[Data19:陽子の日記]
これは、故・浅岡陽子氏が生前に書き留めた日記の一部を抜粋したものです。
4月7日
大学に上がったので、今日から時間がある時に日記をつけようと思います。
毎日つけるって言わないところが私のズルいところかな(笑)
入学式、慣れないスーツで疲れた。
教員紹介で壇上にお父さんがいた!
とても自分が誇らしく思えて、椅子に座りながらつい胸を張っちゃった!エヘン!
4月10日
部活の勧誘に誘われた。
大胆科学何とか部っていう、よく分からない部だったけど、声を掛けてくれた先輩はとても気さくで
「良かったらいつでも見学に来てね」と言ってくれた。
時間が合えば、見学くらいなら行ってみようかな?
4月15日
この前の勧誘してきた先輩(三橋チトセさん)に偶然学食で出会う。
向こうも私の事を覚えてくれてたみたいで一緒にランチをした。
部活の内容は気ままに情報処理やプログラムをやってるみたい。
「空想科学とか好きなら向いてるかもよ~」と先輩は言っていた。
空想科学、大好物なんですが…
4月21日
三橋先輩がいる大胆科学愛想部の見学をしに行った。そしたら予想以上に本格的な研究をやってるし、仮想空間?電脳世界?SF好きな私はつい嬉しくなってしまった。
しかも顧問はうちのお父さんだという。
お父さん、何で教えてくれないかな!
私はその場で入部届けにサインをしてきたよ。
自己紹介したら『サニー』ってあだ名付けられちゃった。
ちょっとお気に入り。
この部ではみんなあだ名で呼んでるみたい。変なの(笑)
5月3日
今日はゴールデンウィークで部活の新歓コンペ。
みんなで河原でバーベキューをしたよ。
気が付いたら、男子が焼いてくれたお肉を女子が頂く形になってて、ちょっと悪女気分?
6月7日
大学に入って初めて告白されちゃった!
でも、相手の方を全く知らなかったので丁重にお断りさせて頂きました。
ありがとう、ごめんなさい(泣)
7月20日
期末テストも終わり、無事夏休みを迎えられそう!
一学期、長いようであっという間だった。
ほとんど講義漬けの毎日だったよ。
夏休み満喫するぞー!
7月25日
今日は三橋先輩と街へお出かけ!
先輩はいつもと違って髪を下ろしててとても大人っぽくてカッコよかった!
私も髪伸ばそうかな〜
でもお手入れとか大変そうだし…
喫茶店での他愛ない女子トーク。
先輩はどうやら気になる人がいるらしい…
そんな話しを顔を赤らめてする先輩はとてつもなく可愛かった!乙女!
8月10日
部活の合宿ということで、みんなで海水浴兼ねて一泊旅行!
私、思いっきり泳ぐぞーって思って来たのに、
この年になると女子って泳がないの?
みんな日焼け対策バッチリで…
男子は豪快に泳いでたなあ。
ちょっと羨ましかったよ。
ビーチバレーも楽しかったけどね!
夜は肝試しという名の告白大会。
三橋先輩がまさかのコニシキ(小西)先輩に告白したのには驚いたよ!
でも、男らしく受け止めてくれた小西先輩、カッコよかった。
おめでとうございます三橋先輩。
9月1日
今日から二学期、じゃないのが大学!
まだもう少し夏休みなので、今日はミッチー先輩とお出かけ。
コニシキ先輩とお出かけじゃなくていいのと聞いたら散々のろけ話を聞かされちゃった!
たまには女友達とのこういう時間も必要みたい。
覚えておこう!
10月3日
夏休みにしっかり予習した分、講義の内容がよく頭に入る。
これなら何とか学業と部活を両立してやっていけそう。
12月3日
最近はよく千登世さんと遊びに出掛けるようになった。部に同学年の女の子いないってのもあるけど。
そう言えば、同ゼミのあーちゃんやユミちゃんも最近彼氏が出来たって言ってた。
男の子と付き合うのって、興味なくはないけど、ちょっと一歩が踏み出せなくて…
これが高校が女子校だった弊害なのだろうか?うーん…
12月24日
お家でお父さんとお母さんと三人でケーキとチキンを食べました。
千登世さんもあーちゃんとユミちゃん、けーちゃんとまるちゃんもデートって言ってた。
みんなすごいなぁ…
何だか私は、まだお家で家族と過ごす方が楽しいみたいです。
1月7日
年が明けて初登校。
今年はどんな年になるんだろう。
良い年になりますように。
1月20日
今日は千登世先輩と大学近くのカフェでマッタリ。
先輩は最近ではすっかり大人っぽく、前より綺麗になった気がする。
これも恋のおかげなのかな?
