされないようこの場でお願いいたします。


このシーンでは死を冒涜するのではなく、生きることを知るために彼女はこの行為に及んでいます。

そこはご理解ください。


改めてになりますがこの作品は15歳未満の方は閲覧をご遠慮いただいております、悪しからず。

 墓碑を前に黒衣の女性、ファラクは地面に膝をついて祈りを捧げていた。


 辺りを包む静寂と闇を照らす術の無機質な明かりの中、言葉もなく手を組んで祈りを捧げる彼女の姿は美しくさえあった。


 私達も習い、祈りを捧げている。


 これから目の前でされることは背徳的なものなのだとは思う、しかし今場を支配するのは静寂と、どこか神聖さすらも感じるかなしみ……


 やがてファラクは立ち上がり死者が下に眠る地面を丁寧に掘り始める。


 私達も手伝う。


 やがて現れた黒塗りの柩の蓋を開けると,現れたのはまだ瑞々しく咲き誇っている花々とそれに囲まれた儚げな少女の姿だった。


 私達とさほど歳が変わらないように見受けられる。

 柩の中を埋め尽くすように咲く花の中で眠るように彼女はその身を横たえていた。


 場の全員が息を飲む。


 こんな女の子が出てくるとは誰も予想していなかった。


「ーーーーー……」


 ファラクは声にならない声を漏らしながらも改めて祈りを捧げ、骸骨の腰に下げている折り畳まれた布を地面に広げ、懐から取り出した手袋をはめて柩の中の花を取り出し始める。


 私達は予め取り出したファラクの荷物を運び、その後はただその様を見ていた。

 ファラクから遺体に触れる可能性のある行為をしないよう強く言われていたたからだ。

 理由としては遺体から病気が伝染することがあるとのことだった。


 控えていた二体の骸骨と協力して少女の遺体を布の上に移して服を丁寧に脱がし始める。


 バートとレイナードはその間目を逸らす。


 さらに取り出した布を被せて腹部だけが露わになった状態にした遺体を前に一礼し、ついにその肌にファラクの取り出した刃物が這わせられる。


 ゆっくりと鮮やかに白い肌に刃が潜り滑る。


 私は無意識に自分の表情が歪む何とも言えない感覚を感じながらその様を見ていた。


 切り開いた腹部の中を見てファラクの動きが止まる。


「う……」


 ほぼ同時にレイチェルが声を小さく上げる。


 そして直後に私達もレイチェルと同じ反応をした。


 異様な臭気が辺りに漂い始めていた。

 理由は明白で少女の腹部から漏れ出したものだ。


 ファラクの頬を涙が光の雫となって伝い落ちる。


「……私なら貴女あなたを助けられたかもしれない…………ごめんなさい……助けられなくて……」


 ファラクは少女の顔を見て呟いて涙を拭い


「貴女の死も、この行為も決して無駄にはしない……」


 そう言葉を続けて再び手を動かし始める。

 ファラクの所作は洗練されているように見えた。 

 これで未熟だというのならばどれだけの技術がこの治療には必要なのだろうか……

 

 夜が更けると共に雲間と梢の隙間から差し込む幻想的な蒼い月明かりと術の光の中で一幅の聖画の中に描かれる神聖な儀式のようにそれは粛々と執り行われていく。


 私達は辺りを覆う臭気はおろか息をすることすら忘れてそれに見入っていた。


 ファラクは少女から取り出した臓器と腹部の中を汚している膿らしきものをできるだけ綺麗に取り除いて観察したのちに臓器を腹部の中に戻し、収まり切らないものと汚れを壺に納めてふうほどこした。

 

 そして、特殊な形の針で皮膚につけた傷口を縫い合わせていく。


 それはほとんど縫い目がわからない程に美しい縫合だった。

 私も今は糸と針でお金を稼いでいる。

 たまに丁寧だと褒められる程度の腕前はあるが、目の前で行われたそれは芸術的なまでに美しく目立たない縫い目だ。


 遺体を何かしらの液体で清めたのち手袋を取って容器から取り出した何かしらの粉を腹部に塗して馴染ませると、殆ど傷口はわからなくなった。


 どうやらそれは化粧のようだった。


 少女の遺体に器用に服をまた着せて、ファラクはさらに少女の顔を清めて化粧を施し始める。

 

 アリエラの教えから考えて死化粧は許されないおこないになるだろう。


 "自然のあるがままに天命てんめいを全うし、あるがままに朽ちよ"


 そんな文言がアリエラの教えにはある。

 私が幼く両親が生きていた頃にそらんじられるほどに聞いた聖書の教え……人の体に刃物を入れることを禁じるのもここに由来する考え方だ。


 様々な工程を経てみるみるうちに少女の顔に生気が宿っていき美しくなっていく。

 彼女がまた目を開けて起き上がってくるのではないかとさえ思える程だ。


 最後に唇に淡く紅を差し、ファラクは再び手袋をはめて遺体を柩に納めて花を戻し始める。

 私達も近くで摘んだ花を名も知らぬ少女に手向たむけた。


 そして、最初に見た時よりも美しくなった少女を柩に納めて、私達は祈りと共に再び彼女を送り出した。

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