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超次元電神ダイタニア[Data Files]  作者: マガミユウ
9/29

[Data09:進一と陽子【一】]

※こちらは本編第二十二話で、風待がそよに、源信がまひるたちに聞かせた迫田進一の過去の物語になります。

俺はそよ君と二人きりで話をすべく、ザコタ君を客間に残し、ミーティングルームにいた。


「浅岡陽子、という名前に聞き覚えは?」


俺はどうしても初めに聴きたかったことをそよ君に訊いた。そよ君はその名前に聞き覚えはなかったようで首を横に振る。


「そうか…君を初めて見た時、正直この目を疑ったよ。君はその浅岡陽子さんに瓜二つなんだ」

それ程までに、俺の記憶の中の先輩の顔によく似ていた。


「あ、あの、そんなに似てますか?」

そよ君は不安そうな顔で俺に聞いてきた。


「あぁ、そっくりだ。……いや、もう十年も前だ。俺の記憶も薄れている。背も君ほど高くなかったし、肉付きも良かったように思う…だが、顔だけはよく似ているんだ」

俺は、自身の掌を見つめながら、風化を止めることが出来ない人の記憶を憎んだ。


「大学の頃の先輩でね。よく面倒を見てもらったよ…」

昔を懐かしんでも、現状は何も変わらない。この十年で嫌というほど思い知ったはずだ。

「あの、その方は今はどちらに?」

そよ君は気になったのか、浅岡先輩のことを訊いてきた。そりゃそうだよな…

俺はそよ君の顔をどうしても見られず、遠くを見たまま答えた。

「死んだよ。十二年前にね…」


挿絵(By みてみん)


「…亡くなった……」

そよ君は驚いたと同時に、少し俯いた。

「あぁ……」

それから俺はそよ君に大学時代の思い出話を語り始めた。この話を誰かに話したかったというのもあるかも知れない……



大学の入学式も終わり、周りのサークル勧誘とにらめっこしながら、俺は中庭にあるベンチに腰を下ろしていた。


「ふう……」

サークルにも入る気が全くない俺は、ただただ、この新歓期間が早く過ぎてくれることを祈っていた。同じことを考える者は他にもいるらしく、その殆どは長テーブルを囲んで立ち飲み状態だ。


(折角大学まで入ったってのに、くだらんサークル活動なんかに時間をとられてたまるかよ……)


俺は、大学でも大半を授業に費やしたかった。

家業の寺は兄貴が継ぐことが判っていたし、両親からも進路について煩く言われなかったので、科学が特に好きな俺は迷わずこの大学を志望した。

何と言ってもこの大学には()()がある。

ここの理学部でしか学べないことを今学ばずにいつやると。そんな考えで一杯だった。

挿絵(By みてみん)


「はぁ……」

深いため息をついても状況は変わらないのは分かっているが、思わず出てしまうものだ。俺はもう一度深くため息をついた。

そんな時、一人の女子学生が俺の目の前に立っていた。


(?なんだこいつ……)

肩まで伸ばした焦げ茶色の髪と人懐こそうな笑顔。白のタートルネックに薄茶のジャンパースカート。中肉中背で正直見た目は可愛かった。

俺がそいつを訝っていると、その女子学生はいきなり俺の手を引っ張って何処かへ連れて行く。


「お、おい! なんなんだよ!」

俺がそう聞くと、その女子学生は答えた。

「あなたも新入生でしょう? さっきから見てたけど、ずっとそこに座ってるだけじゃない」


(なんだこいつ!?)

俺は、その女子学生の手を振り解こうとしたが、力が強く、振り解くことが出来ない。

「ちょっと付き合ってよ!暇してるんでしょ?」

俺はそのまま強引に引っ張られ、中庭を後にして何処かへ連れていかれた。


(ったく……一体全体何が目的なんだよ……)

俺が連れて来られたのは大学の研究棟だった。俺の手を握っていた女学生は研究棟の一室に入ると、ようやく俺の手を離した。そして、俺を椅子に座らせると、その女学生も俺の前に座った。


「あたしは浅岡陽子!」

(…ようやく自己紹介なんかし始めたぞ…大丈夫か?)

