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超次元電神ダイタニア[Data Files]  作者: マガミユウ
26/29

[Data26:第十七.五話「炎の記憶」]

※こちらは本編第十七話中にあった、まひると四精霊たちの一場面になります。

挿絵(By みてみん)


 ひょんな事から、初対面である風待(かざまち)進次郎のオフィスビルに泊まることになったまひるたち一行。

 夕方になり風待の質疑応答も一段落し、夕飯の買い出しに行こうとしたその時だった。


「あ、あれ? 痛つつ…!」

 突如ファイアが腹を押さえ痛みを訴えた。それを聞き、出掛ける準備をしていたまひるが慌ててファイアに駆け寄る。

「どうしたのファイア! お腹痛いの!?」

 腹を押さえ苦悶の表情のファイアを心配そうに見つめるまひる。ファイアも心配させまいと笑顔で答えようとするが、原因不明の腹痛に焦りを隠しきれていない。

「大丈夫だよ、まひる様。何だか少し腹の調子がおかしくなっただけだから……つッ!」

「痛むのね? そこのベッドに横になって」

 まひるが真剣な顔でベッドに移るようファイアに促すが、ファイアはまだ強がりを言う。

「ホント、大丈夫だからさ。買い物、行こうぜ?」

 いつもの笑顔と違い、今のファイアの顔には眉間に皺が寄っているし、発汗も見られる。まひるは少し強めの口調で

「お願い、ファイア。横になって…!」

 と、再度ファイアの目を見て言った。

 さすがのファイアもまひるのその剣幕に折れ、ゆっくりとベッドに横になった。


「みんな、ゴメンな。少し横になれば良くなると思うから…」

 ファイアが少し泣きそうな顔をして皆に謝る。それを見て皆各々心配そうな顔をしてファイアに声をかけた。

「大丈夫だよほむほむ。お腹治ったら一緒にお買い物行こ?」

「急な腹痛か……いつも元気なファイアが…心配だよ…」

「ファイア、何かして欲しいことはないか?」

 それらをファイアは「だいじょーぶ、ありがとな」と少し青ざめた笑顔で返す。


「あの子、どうしたのかしら? まひるん、何か心当たりないの?」

 流那(るな)が心配そうな面持ちでまひるに聴いてくる。まひるも顎に手を当て考えていた。

「うーん……食べてるものはあたしたちと同じだし、精霊だから便秘もないし……」

 まひるのその言葉に流那がハッとして

「今は精霊じゃないわよ? 《変化魔法(ディスガイズ)》、さっき掛けたでしょ? 効果がある内は彼女たちみんな地球人と変わりないわ」

 と、まひるに声をかけた。

「あ…! そうか。じゃあやっぱり、お医者さんに連れて行ったほうがいいよね? あ! 保険証!」

 まひると流那がそんなことを話しているとファイアの近くにいたマリンから声が上がった。


「まひる! ファイアがッ!」

「どうしたのッ!?」

 鬼気迫るその声にまひるは一目散にファイアの下に駆け寄った。マリンだけでなくウィンドとアースもさっきよりも心配そうな顔をしている。マリンがファイアを見ながら恐る恐るゆっくりと言葉を発した。

