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超次元電神ダイタニア[Data Files]  作者: マガミユウ
25/29

[Data25:第十二.五話「風の記憶」]

※こちらは本編第十二話中にあった、まひると四精霊たちの一場面になります。

挿絵(By みてみん)


 飛鳥は急ぎ足で電車から降り、電気街口の改札をくぐる。手に持ったスマホの画面を再度確認した。


【待ち合わせ場所のオリンポスに着きました。先に入ってますね。ゆっくり気を付けて来てください。】


 と、サニーからメッセージが届いていた。飛鳥は逸る気持ちと共に大通りへと躍り出た。飛鳥の後ろから体格の良い中年男性が人混みを不慣れに掻き分け追いついて来た。眼鏡に髭を傭えたその男性は少々困惑した顔で飛鳥に話しかける。

「まだ約束の時間には早いだろう? そんなに急いで、転んだりしたら危ないじゃないか?」

 そんな能天気な男性の言葉に飛鳥の心は更に乱される。飛鳥は足を止め振り返り

「もうッ! サニーさん現地に到着したって連絡きたの! だから急いで! 場所は知ってるから着いてきて、()()()!」

 ピシャリと一つ言い放ち、再び歩みを速めた。レオンは飛鳥の後をトボトボと付いていく。

「昨日も言ったけど、私リアルで人に会うのは久々で緊張で話せないと思うから、今日はアスクル役よろしくね?」

 飛鳥とレオンは少し強張らせた顔のまま、サニー待つ集合場所『喫茶オリンポス』へと到着した。



 店に入ってまひるたちと合流してから、アスクル役で父親役のレオンはその光景を見てようやく安堵のコーヒーを味わえた。

 今日集まってくれた子たちは皆飛鳥をよく気に掛けてくれて、今は飛鳥もスムーズに会話ができている。登校拒否で一人自室にこもる飛鳥を見ていたレオンは居た堪れなく心苦しかった。

 レオンは精霊でありながらヒトの力になれないでいる自分が許せなかったし、何よりダイタニアで長らく共に過ごしていた主人を救えないことに無力を痛感していた。

 そこに来て今回のオフ会の話だ。最初は乗り気ではなかった飛鳥をなだめ、諭し、何とか今日ここまで連れ出すことができた。

 レオンは久々に心の充実感と精霊としての満足感を味わっていた。


風子(ふうこ)ちゃんも、お洋服とかお洒落好きなの?」

「うん! ここのメイドさんの服も可愛いけど、今日の飛鳥ちゃんの服も可愛いね!」

「あ、ありがとぅ……私、フリルとかレースとか付いたお洋服好きなんだ」

 飛鳥は照れながら、ブラウスの襟口のフリルを手で掴む。

「なんか、そういうヒラヒラした服っていかにも女の子って感じで可愛いよな! 俺には縁のない服だけどさ」

 ファイアも会話に混じりガールズトークに花を咲かせようと自分なりに歩み寄る努力を見せる。

「そ、そんなこと、ないと思いますょ? ほむらさん、スタイルいいし、どんな格好も似合うと思います…!」

 飛鳥が慌ててフォローを入れる。

「そう? そうかな?」

 ファイアはまんざらでもない様子で頬を掻いた。

「大丈夫だよ飛鳥ちゃん。ほむほむは意外と誰よりもこういう格好に憧れてるから」

 ウィンドが全て見透かしたかのようにファイアの肩にポンと片手を置いた。

「ななッ!? デタラメを教えるなよ風子ッ!」

 ウィンドの言葉にファイアが顔を真赤にして反論する。そのやりとりを見て飛鳥から自然な笑い声が漏れた。

「あはは! そうなんだ? でも絶対似合うと思う!」

 その飛鳥の緊張が和らいできた笑顔を見てウィンドとファイアも顔を見合わせて微笑んだ。


 風子はクリームソーダに乗っかっているアイスクリームを平らげながら店の壁に書いてある看板に気が付いた。そこには“貴女もメイド服を着て一緒にお写真いかがでしょう?”と書かれている。