俺は呆れながら答えた。


「……迫田進一。一体何の用だ?」

すると、その浅岡さんはこう答えた。

「あなた、サークルに入らないんでしょ?私と共同研究しない?」

あまりにも唐突な提案だったので、俺は咄嗟に言い返せなかった。

挿絵(By みてみん)


「あなた、ゲーム好きでしょ?」

こいつ……一体何者だ? 俺は、浅岡さんの言葉に興味を持った。なぜ俺がゲーム好きって判ったのかを知りたかったからだ。だが、それを知ってどうする?こいつが何者かも分からないのに……


「……どうしてそんなことが分かるんだ」

とりあえず、俺はその疑問をぶつけることにした。すると、その女学生はまたいきなり核心を突いてきた。


「だって、あなたの手、ゲームをやっている人の手だもん」

「な……」

俺は絶句した。ゲームをしている奴の手なんか、誰でも似たり寄ったりだと思っていたからだ……だが、何故か俺の心臓は高鳴った。この感覚は何なんだろう?


「それで、どうするの?」

(どうするって……そんなの俺が知りたいよ)

俺はいきなりの展開に唖然としながらも、口を開いた。


「……全然話が見えない。一体何の研究をしてるってんだ?」

俺がそう言うと、浅岡さんは笑顔で言った。


「電脳世界の研究よ」

「は?電脳世界の研究だって?」

俺は思わず聞き返してしまった。そんなもの、どうやって研究すると言うんだ? 俺が訝しんでいると、浅岡さんは語り始めた。


「そうよ。この世界はリアルだけど、よく言われているバーチャルリアリティの世界って一般的に言うと仮想空間、非現実な世界ってことじゃない?でも、もしその仮想空間で実際に暮らしてる人がいたとしたら、それはもう一つの現実なんじゃないかな?それを証明したいの」

何を言っているのかさっぱり分からなかったが、その話を聞いているうちに少しずつ興味を持ち始めている自分に驚いた。


「そしてね……もし、現実世界と電脳世界が、一つになる世界があるとすれば、あなたはどうする?」


「はぁ!?」

いきなり何を言っているんだ?俺は呆気にとられた。だが……もしそれが可能になったら、人は何を目指す? 一体どんな技術が必要になる? そして何より、それは実現出来るのか? 最近『バーチャルエクスペリエンス』という映像を網膜を通して脳に直接信号を与える映像技術が発表もされた。もしかしたら……

俺の頭の中では様々な疑問が浮かんでいた。気がつくと、俺は口が勝手に動いていた。


「面白そうだな……」

「うふふ。あなたならそう言ってくれると思ったわ」

浅岡さんは、そう言うと俺の方を見た。その目は、まるで獲物を狩る野獣のような目をしていた。俺はその視線に釘付けになったが、やがて我に返ると、浅岡さんから視線を逸らした。


(一体どういう女だよ……顔はいいが、行動が目茶苦茶だ…)

俺がそう思っていると、突然研究棟の中が暗転した。停電かと思ったが、他にも何人か人の気配がする。

そして明かりが付いた。


「な、なんだ!?」

俺が驚いていると、目の前に奇妙な光景が飛び込んできた。それは……俺の目に映る全てが、巨大なスクリーンになったような錯覚を起こさせ、そこには『新入生歓迎!』の文字が書かれていた。


「大胆に科学を愛そうかい!『大胆科学愛想会』へようこそ!」


浅岡さんは他の学生と一緒にそう言うと、俺に手を差し伸べた。

要するに、これは新入生狩り!?