「…ファイア、負傷してたみたいなんだ……出血が……」

「ファイアっ!! どこ怪我してるの!?」

 まひるはそう叫ぶと膝を屈め、自分の顔をファイアの顔と同じ高さに持ってくる。

「え? 怪我…?」

 当の本人は気付いていないのか落ち着いていた。見るとファイアのショートパンツから伸びた太ももを伝い、鮮血がシーツを赤く染めていた。

「「あ」」

 それに気付いたまひると流那の声が重なる。

「「はあぁ〜〜〜……」」

 まひると流那は大きな安堵のため息をつきながらその場にへたり込んだ。



 まひるが自分のポーチから痛み止めやらナプキンやらを用意してる間、流那が先だってファイアの更衣を手伝ってくれている。

「さ、着替えはこれで終わり! 良くなったらサニタリーショーツも見に行きましょう?」

 流那が笑顔で優しくファイアに言う。

「ありがとう、流那……ちゃん…」

 ファイアが少し照れながらも流那に礼を述べた。


 そこへまひるが色々持ってきて手際よくナプキンを装着させ、体温計を脇の下に入れ、薬と水が入ったコップを差し出す。

「さあ、ファイア、痛み止めだよ。これ飲んで少ししたら落ち着いてくるから…」

 ファイアは上半身を起こしコップと薬を受け取った。

「ごめんね、まひる様…」

 申し訳無さそうにするファイアにまひるは大きく首を左右に振り言う。

「何も謝ることないの。女の子にとって今ファイアに起きたことは当たり前のことなのよ?」

「当たり前?」

 受け取った薬を飲みながらファイアが訊く。

「そうだよ。女の子は誰しも月に一度お腹が痛くなる日があるの。あなたたちにはまだちゃんとお話ししたことはなかったわね。ごめんなさい」


 そのまひるの言葉を受け、状況を精霊でただ一人把握したマリンが口を開いた。

「仕方がないよまひる。誰も精霊である僕たちが生理になるとは思わないよ。僕だって驚いてる」

 マリンのその言葉にファイアが声を上げた。

「えっ!? みんな、女の子はなるの?」

 その驚きの声に流那とまひるは顔を見合わせ苦笑した。そして流那から説明を受ける。

「そうよ。あなたたちは《変化魔法(ディスガイズ)》で一時的に“普通の女の子”になっちゃってるの。だからおかしなことじゃないわ」

 それを聞いたファイアは驚きの表情のまま再び訊いた。

「じゃ、じゃあ……人間みたいに、子供とかできちゃうのか!?」

「そうね。ずっと“地球人”のままでいたらいつかはそうなるかもね」

 流那は少しからかい気味にファイアに言い、それにファイアが布団を頭までかぶり、顔だけ出して涙目でまひるを見ながら呟いた。

「……まひる様、なんだか、俺…怖いよ……」


 そんなファイアを見てまひるはファイアの隣に横になり、布団の上から優しくファイアを抱きしめた。

「もう、ルナさん? 余りファイアをからかわないでください。大丈夫よファイア。突然のことで怖かったよね? 大丈夫だからね。一緒にいるよ」

 そう言いながらまひるは優しくファイアの頭を撫でる。ファイアは何故か分からないが涙が溢れてきて布団の中で声を殺して泣いた。


 アース、ウィンドとマリンがまひると同じように布団越しにファイアを慈しむように手を添えた。流那も少しバツが悪そうに笑顔を崩し

「ごめん。ちょっと無神経だった。初めてのことだもの、怖かったわよね。ごめんなさい…」

 と、素直に謝罪を述べる。すると布団の中から「だいじょーぶ…」と涙声の返事が返ってきた。



 薬を飲んで少し楽になってきたのかファイアが布団から顔だけ出して

「あのさ…もう大丈夫そうだから、みんな夕飯のお買い物行ってきなよ? 俺はもう少し横になっておとなしくしてるからさ」

 と、上目遣いに言ってきた。まひるはスマホの時計を見ると夕方の六時を回っていた。

「そうね、お買い物も行かなくちゃ…みんなもお腹空いたよね?」

 まひるはまだファイアを心配する気持ちが強いのか、少しだけ曇った顔を皆に向ける。


風子(ふうこ)はほむほむが元気になってから一緒に行くのでもいいよ?」

 ウィンドもまだ心配気にファイアに視線を向け答える。

「いいってウィンド。大丈夫だからみんなで行ってきていーよ」

 気を遣われるのが嫌なのか、ファイアは少しぶっきらぼうに答えた。そこに流那が入ってきて

「はいはい! じゃあ二手に分かれましょ? まひるんは買い出し班ね。食べ物とこの子に必要なものお願い出来る? あ、私辛いものじゃなければ何でもいいわよ」

