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超次元電神ダイタニア[Data Files]  作者: マガミユウ
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[Data08:進一とそよ⑤]

※こちらは本編第二十一話へと続く、迫田進一とそよの物語になります。

そよ駆るマケンオーがアルコルとの戦いから離脱し、既にかなり戦域から離れていたが、そよは疾走(はし)るのを止めなかった。


「………そよ」

俺が小さくそよに声を掛ける。そよには届かなかったのか

「まだ…まだ油断出来ない…!もっと…もっと遠くへ……!」

そよにしては珍しくその顔は必死で焦燥感に満ちていた。

「……おい、そよ。もう十分だろう。索敵されるような距離じゃない」

俺は再びそよに声を掛ける。が、

「…逃げなきゃ!私が進一くんを護らなきゃッ…!」

そよはただそれだけを繰り返し呟いていた。


「そよッ!!」

俺は遂には大きな声を上げ、そよに話しかけた。

「もう大丈夫だ!敵は追って来ない!お前のお陰で切り抜けられたんだ!」

俺のその声にやっと反応して、そよはようやく操縦桿を握る手を緩めた。


「本当……?本当に?進一くん?」

「ああ、本当だ。俺たちは助かったんだ。そよ」

俺がそう言うとそよはようやく安堵の表情を見せた。

「よかった……進一くんが無事で……」

「俺もだ。そよ、ありがとう。今回ばかりはお前に助けられた」

「ううん進一くん!私こそ途中で操縦奪っちゃってごめんね!今戻すね!」

そう言ってそよは笑みを浮かべ、

「進一くんが死んじゃうんじゃないかって思って、怖くて、つい……ユーハブコントロール…」

そよがそう言い終わると、マケンオーのコクピットが再び上下入れ替わり、俺の操縦席が上になった。


俺は周りを注意深く見渡し、安全を確認してからマケンオーを粒子に戻した。

「しかし、驚いたな……まさかあんな化け物がまだいたなんて……」

俺は先程の電神を思い出しながら、独り言のように呟く。


「あれはただの電神(デンジン)じゃないよ……多分、電神の中でも上位の存在、だと思います……」

そよが俺の言葉に反応して答える。

「電神の上位種?普通の電神より強いのか?」

「うん。恐らくだけど……電神がどうやって生まれるか分からないけど、偶に強い力を生まれながらに持っている電神がいるの。あの人のも、多分それ…」


「なるほどな……でも、そんな相手にお前は善戦してみせたんだ。マケンオーが万全の状態だったら倒せてたかもな」

俺は少し気分が落ちている様子のそよを気遣うように声を掛ける。


「進一くんがいてくれるから、力が出せるんです。私一人だけの力じゃないですよ」

「ああ、分かってる。俺も負ける気はない。だが、その為にもまずは休息だ。流石にMPが枯渇してヘトヘトだ…」

俺は苦笑いしながら答えた。


「ふふっ。今日はこの辺りで宿を探しましょうか」

「そうだな。明日に備えて英気を養うとするか。ところで…」

俺は周囲を見渡し、言った。

「ここは、どこだ?」


挿絵(By みてみん)


そよのお陰であの電神からは難を逃れたが、かなりの距離を逃走してきた為、現在位置が分からなくなっていた。

俺はスマホで現在の位置情報を調べる。


「船橋か……結構戻って来たもんだ…」

俺はスマホのマップを見ながら、一つ小さなため息を漏らす。

「よし、とりあえず近くの駅まで戻るか」

俺はそう言って、そよに声を掛ける。

するとそよは申し訳無さそうに


「ごめんなさい、進一くん…私が無闇に逃げ回ったから……」

と俯き加減に言う。

「謝る必要はない。さっきも言ったろ?そよは良くやってくれた。むしろ礼を言いたいくらいだ」

俺はフォローとまでは行かないが、思ったことを口にした。


「…ありがとう、進一くん。やっぱり優しいね…」

そよはそんな俺の言葉でも安心したように、またいつもの笑顔を見せてくれた。

「三歩進んで二歩下がる、だ。いつも言っているが、急ぐ旅でもない。ゆっくり行けばいいさ」

挿絵(By みてみん)