俺はまんまと引っかかったのか……


「ふ、ふふ……」

俺は乾いた笑いを浮かべて、その場に座り込んだ。

「……くっそ……」


「よくやったサニー!新入生第一号ゲットだな!やあ君、立てるか?俺は三年で部長の小西貴之(こにしたかゆき)。あだ名はコニシキだ。よろしくな!」

そう言いながら、大柄で体格のいいコニシキと言った先輩が俺に手を差し伸ばして来た。

俺はコニシキの手を握り、立ち上がった。


「こんな騙し討ちみたいなことしてくれて…俺は入るなんてまだ一言も…」

俺がそう言うと、コニシキの隣にいた赤い髪を下の方で二つに結った細身の女子が口を出す。


「君?さっきのサニーの話を聴いて面白いと思ったんでしょ?ここ、向いてると思うよ?あたしは三年の三橋千登世(みつはしちとせ)!通称ミッチー!よろしく!」

そう言うとミッチー先輩は俺に向けてウインクをした。


「まあ、彼にも選ぶ権利はある。新入部員獲得に躍起になる気持ちも解るが、余り無理強いをするな」

コニシキの後ろから落ち着いた声がする。コニシキの巨体に隠れて見えてなかったが、そこにはもう一人男がいた。眼鏡を掛けていて口調もインテリ然としているが、ロン毛でアニメの美少女が描かれたTシャツを着ていた。


「このお堅く見えてオタクな男は堂島九曜(どうじまくよう)。俺たちと同じ三年!あだ名はドク!」

コニシキが得意気に言ってのける。

「ドクじゃない、“ドック”だ」

コニシキの間違いを、ドク先輩は不満気に訂正する。そんなやり取りを見て、俺はこの部がとても異様な部に見えていたと同時に、奇妙な好奇心が湧き始めていた。


「そして、唯一の二年メンバー!さっき新人勧誘クエストを命じられた勇者…」

コニシキがそう言うと同時に、背後から先程俺をここまで連れて来た女子学生、浅岡さんが現れる。


「浅岡陽子!二年よ。陽子の陽は太陽の陽!だからサニーってあだ名勝手に付けられちゃって。えへへ…」

浅岡さんは少し照れながら、自分のあだ名を俺に教えた。

「は、はあ……」

俺もう何が何だか分からなくなってた。


サニーこと浅岡先輩が俺に訊いてきた。

「いきなり連れてきてごめんね。あなたの名前、もう一度みんなに教えて?」

「迫田進一だ」

俺が答えると、コニシキが口を開く。

「迫田…迫田か…ふむ!では改めて、ザコタに訊ねよう!君はこの部に入ってもいいと思っているか?」


「ちょ!何サラッと勝手にあだ名付けて呼んでるんだ!もう少し具体的な活動内容を教えてくれよ!折角面白そうだと思えてきてるんだ!」


すると、コニシキ先輩は満面の笑みを浮かべて言った。

「よしッ!」

そして、ミッチー先輩とドク先輩も続けて言う。

「ようこそ、大胆科学愛想会へ!」

挿絵(By みてみん)



『大胆に科学を愛そう会』、登録名『大胆科学愛想会』は俺の想像以上のものだった。

まずは部室の広さ。研究棟の一角に約二十畳ほどの広い一室がある。そして、その中に様々な機器が置かれている。どれも見ただけでハイスペックマシンだと判る。

更にそれらを扱うための場所も確保されており、まるで何かの研究所のようだった。

そんな部屋の一角に会議机が置かれており、そこに俺は座らされていた。


「あの、部員数足りてなくてまだ同好会扱いって聞いてましたけど、この部室の広さと機材の充実具合は何なんです?」

俺が疑問を口にすると、コニシキが答える。


「ああ、それはな!歴代の先輩方が、この部の価値を世間に知らしめるために、色々工夫した結果だ!設備や機材もみんなで少しずつアップグレードして来たんだ!部員数が足りなくて今年から同好会扱いになってしまったがな!あと、顧問の教授もこういうの割りと好きで俺たちを買ってくれている!」

コニシキはそう言って胸を張った。その話を聞いて、俺は少し感心した。しかし……


「それで、一体どんな研究してるんですか?」

俺がそう訊ねると、ドク先輩がそれに答えた。

「ああ、サニーからも少し話があったと思うが、俺たちはバーチャル技術について研究活動を行なっている。現在、世間ではバーチャルリアリティ空間をより現実に近づける技術が盛んに開発されている。それを応用することによって、様々なことが可能になるからな」