 と、皆に指示を出して行く。


「え! でも……」

 まひるの言葉を遮るように流那は続ける。

「大丈夫よ。この子の側には私が残るわ。まひるんが買い出しに行ったほうがみんなの好みとか分かるでしょ? 私が残るんじゃ不満かも知れないけどね」

 と言いながら流那はファイアに優しい顔を向ける。

「そんなことないよ。ありがとう、流那、ちゃん…」

 まだ余り触れたことのない流那の優しさに戸惑いながらも顔を赤くしてファイアは礼を言った。


「じゃあ僕もここに残るね。まひるとウィンド、アース、買い物をお願いしてもいいかな?」

 マリンがファイアの側に残ることを申し出る。

「解った。マリン、ルナ…さん。ファイアをお願いします」

「うん。できるだけ早く戻るね。流那ちゃん、まりりん。ほむほむをよろしくね」

 アースとウィンドが二人に向け軽く頭を下げた。まひるもそれに続き流那に頭を下げる。

「ルナさん、マリン。ありがとう。ちょっとだけ出てきます」


 そう言うとまひるは小さ目のショルダーバッグを肩に掛けベッドのファイアに近寄り顔を合わせる。

「ファイア? 何も心配いらないからね? ちょっとお買い物して直ぐに戻るから。ゆっくり休んでてね」

 そう言ってファイアの前髪を指で撫でた。

「うん。ごめんね、まひる様…」

 ファイアは後ろめたさからか潤んだ瞳でまひるを見つめて言った。

「何も謝ることないの。大好きよ」

 まひるはファイアの前髪をそのまま上に掬い、露わになったその額に軽く口づけをした。そして目にも止まらぬ速さで直立の姿勢に戻り部屋を出て行こうとする。

「じゃ、じゃあね! 行ってきます!」

 まひるは右の手足を同時に前に出してぎこちなく歩きだす。その顔は茹でダコのように沸騰していた。ロボットのような固い動きで部屋から出ていくまひるを見て流那が

「…恥ずかしいなら無理しなきゃいいのに……」

 と、ボソリと呟いた。



 流那とマリンが見守る中、ファイアは規則正しい寝息を立て始めた。

「寝ちゃったわね。やっぱり色々あって疲れてたわよね」

「そうだね。特に今日はファイアフォームの時に大ダメージを負ったからその反動がファイア自身に大きく出たんだと思う…」

 流那とマリンがベッドサイドでファイアを眺めながら小声で話していた。

「あんたも休んだら? みんなが戻ってきたら起こしてあげるわよ」

 流那がマリンに微笑みかけながら言う。

「うん。ありがとう流那。でも大丈夫だよ」

 マリンも微笑みながら返す。


「そう。そう言えば、あんたは割りと人間の体のことについて知ってそうだったけど、分かるの?」

 流那が気になったことをマリンに訊いてきた。

「僕の地球の知識はほとんどネットで覚えた知識なんだ。だから僕自身、生理になったことはまだないし、ファイアを見ていてそれが本当に辛そうだということは今日知ったんだ…」

 マリンがベッドで頬杖をつきながら流那に答える。

「……普段強気な彼女を知ってる分、今日のファイアを見てたら、何だか僕も怖くなっちゃって……」

 と、マリンは少し悲しげに言った。その横顔を見て流那が

「人によって重い軽いの差はあるけど、まああの不快感は慣れるもんじゃないわね……でもあんたたちはさ、《変化魔法(ディスガイズ)》が切れたらまた生理の心配がいらない体に戻れるわけでしょ? 羨ましいわよ」

 少しばかり気落ちしているマリンにフォローを入れつつ明るく言った。

「うん……そうだね」

 マリンは俯き加減で答える。その横顔を見て流那が更に続ける。

「ま、あんたも今は地球の女の子になっちゃったわけだし、これから色々あるかも知れない。でも、もし何か困ったことがあったらまひるんでも私にでも相談しなさい? これでも一応女だからね?」

 と、少しおどけたように流那が言う。そしてマリンの背中を軽くバンッと叩く。

「あ、ありがとう……流那って、意外と優しいんだ?」

「“意外”は余計よ!」

 流那はわざとらしく不機嫌にそう吐き捨てた。


「ん?」

 流那は何かに気付いてマリンに声を掛ける。

「ちょっとあんた、バンザイしてみて」

 不思議な顔をしながらマリンが両手を上げた。

「? こう?」

 ノースリーブのワンピースからマリンの脇が覗く。それを見て流那はまた難しい顔をする。

(…他人の趣味嗜好にとやかく言いたくないけど、知らないってこともあるし……もう、まひるん! ちゃんと教育しといてよ!)