「飛鳥ちゃん、あれって風子たちも着られるのかな?」

 この中で一番事情を知っていそうな飛鳥にウィンドがその看板を指差し訊く。飛鳥の瞳がきらめきウィンドの言葉に直ぐに食い付いた。

「あ! コスプレのチェキサービスだよ! 風子ちゃん興味あるの!?」

「あ、うん。ああいう服も着てみたいなーって」

 ウィンドは少し照れながら飛鳥に素直な気持ちを伝えた。その言葉に気を良くしたのか飛鳥もテンションが上がった様子で

「だよね! 私も着てみたいんだけど、一人じゃちょっと勇気が出なくて……もし風子ちゃんが良かったら一緒に着てみない?」

 飛鳥は最初の人見知りはすっかりどこかへいってしまい、ウィンドの手を両手で握り懇願する。ウィンドは飛鳥に笑顔を向けながらまひるに上目遣いで向き直った。二人の話が聞こえていたのか、まひるは笑顔でウィンドに返す。

「いいわよ。なんならみんなで着てみたら? いい記念になるんじゃない?」

 それを聞いたウィンドの顔がパアッと明るくなった。

「うん! ありがとうまひるお姉ちゃん!」

 飛鳥とウィンドが手を取り合って喜んでいる中、アースとマリンがやれやれといった笑顔でウィンドたちに顔を向け、ファイアは「え!? 俺も!?」と、一人顔を赤くしうろたえていた。