自分でそう言うと、負けたばかりだというのに心なしか俺の心持ちも軽くなったように思えた。



俺たちは船橋駅目指して歩いている。今回の旅で、どこの駅周辺も食べるところも寝るところも割りと揃っているということを覚えた。

駅まで行けば取り敢えず一息つけるだろう。


俺は道すがら今回の秋葉原での戦いを思い返していた。

ムラマサとの合体も成功し、マケンオーになれた。相変わらずケンオーとは電神としての馬力が違う。

あの白い電神にもパワーでは負けていなかった。いや、寧ろ力では勝っていた様に思う。


だが、負けた。

その後そよに操縦桿を奪われ、その戦いをまざまざと見せ付けられた。

そよは強かった。今の俺にはマケンオーをあそこまで操縦することは出来ない…


悔しい思いも勿論ある。

あるのだが、それ以上に今は情けない気持ちが勝っている。

また女に負けた。どうして俺の周りにはこうも強い女ばかりいやがるんだ…

いや、女に負けたから悔しい、情けないという訳じゃない。


確かに、最初に相川まひるに負けた時は女なんかにとも思ったが、こうも負け続けていると流石に女どうこう言ってはいられなくなる…


詰まる所、俺が弱いんだ。

マケンオーを操るための力量も、俺自身の人としての熟練度も低いんだ…


そよと出会ってからまだ日は浅いが、この数日一緒に過ごして色々な面を知った。

そりゃ最初の頃はイライラの方が強かったが、そよはアホなんじゃなくてただ物事を知らないだけということが解ってくると、その気持ちも次第に治まってきた。


今ではそよと一緒にいて心地良いと思うことも増えたし、何よりそよは俺を裏切らない。

そよのことは信用している。そよは俺のことを信頼してくれている。

だからこそ、俺はそよとのこの旅を続けたいと思った。

そして、いつかそよと肩を並べて戦えるような男になりたい。


その為にも、もっと強くならなくちゃいけない。

俺は改めてそう心に誓った。

俺が色々考えているうちに、俺たちは船橋駅に到着した。

俺の考えも一つの所に終着する。


足を止め、そよに向き直り、俺は言った。

「そよ。俺は自分の修行を一からやり直そうと思う。話しを聴いてくれ」

「!…はい。分かりました」

そよは一瞬考え、いつもの笑顔で答えた。


「俺の今の『ダイタニア』でのクラスはアサシンだ。今思えば特に考えもなくここまで来ていた…」

「はい」

「俺は強くなりたいんだ。そよの隣に立って戦っていけるような強さが欲しい。だから、一から鍛え直す」

「……はい」

そよは俺が真剣なのが伝わったのか、真面目な顔で聴いて応えてくれる。


「マケンオーを操るには剣技を修得する必要がある。初期クラスのファイターからレベルを上げてソードマンを目指そうと思うんだ。そこでそよ!剣技が得意なお前に頼む!俺に剣を教えてくれ!」

