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中 第十幕 見知らぬ夢

 アリアの手術を終えて、私は気が抜けてしまい馬車の天井を寝転んでただ見つめていた。


 服はアリアの母親から譲り受けたものに着替えている。


 少しサイズが小さめだが、破れたドレスよりは格段にマシだ。


 夫妻が申し出てくれた時は本当にありがたかった。


 アリアを見ると、母親に寄り添われ看病されていた。


 まだ麻酔が切れていないようだが、今夜あたりからかなりの痛みに襲われることだろう。


 アリアの父親はゆっくりと馬車を進めている。


 行き先は彼等の住む町。


 私は夫妻に同行させてもらうことにした。


 アリアの術後の経過も見なければならないし、私は異端者として歩むことを選んだ……もう自分の家に帰ることはないだろう。


 貴族として生きてきた私がこの何もかもが今までとは違う環境で生きていけるだろうか……


 私の心に不安が広がる。


 そして、同時に抗い難い強烈な眠気が私を襲った。


 私は重い瞼を懸命に開けようとするが、吸い込まれるように私の意識は闇に落ちた。





「シェリー、起きろシェリー!」


 知らない少女の声が呼びかけてくる。


「う……ん……レイチェ……ル?もう少し寝かせてよ……」


 私の意思とは関係なしに声が紡がれる。


 私の喉から発せられたのは私の声ではなく、まだあどけない少女の声音……


「そんなこと言ってる場合かっ、憲兵がここに近づいて来てるんだよ!、逃げるぞっ!!」


 口の悪い少女の呼びかけに私であって私ではない身体が跳び起きる。


 寝惚け眼でボヤけた辺りを見回すと、目の前の私を起こした少女と幅広い年齢層の少年少女達が粗末なボロ布と木で作られた家の中で慌ただしく動いている。


 ようやくハッキリとしてきた意識と視界、私を起こした少女の言う「憲兵が近づいていている」の意味にようやく思考が辿り着いたようで、私の体が慌ただしく動き始める。


 とりあえず持てるものを持ち、家の裏口から飛び出す。


 外に広がる景色は悲惨なものだった。


 辺りは立ちこめる異臭と埃を含んだ空気で覆われており、剥き出しの地面の上に密集する粗末な家とよべるかも疑わしい建物の群れ……


 こんな場所の存在を耳にしたことは私にもあった。


 一般的に貧民街……スラムと呼ばれる場所だ。


 体は私の言うことを全く聞いてくれない。


 それどころか明らかに自分の体ではない。


 この場に居ながらにして傍観者……そんな不思議な感覚……


 私は思考を巡らせる。


 私は確かアリアの手術を終えて……眠気に耐え切れず寝てしまったのか……


 私はこれが夢であることに気づいた。

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