「そうだねほむら。どうせやるならみんなで一緒にやろう。そのほうがきっと楽しい」

 マリンがファイアに観念しろと言わんばかりに声をかけながら今度はまひるに向いて言う。

「まひる? もちろんあなたも一緒に、ね?」

 それを聞いたまひるが口につけたアイスコーヒーを盛大に吹きこぼしそうになってむせた。

「えっ!? あたしはいいよ! その、年齢とかもアレだし…」

 うろたえるまひるを前にウィンドが店員に声をかけ準備を進めていく。

「それにさ、今日はみんなの保護者みたいな立場だしさ? みんなで楽しんできてよ」

「みんなで着たらいい記念になると言ったのはまひる殿ですよ?」

 アースが満面の笑みでまひるの手に自分の手を添え、そっと立ち上がらせる。

「そ、それはそうだけど! あたしが着ても絶対におかしいだけだから、ね?」

「六名様ですね? かしこまりました。ではお嬢様方、こちらへどうぞ」

 いつの間にか来ていた店員に促され、飛鳥を先頭に六人は更衣室の中に案内された。

「え? あ! ちょ! 後生だからあ!」

 抵抗虚しく、アースに手を引かれながらまひるも同じく更衣室の中へと姿を消していった。



 しばらくして、一人まったりとコーヒーを味わっていたレオンの前にメイド服姿の飛鳥とウィンドが躍り出た。

「うわあ…! 可愛い風子ちゃん!」

「飛鳥ちゃんもよく似合ってる! すっごい可愛い!」

 二人でお互いを本心で讃え合っている。

「どう? レ…パパ! 似合う?」

 飛鳥がレオンの前でクルッと回ってみせて衣装を見せる。レオンはにこやかに

「ああ。いつも飛鳥は可愛いけど、その服もよく似合ってる」

 と、素直な感想を言ったものだから飛鳥は少し戸惑いどもりながら小さく「あ、ありがと…」とだけ返した。


 その後ろからマリンとアースが落ち着いた佇まいで現れ、ファイアがおどおどしながら付いて出てきた。

「ふむ。こういうキチッとした服を着ると身が引き締まる思いがするね。悪くないかも」

 マリンがメイド服の構造を理解しようと手脚を動かしながら考察し答える。

「そうだな。この世界の礼服のようなものなのだろうか。伝統的な装飾も相まって背筋が伸びる思いだ」

 アースもマリンと同じく少しズレた感想を言い合っている。

「え? 普通に可愛いだろ? こ、こんなにヒラヒラしてて…お、お姫様みたいじゃん……」

 ファイアは顔こそ赤いものの、やはり着られて嬉しかったのかそこから溢れる笑みは隠しきれていない。

 そのファイアの言葉を受けマリンが更衣室に目を細め顔を向ける。

「で、我らのお姫様はまだお越しにならないのかな?」

「ごめん、ホント外は無理だから!」

 まひるが更衣室のカーテンから顔だけ出して必死の形相で答えた。それを目にした店員が気を利かせ

「ではお嬢様方、こちらの撮影ブースへどうぞ」

 と、すぐ隣の個室に案内をしてくれた。

「ほら、パパも行こう?」

「え? 私もか!?」

 飛鳥はレオンの手を取り一緒に撮影ブースへ向かった。


 皆で個室に移動してようやくまひるが姿を見せた。長身で肉付きもいいからか、アースとはまた違った感じでその身体はメイド服をいじめていた。

 胸元が開きウエストを絞ったデザインの為、胸の谷間が強調され腰のラインもぴっちりと露になっている。ロングスカートは足首まで伸び、その上からフリルをあしらった白いエプロンが膝下まで広がっていて清楚ながら妖艶さも一緒に醸し出していた。


「お、お待たせ……なんとか着たよ……」

 頬を朱に染めながら個室に入ってきたまひるの姿は、その場にいた誰もが目を奪われるものだった。

「まひるお姉ちゃん、綺麗……そしてえっち…」

「い、言わないで風子ッ!」

 ウィンドが思わず言葉を漏らし、咄嗟にまひるが両手で自分の顔を隠しながらその場にしゃがみ込んだ。その横で飛鳥も顔を紅潮させ口をパクパクさせている。レオンも極力彼女たちを直視しないよう努めている様だった。

 背の低い飛鳥、ウィンド、マリンが前列に、その後ろに残りの者が立ち撮影が始まった。集合写真の後は各々好きに写真を撮った。そこにはいつの間にか笑顔しかない空間が広がっていた。



 『喫茶オリンポス』を満喫した一行は各々に行きたい場所の意見を出して道すがら手当たり次第寄っていった。

 ゲームセンターではファイアがやりたがっていた格闘ゲームでトーナメント戦をやって、結果は何とウィンドの優勝。元々ゲーマーのまひるや飛鳥を驚かせた。

 普通の家電量販店には置いてなさそうな物まで置いてある店にマリンは興味津々で、店員にそれはどういう物なのか質問を重ねていた。見るもの全てが新鮮で新しい知識を得るのが楽しいと言っていたマリンには、カルチャー文化の詰まった秋葉原はとても興味深い街だったようだ。


「ねえまひる?」

 露店の電器屋を観ていたマリンがまひるに問いかけてきた。

「なあにマリン?」

 マリンは何やら見覚えのない機械を手に持っている。

「これ、スタンガンと言う対人兵器らしいんだけど…」

「ス、スタンガン!?」

 まひるはその物騒な単語に驚いた。

「うん。ダイタニアには雷はあるけど電気はないんだ。これは機械的に雷を発生させられる装置らしい。研究のために、その……」

 マリンはそこまで上目遣いに言うと口ごもり下を向いてしまった。まひるは一つ軽いため息をついて

「研究のために欲しいのね? でもこれ、危なくないの? マリンが感電とかしちゃったら嫌よ?」

 と、優しく尋ねた。マリンは顔を上げ真剣な眼差しでまひるを見つめ返した。

「うん。これが危ない物という認識はあるよ。だから、気を付けて扱う! この世界の機械は電気で動くのに、電神(デンジン)は機械でありながら魔力で動いてる。もしかしたら魔力と電気には何かしらの共通点や類似点があるのかも知れない。他にも、電気には気になることがあって――」

 マリンがそこまで言い掛けると、まひるが

「分かったマリン、買ってあげる。だけどくれぐれも取り扱いには気を付けるのよ?」

 と言いながら会計を済ませた。マリンは目一杯瞳をきらめかせながらまひるに感謝を述べた。

「ありがとうまひる! 大切にします!」

 スタンガンの入った袋をまひるから受け取り、マリンは大喜びだ。

(家電製品…しかもスタンガンを買ってもらって喜ぶ美少女って……我ながら甘いかなあ? でも、この笑顔が見られるなら安いものかな)

 まひるは意外な物で全力で喜んでいるマリンを見て苦笑した。



 それから間もなくして、シルフィ仕掛ける《レイドバトル》がこの秋葉原電気街全域で開催されることとなる。

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