2月12日
バレンタインデーは部活の女子だけでチョコを作って男子部員に配りました。
私も食べたけど美味しかった!
私が渡したのは今年もお父さんだけだったなあ…
3月8日
大学の一年目の講義が全て終わった!
試験も恐らく大丈夫だったはず。
これから春休みだー
あーちゃんたちと木更津のテーマパークに行く約束あり。
4月10日
二年生!
コニシキ先輩からいきなり部員勧誘の命を受けました!
皆して何とか一人部員を獲得したよ。私がんばった!
迫田君、入ってくれて良かった〜
男の子なのに綺麗な顔でびっくりしちゃった。
ちょっと怖そうな感じの子だったけど、多分慣れるよね!
4月13日
今日は新入部員の迫田進一君の新歓ミーティング。
結局一人しか現在新入部員が来てないよ…
私の代も今や私一人だけどさ。
5月2日
今日は新歓コンペ。
いつもの五人しか集まらなかったので、小ぢんまりと大学近くの居酒屋で。
私と迫田君はお酒はまだ呑めないのでソフトドリンクで乾杯。
最初はちょっと堅い雰囲気だったけど、コニシキ会長と千登世さんの仕切りで打ち解けてきてたよ。
6月10日
大学の期末テスト期間。
もうそろそろ夏休みということで授業はお休みになりそう。
でもテスト期間は部活もなしになるから、試験勉強頑張らないと!
8月10
今年の夏合宿はみんなで河原でバーベキュー。
夜には恒例の肝試しをしようって話になったけど、コニシキ会長×千登世さんペア、私×ドック先輩×迫田君の三人一組…
これでどうこうなるはずもなく…
あ、でもドック先輩が思いの外腰引けてて、迫田君がリードしてあげてるのが面白かったな(笑)
11月4日
今日は待ちに待った初めてのSANYの起動実験の日!
なのに私ったら実験中に気を失っちゃって…
気が付いたら病院のベッドの上でした。
びっくり!
でも、SANYの創った世界を初めて感じて本当に感動したよ!
皆で創った仮想世界、素敵だった。
迫田君がデザインした優美な世界観も良かった〜
12月1日
部活の帰りに進一君をゲーセンに誘っちゃった。
あのゲーム、一人だと難しいからCOOPでやったらいつもより進んだし、楽しかったな。
進一君が相変わらず私には少し余所余所しい感じだったので先輩命令で名前呼びにさせちゃった!
これってパワハラ?
あとから気が付いたんだけど、男の子を下の名前で呼ぶのって、ちょっと恥ずかしい…
1月3日
部活の皆で初詣。
可愛らしい狐のペアの御守りを見付けたのでつい買っちゃった。
よく見ると縁結びの御守りでした。
何となくだけど、最近よくお世話になってる進一君に一つあげました。
多分、他意はない、と思うんだけど…
1月20日
二回目のSANY起動実験でした。
今回は進一君がプレイヤーだったんだけど、何事もなく終わって良かった。
研究は前より少し進んだ感じかな?
1月21日
大変!進一君から告白されちゃいました!
そんな素振り全然なかったのに突然。
しかも私も「好き」って言ってOKしちゃった!
冷静になって、もう一度よく考えてみよう私…
まず、進一君が私のことを好きだった。
素直に嬉しい。いや、とても、かなり嬉しい!
じゃあ私はあの時勢いでじゃなく、本当に進一君のことを好きと言ったのか?
びっくりしたけど、それ以上に嬉しい気持ちと、ドキドキが込み上げてきて…
私は今まで進一君のことを特別に意識したことなかったけど、いつも一緒にいて意識しなくていいくらい、他の部員と同じくらい大事な存在になってたんだろう。
でも、そんな風に思える状態を作ってくれていたのは進一君が私の知らないところで意識して私の過ごしやすい環境を提供してくれていたからではないか、そう考えたら急に愛おしく思えてきて「好き」と言ってしまっていた。
私の好きと進一君の好きはまだ温度差があるかも知れない。
でも、私はこの気持ちと、進一君が向けてくれた気持ちを大事にしていきたいと思う。
今までも何度か告白されたことはあったけど、どなたもよく知らない人ばかりで断り続けてきた。
でも、進一君はよく知る私の後輩だし、告白されて嬉しかったし…
お付き合い、することになるんだよね?