俺は恥も外聞も捨て、そよに思いの丈を言い放った。


「はい、喜んで」

そよがいつもより優しい笑顔でにっこり微笑み承諾してくれた。


俺はホッと胸を撫で下ろす。

「ありがとう、そよ。恩に着るぜ。お前が居てくれて本当に頼もしく思うぜ」

「ふふっ。進一くん、私に惚れ直しちゃいました?」

「調子に乗るな」

「はぅッ!?」

俺はそよの頭を小突く。


「えへへ。でも、進一くんの本気の頼み事なんて滅多にないですからね。なんだか嬉しくなっちゃいます」

「そうか?……そうだな。俺は今まで他人に頼るってことを余りしてこなかったからな……」

自分でも素直にそよに自分の胸の内を言えたことを不思議に思う。

そよに会えて、俺は変われたのかもしれない。


「それでは進一くん!今夜の宿を探しましょう!」

「ああ、そうだな」

俺とそよは再び駅周辺を散策し出した。



俺とそよは一泊千五百円という破格の安さを誇るカプセルホテルに部屋を取り、今日の疲れを取ることにした。


「明日からの予定だが、取り敢えず剣技をマスターしたい」

「はい。では、私がお手合わせさせて頂きます」

「おう。頼むな、そよ」

俺たちは荷物を置き、シャワーを浴びて着替えた後、船橋駅近くの広場でこれからの方針を話し合っていた。

洗濯物はコインランドリーで回っている。


俺は近くの自販機で買ってきたボトルを手に

「麦茶とほうじ茶、どっちだ?」

「あ、じゃあ麦茶頂きます。ありがとう進一くん」

「夜はカフェイン無しのものがいいからな。ほら」

俺はそういいながら、そよに麦茶のボトルを渡す。


今夜はそれ程蒸し暑くもなく、夜風も少しあり、過ごしやすい夜だった。

そよが麦茶のボトルに口を付け一口飲む。

風になびく髪とその横顔がとても綺麗だと俺は思い、少し顔を赤らめながら正面に向き直る。


「ん?どうしました?」

「いや、なんでもない」

「ふふっ」

そよが笑顔でまた麦茶を飲む。

俺も自分のほうじ茶を飲んで心を落ち着ける。

「今日はもう遅いし、そろそろ寝るか」

俺はそよに提案する。

「そうですね。でも、その前に……」

そよは何かを言い淀んでいるようだったが、意を決したように話し始める。

「進一くん。私のお話しも聴いてもらえるかな?」

「あ、ああ。なんだ?」

俺は思ってもなかったそよの言葉に少し動揺し答える。



「進一くん、あの、私…今日ね?ちょっとおかしかったんだ…」

「? 何がだ?」

俺はそよの様子がおかしいことに気付かなかった。

いつも通り明るく振る舞っていたし、俺と一緒にいる時も普段通りのそよだったと思う。


「私ね、今日ずっと考えてたの。なんであんなにムキになってたんだろうって」

「あの電神から逃げる時のことか?」

俺がそう訊くと、そよは無言でこくりと頷いた。

そして続けて話し出す。


「それだけじゃなくてね?進一くんがまひるさんの名前を口にする度、何だか胸の奥がモヤモヤして…」

そよが俯きながら話すのを、隣で俺は黙って聴いていた。


「なんか、進一くんが取られちゃうような気がして、それで、すごく嫌な気分になっちゃったの……」

「……そよ」

「ごめんなさい……こんなこと言われても困るよね?」

そよは申し訳なさそうな顔で俯いている。


「……そよ、お前、俺のことが好きなのか?」

俺は率直に聞いてみた。

すると、そよは瞳を潤ませ、困ったような顔をして俺を見つめて来た。


「…進一、くん…!私ね、“好き”って気持ちが分からないのッ!」

そよは泣き出しそうになりながらも必死に訴えてくる。


「もちろん、美味しいから好き、とか、楽しいから好き、とか、そういう気持ちは解るんだよ?ただ、ただね?」

そよはそこで一度言葉を区切ると、深呼吸をして息を整えてから続けた。


「進一くんのことを好きって思う気持ちだけが分からないの……」

そよは今にも泣き出してしまいそうに見えた。

「私は、進一くんが好きなのかな?でも、それがどういう感情なのかがわからないの……まるで、その気持ちを知ることが出来ないように、心にロックをかけられちゃってるような…そんな違和感があるの!」

そよは涙を浮かべた目で、真っ直ぐに俺を見て言った。

挿絵(By みてみん)

「進一くん。私、怖いよ…誰かに私の気持ちを操られているみたいで…」


「そよ……」

俺はそよの頭に手を乗せ、頭をポンポンと撫でてやった。

「…大丈夫だ。きっとなんとかなるさ。だから泣くな、そよ」

「進一くん……!」

そよは俺に抱きついてくる。

「ふぇ〜ん……進一くん!進一くん!」

そよは俺の胸に顔を埋め、涙を流している。

俺はそよの背中をさすり、頭を撫でてやる。


しばらくすると、そよは落ち着きを取り戻してきたようだ。

「ありがとう、進一くん。もう大丈夫…」

「そうか。なら良かった」

「うん。心配かけちゃってごめんね?」

「気にするな」

俺たちは再びベンチに座り直し、話を続ける。


「で、そよは、その…人を好きだって気持ちが今一つはっきりとしないってことだよな?」

「うん。進一くんのことは大切だし、護りたいと思うんだけど、それ以上のことを考えられないんだ…」

そよはそう言って項垂れてしまった。


「そうか……俺もな、そよ?俺にもまだハッキリとしない感情がこの胸の中にある…」

俺は夜空を見つめながら話し始める。

挿絵(By みてみん)

