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第十五幕 誠意

「……う……ん……」


 アリアが目を覚ましたようだった。


 レインフォルトは私の身体を使って無言で馬車を進める。


 ゆっくりと蹄が音を刻み景色が流れていく。


 街から馬車は間もなく出つつあった。


 私は抵抗を諦めていた。


『……ねぇ……』


 私はレインフォルトに声をかける。


 レインフォルトはただ馬車を進める。


「……お父さん……お母……さん?」


 アリアが両親の不在に気付き声を上げる。


(まったく……何百回経験しても、こういったことを伝えることに慣れる気がしませんね……)


 レインフォルトは漸く聞き取れる程の小さな心の声で呟き、私の口から溜め息が漏れた。


「……お父さんっ!お母さんっ!?なんで居ないの!?なんで、馬車……進んで!!?」


 アリアが声を上げて身を起こそうとする。


「起きてはいけません……傷口に障ります」


 察して声をかけたレインフォルトに対するアリアの刺すような視線を背中に感じる。


「あなたは……だれ!?クレアお姉ちゃんじゃ……ないよね!?」


 アリアは気が立っているようだった。


 無理もない、彼女からすれば今の状況はこれ以上ない緊急事態だ。


 信頼する両親がいない上に自分を救ったとはいえ得体の知れない存在に拐われているような状況だ。


「私はレインフォルト=アーデルハイムといいます……訳あって今はこの……クレア=ブランフォードの身体に居候させていただいています……今は変わって見せられませんがね」


「お父さんとお母さんは……どうしたの!?」


 アリアの鋭い問いかけにもレインフォルトは冷静に、馬車を進め続ける。


「二人は……もう戻ってきません……異端審問官に捕えられました」


「うそ……うそよ……」


レインフォルトの言葉にアリアは絶句する。


『何を言ってるの!?』


 あまりに酷な現実を少女に突きつけたレインフォルトに対し私は声を上げる。


『……それでは嘘をつきますか?その意味は?その優しさか何かは知りませんが、それで彼女は救われますか?』


 レインフォルトの念話に私は思考を詰まらせる。


「……アリア、真実を伝えるのは私なりのあなたに対する誠意です……」


 レインフォルトは行く手を見ながら失意にくれるアリアに声を掛ける。


「あなたは今混乱していることでしょう……取り繕おうと思えば私は偽りをあなたに伝えることもできましたが……一人の人間として偽りなくあなたと向き合うことを選ぶことにしました……」


 アリアの嗚咽が背中越しに聞こえてくる


「私を信じるか否かはあなたが決めることですが、今はあなたのためにも私を信じて治療に専念してください……お願いします……そして、家に一旦帰ると言って出て行ったご両親を止めきれなかったことをお詫びします……」


 アリアが声を殺して泣いているのが伝わってくる。


 馬車は淡々と進んで行く。


 "人を救うことすらも罪"


 この出来事は異端者として生きるということを私に思い知らせ、そしてレインフォルトという男がこれまでどれだけ困難な道を辿ってきたのか……その一端を見た気がした。


 私は思いを馳せる。


 この男は異端の医師として生き、こういったことを数えきれない程に経験してきたのだろう……


 町を出ると共に開けた視界には人の悲しみなど意に介さないと言わんばかりに輝く陽の光と雲一つない青空が広がっていた。

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