中 第十九幕 青空
「……どうかな?」
私はアリアに問いかけた。
「うん……私、やりたい……私と同じような人を救ける手伝いがしたい!!」
笑顔で答えるアリアに私は内心で胸を撫で下ろす。
まだ両親を失って間がない彼女に言うには早いのではないかと案じていたからだ。
「……それにきっとお父さんとお母さんも……そうしろって言ってくれる……ありがとう、お姉ちゃん!」
いい終わるのと共にアリアの頬を涙が伝う
「あれ……なんで……私……涙……出て……?」
アリアが自らの目から溢れ出る涙に戸惑いながらそれを拭うが涙は一向に止まる気配が無い
「あれ……あれ?」
私は戸惑うアリアを抱きしめる。
「我慢……しなくていいんだよ……」
アリアの耳元で私は精一杯の優しさを込めて囁く。
アリアは小さく驚いた後、少しの嗚咽を経て泣き声が彼女の喉から迸った。
私はアリアを抱きしめたまま空を見上げる。
慟哭は突き抜けるような青に広がり溶けて消えていく……
いつか、彼女の悲しみを取り払ってあげることができるだろうか……
そんなことを考えながら泣き止むまで少女を私は抱きしめ続けた。
時は少し遡る
私達の乗る馬車はレインフォルトの導きに従って馬車を進めてある街に辿り着い数日が過ぎていた。
ここは帝国の南に位置する商業国家ポートギスとの国境に程近い町だ。
ポートギスは帝国と長年争いを繰り広げており、アリエラの教えもそれほど浸透していないようだった。
ポートギスは帝国の侵略を退け続けている小さな強国だ。
そこにはレインフォルトの協力者がおり本拠地とも言える場所もあるとのことでとりあえずの目的地としてレインフォルトが提案してきた場所だ。
ほかに当てもない私は従う他ない。
しかし、越境は容易ではない上にポートギス入国後も油断はできないだろう。
私は自分が本格的に難民という立ち位置になったのを実感していた。
同時に自分の世間知らずさを思い知ることとなった。
レインフォルトの助力無しでは買い物ひとつ満足にできない自分に不甲斐無さを感じるがそんなことも言っていられない。
馬車の荷台からアリアが出てくる。
アリアは順調に回復していた。
痛みは少し残っているようだが抜糸も済ませて日常生活も支障が無い程度まで回復している。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
アリアが不安そうに話しかけてくる。
どうやら私も不安げな表情をしていたらしい。
「なんでもないよ、アリアはもう少し寝てて」
私は表情を笑顔で繕ってそう答えた。
アリアは申し訳無さそうに馬車の中に戻っていく。
まだ伝えていないが、私はアリアと一緒に生きていくことにした。
放っておくことなど出来ないし、ここに来る間もアリアの両親の遺した物の世話になりっぱなしだ。
ここに来るまでの食料はアリアの両親が馬車に置いていたもので賄い、どうにかここに辿り着けた。
しかし、それも残り少ない。
路銀はアリアの両親が無言で置いていったお金があるため、ある程度の期間持ちそうではある。
あの後馬車の片隅で見つけた皮袋にそれは入っていた。
袋の中には私への感謝の意が書かれた木片とそれなりの額の貨幣が入れられていた。
私に無理矢理渡すつもりだったのかもしれない。
大切に使わせてもらうことを誓い、私はそれをありがたく貰うことにした。
しかしそれでも目的地に着くまで持たないだろう。
『あなたは頭が回りませんね……路銀が必要なら私を利用すればいいことでしょう、治療をして患者を治すのが医師の仕事です、これはあなたの経験にもなる』
レインフォルトが語りかけてくる。
『そんなことをして……大丈夫なの?』
私の問いにレインフォルトはため息を吐き
『治療をして金銭を貰うのは真っ当なことですよ……』
『でも……』
私はアリアの両親のことを思い浮かべる。
『治療は手術だけではありません……むしろ多くの場合手術は最終的な手段です、しばらく診療は私が受け持ちます、学んでください』
レインフォルトの言葉に私は黙り込んだ。
『……そうだ、ちょうどいい、アリアには助手を務めてもらいましょう……さて、善は急げと言いますからね……行動に移りましょう、まずはアリアに了承を取り付けてください、次にこの辺りの薬師に会わなければ……手持ちの物もありますが少々心許ない……」
レインフォルトは意気揚々と話を進め始める。
私は気乗りしないが荷台の幌を潜り、彼女に私の助手をしないかと話を切り出した。