「えッ!?進一くんにも?」

そよが驚いたように俺の顔を見る。


「ああ。少なからず、誰にもあることなんじゃないかな。俺もまだガキだから、解らないことだらけだ…」

俺は苦笑しながら答える。

「そう、なのかもしれないね?」

そよも釣られて笑う。

「でも、それでもいいんじゃないか?これからゆっくり考えていけば」

俺は自分にも言い聞かせるように言う。


「そうだね?」

「それに、今は俺が側にいる。俺はそよの側を離れない」

「進一くん……」

そよは顔を赤らめ下を向いてしまった。

その仕草がとても可愛く見え、俺は思わず顔を背けてしまう。

「どうしたの?進一くん?」

「いや、なんでもない。それより、明日も早いんだしもう寝るか?」

俺は誤魔化すように話を切り上げる。


「そ、そうだね?もう寝ようか?」

そうして、俺たちはカプセルホテルまで戻る途中、コインランドリーで洗濯物を回収し夜道を歩く。


「…なあ、そよ」

「どうしたの?進一くん」

俺は歩きながらそよに話しかける。

「もし、俺の心の中のハッキリしない気持ちが解った時は、改めて話しを聴いて欲しい…」

俺は真っ直ぐ前を向いたままそう言った。そよはやはり俺の方を向いて笑顔で答えるのだろう。


「うん!もちろん!私もね、この気持ちが解るようになったら、誰よりも先に進一くんに聴いて欲しいです!」



翌日、俺たちは船橋駅の広場で軽く修行を済ませてから、新宿行きの電車に乗った。


思った通り、『ダイタニア』のステータス画面から操作が出来る機能はまだ生きており、俺はアサシンからファイターへのクラスチェンジを行った。

クラスレベルは1からの再スタートだが、今の俺には恐らく必要なことだと思う。


新宿駅に着く頃には昼になっており、俺たちは道に迷いながらも何とか風待進次郎(かざまちしんじろう)の会社があるという新宿西口に出た。


「それにしても、凄いな……これが新宿か……」

俺は高層ビルが立ち並ぶ景色に圧倒され呟く。

「すごい……人が多い……」

そよは目を丸くしてキョロキョロしている。


「とりあえず、昼飯にするか。そよ、何がいい?」

俺はマップを見ながら、もはや恒例となっている言い回しをそよに訊く。


「うーん、そうですねー?たまには進一くんが選んで下さい。進一くんが好きなものを食べてみたいです!」

そよは少し考える素振りを見せたあと、ニコッと笑ってそう答えた。


「そうか?俺はホントに好き嫌いないから何でも美味く食えるんだがな…そうだな……」

俺はそう言って辺りにどんな店があるか探す。

「よし!あの店が良さそうだな」

そして、ちょうど目に止まったオムライスの専門店に入ることにした。

卵料理は俺の好物の一つだ。


入口が地下に繋がっていて一段低くなっている。

店内は間接照明で薄暗く、良い雰囲気だ。


「すみません、二人なんですけど」

「一人だけど、入れるかな?」


その時、俺たちと同時に入って来た男と俺の声が被った。

男はサングラスを掛けていて、白いTシャツに黒いジャケット、パンツ姿のスラッとした身なりで、その物腰からはどこか優雅さを感じた。


「お!?」

その男が俺たちに気付き、声を漏らす。

「あ、先どうぞ…」

俺は(じい)からいつも言われていた譲り合いの精神を思い出し、その男の方に手を向けて譲る動作をする。

男は何故か俺たちの顔を交互に見て、少し考えると、ニヤッと笑って言った。


「初めまして。俺は風待。飯食った後、ちょっと付き合えるかい、ザコタ君?」

【閑話休題】


[そよ]

私たちの外伝『進一とそよ』シリーズ、本編に無事合流してめでたしめでたし!

これにておしまい、かな?


[進一]

いや、これから始めるんだ。

俺の……俺たちの物語を!


[そよ]

進一くんっ!


[進一]

おわッ!?く、くっつくなッ!!


本編!『超次元電神ダイタニア』!


 第二十一話「交差する情念」


に続きます!本編でも進一くんと私を応援してね!



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