 流那は言うか言わまいか悩んだ末、言う事を決めた。


「……あの、急に地球人になった反動からかも知れないけど、その…脇、いつもちゃんと剃ってる?」

「え?」

 マリンが不思議そうに流那に訊いた。

「いや、その……脇の処理をちゃんとしてないとさ……ほら……」

「ん?」

「……毛穴が目立つのよ」

「えっ!?」

 流那の言葉に驚いたマリンが慌てて自分の両脇を確認するように見る。そして少し顔を赤くし恥ずかしそうに俯いた。


「そ、そっか……僕、人間になったから、ムダ毛とか自分でキレイにしないといけないのか……」

「…羞恥心は人並みにあるのね……今までまひるんが言ってきたりしなかったの?」

「僕たち精霊は自分の体であれば量子変換で形体を変えることが出来るから、老廃物やそういったものとは無縁……ってことを以前まひるに説明して、しっかり話を聴いたことはなかったんだ……」

 流那は少し頭が痛くなり

「……そう。私も精霊になりたいわ……」

 と、言いながらも、この後帰ってきたまひると四精霊を交えてプライベートゾーンのことから女性の肉体、倫理観、などなど、性に関わる講義を開催したのである。



「――といった感じ。大体解ってもらえたかしら?」

 流那が四精霊を前に教鞭を執っていた講義も終盤のまとめに差し掛かっていた。何故かまひるも四精霊と一緒に正座をしながら聴いていた。

「これらのことは決して恥ずかしいことじゃなくて、生きていく上で必要なことなの。だから分からないことがあればまひるんや私に訊いて。ね、まひるん?」

「は、ひゃい!」

 突然自分に振られまひるは噛んだ返事をしてしまった。

「犬猫と違うんだから、何も教えてあげないのは可哀想だしこっちの責任よ? みんな可愛いんだから()っといたら直ぐに子供なんて出来ちゃうのよ?」

「う、うん……ごめんなさい…」

 流那から最もなことを言われ、ぐうの音も出ず素直に落ち込むまひる。それを見兼ねてマリンが口を挟む。

「流那、まひるを責めないで。まひるはちゃんと教えようとしてくれたよ。僕たちが精霊ってことでまひるからのそういう説明を省いてしまったところが大きいんだ」

 マリンは膝の上で手を組み、まひるのフォローをしながら流那に言った。

「そうね。今回は《変化魔法(ディスガイズ)》で完全な地球人になっちゃったっていう特殊な状況下かも知れないけど、あなたたちは紛れもない“女の子”なんだから、精霊にまた戻ったとしても知っておいて損はないはずよ」

 流那の言う事は皆の胸に各々の形で刺さっていた。


(…ヒトの体で食べ過ぎると、太るのだな……当然のことながら失念していた……太ましいとまひる殿に嫌われてしまうだろうか…?)


(自分の好きなお洋服を着るためにも私生活も気を付けないといけないんだ……ファイアとテレビゲームで遊ぶ時間を半分にして、あと半分はフィットネスゲームにしよう!)


(眉毛の濃さはムダ毛の濃さ……僕は自分でも少し濃いかなくらいには思っていたけど、そうなんだ……今度下の毛の相談にものってもらおう……)


(…あたしってば、こういう話、恥ずかしがってちゃダメなのに、ルナさんに全部言われちゃった……今度はあたしから堂々とみんなの相談にのってあげなくちゃ!)


 ファイアは考える。今回自分だけが遭遇した未知の体験。戦いの中なら今まで何も怖いものはなかった。だが、今回は自分の体に直接の不調として表れてきた。

 正直、今まで味わったことのない恐怖だった。

 精霊から突如ヒトとして形を成してから何気なく楽しく過ごしてきた地球人ライフ。それが“女の体になった”だけでこうも脅かされたのだ。しかもそれらの事はまひるや流那からしたら当たり前の事だと言うではないか。

 自分の体が自分の知らない何かに変わっていってしまう不安と無知故の恐怖。今日、流那とまひるが改めて女性の体について教えてくれてファイアはとても感謝すると同時に不思議な感覚に陥っていた。


(俺みたいな女らしくないヤツでも、女の体ってだけで生理になる……生理は子供を作る準備ができた証拠だって流那ちゃんは言ってた。俺が子供? 子供、できるのか…? 俺は、精霊だよな。そんなことが……でも、もう少し女らしくしてみようかな……まひる様にもいつも言われてるしな。人間って、何だか不思議で、素敵だな)


 ファイアはまひるが買ってきて柔らかくチンしてもらった赤飯のおにぎりを一口食べながら、心地よい思考の渦に飲まれていった。

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