「もう少し具体的に説明が欲しいですね」

俺がそう食い下がると、ドク先輩は一呼吸置いて説明を続ける。


「そうだな……簡単に言うなら、脳波を読み取って仮想空間内に入れる技術の研究をしている」

「それって、最近発表された『バーチャルエクスペリエンス』のような、知覚体験型ゲームのことですか?」

俺がそう言うと、ドク先輩はニヤリと笑みを浮かべて言った。

「ああ、その通りだ」

「それって、ゲーム感覚で人間の精神を仮想空間内にダイブさせることができるってことですよね?そんな技術が確立されたら……」

俺がそう言うと、コニシキが口を挟む。


「ザコタよ!俺たちは『大胆科学愛想会』だ。今までにない大胆な発想をしてこそ、新たな技術革新に繋がると思っている!今研究している『仮想空間生成制御人工知能』は未知数の可能性を秘めているんだ」

コニシキが興奮した口調でそう語ると、ミッチー先輩が口を挟んできた。


「ザコタ君、『大胆科学愛想会』はね、今までにはない超大胆な開発をしないと認められないんだ!つまり、どんなに突拍子の無いことでも、実現可能だと証明さえできれば認められるってこと!そしてそれが卒研にそのまま使える!」

ミッチー先輩のその言葉に俺は呆れた表情を浮かべて言った。


「それって……要するに、無茶苦茶な研究ってことですよね?」

そこへ更にドク先輩が割って入る。

「確かにその通りだが、今までにない技術を開発するとなれば、多少の無茶は仕方がないことだ。そんな時、『バーチャルエクスペリエンス』が公表されたんだ。これは使わない手はないだろう?」

そう言ってドクは不敵な笑みを浮かべる。


「まさか、技術盗用!?」

俺はドクにそう問うと、ドクは

「人聞きが悪いな。技術流用と言ってくれよ。そもそも『バーチャルエクスペリエンス』の根底思想を唱えたのはここの顧問の浅岡教授だぞ?」


「え!?」俺は驚きを隠せなかった。

「浅岡って、まさか……」

それまで静観を決めていた浅岡先輩が口を開いた。


「そう、私のお父さんなの」

てへっと少し照れ、上目遣いで見てくる。

それを聞いて俺は納得した。

「なるほど……機材だけでなく人材にも恵まれているのか…」


現会長であるコニシキが口火を切って自己紹介を始める。

「俺は機材の構築とメンテ、プログラミング担当だ。それから、一応のプロジェクトリーダーをしている!」


コニシキがそう言うと、隣の赤い髪の女学生のミッチー先輩が補足する。

「会長とドクはプログラミングと機械系全般を担当しているわ。あたしはデバッグ、その他会計や書紀なんかの事務関連担当」

「“ドック”だ」後ろでドク先輩がツッコミを入れている。そして


「私もデバッグと、買い出しとか、雑用とか……」

浅岡先輩が自信なさ気に言うと

「『大胆科学愛想会』で一番の気配りが出来、欠かせない存在がこのサニーだ!」

とコニシキが浅岡先輩の背中を軽く叩きながらフォローする。

「そんな、大袈裟な……」

当の浅岡先輩は少し照れていた。そしてコニシキが再び口を開く。


「ま、うちの部はこんな感じだ!今は会か!あっはっは!」

コニシキが大声で笑う。

部員の仲も良さそうで、ここなら要らない気遣いをせずに済みそうな雰囲気に俺はほっとしていた。


「俺はプログラミングと機材関連は力になれると思います。迫田進一。改めてよろしく」

俺は四人に向け軽く頭を下げる。


「そうか、ザコタ君!こちらこそ改めてよろしく!ようこそ『大胆科学愛想会』へ!」

コニシキは満足そうに頷きながら俺の肩をバンッと叩く。


「そして、ようこそ新入部員!ザコタ!君のような人材を待っていた!」

こうして俺は、『大胆科学愛想会』に入部した。

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