まだそういう実感が湧かない…
でも、なんだか今日は顔がにやけるのが止まらないよ
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1月23日
11月に倒れた時の精密検査の結果をお父さんとお母さんから聞いた。
どうやら私は末期癌らしい。
あと半年も生きられないようだ。
お父さんとお母さんは泣きながらこの事実を私に伝えてくれました。
私に真実を伝えるまで、二人ともきっとものすごく悩んでくれて、泣いてくれて、私のことを思ってくれたことだと思います。
私、死んじゃうみたい。
さっき一人になった時、思い切り泣いちゃった。
だからもう、人前では決して泣かずに笑顔でいよう。
ダメだ、やっぱり、
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――私へ。
この日記は今まで徒然なるままに書いてきたけど、これからは楽しかったことだけを書くようにしましょう。
私が読み返した時に、楽しかった日々を思い出せるような素敵な日記にしていきましょう。
私へ、約束です。
1月25日
千登世さんに進一君に告白されたことを相談しました。
病気のことは、言えません。
千登世さんは驚いてから、
「迫田君の本気具合を見てやる!」
って言って、何やらコニシキ会長とドック先輩と悪巧みをしていた。
何も起こらなければいいけど…
2月3日
千登世さんが私に謝ってきた。
何のことかと思ったら、大学内で千登世さんたちが煽動した男子学生が進一君目掛けて私のことでいちゃもんを付け始めているらしい!
まだ告白受けてデートらしいデートもしていないのに、どうしてこんなことに?
3月1日
あらぬ噂が先行して、進一君が謂れのない攻撃を受けている。
仕掛けた先輩たちも私たちを庇うように動いてはくれていたが、後の祭りだった。
さすがの私も我慢の限界。
これ以上進一君だけが傷付けられるのを黙って見ていられなかった。
ので、大勢の前で言ってあげた。
「この人はれっきとした私の恋人です!」って。
恥ずかしさ以上にスッキリした!
私は、私のためにこんなにも頑張ってくれている進一君が好き。
少し堅い笑顔を向けてくれる進一君が好き。
真面目で冗談も通じ難いところもかわいくて好き。
怖そうに見えて、整った優しい顔立ちが好き。
誠実さが感じられる受け答えが好き。
ああ、私はこんなにも進一君のことが好きだっんじゃないか、と
今更ながらに再認識した次第です。
本日、改めて私の方から進一君に交際を申し込みました。
進一君は慌ててたけど、丁寧に応えてくれました。
色々あったけど、ようやく、私たち、
彼氏彼女の関係になっていくのかな?
嬉しいな…
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4月18日
部活の先輩であり、親友だと思っている千登世さんに
病気のことを打ち明けた。
私は、弱い…
千登世さんは最初信じられないと驚いて、怒って部室を出て行ってしまった。
でも、私が一人で部室に残っていたらしばらくして戻って来て、ごめんねって、私を強く抱きしめてくれました。
それから、二人して思い切り泣いちゃった。
千登世さんには迷惑掛けちゃうけど、
誰かに知っておいて欲しかった…
千登世さん、私のわがままで、ごめんなさい。
泣いてくれて、ありがとう
4月25日
進一くんと初めてと言えそうなデート!
遊園地に行ってきたよ!
激しい乗り物は苦手って嘘付いてごめんなさい。本当は大好きだったんだ。
それでも、進一くんは優しく笑って
「陽子さんの乗りたいやつに乗ろう」
って言ってくれて…
嬉しかったな
そうそう、最近「陽子先輩」からついに「陽子さん」呼びになりました!
進一くんも恥ずかしそうに呼んでくれるけど、
私もまだ慣れず、恥ずかしい!
でも、イヤとかじゃなくて、
嬉しい
いっぱい遊んだなー。
一日があっという間でした!
初めて出来た素敵な彼と初めてのデート…
漫画でよく見てたけど、中々そのようには上手く行かず、
結局観覧車に二度乗ってしまいました。
進一くんたらようやく二周目で…
心臓が口から飛び出すかと思うほどドキドキだったよ。
自分の脚が地についてないかもって思えるほど、体がフワフワして、照れる!
あ、観覧車乗ってるんだから地に足はついてないだろってツッコミは自分で書いてて思ったので先に言っておきます!
ありがとう進一くん。
素敵なデートでした。
5月15日
部活の帰りに進一くんが私の最寄り駅まで一緒に帰ってくれるようになった。
自分の帰る方向とは逆なのに。
そんな進一くんの心遣いがとても胸に染みます。
そして、別れ際に、周囲を気にしながら キス してくれます。
格好いい進一くん!ステキ!
私の彼はとってもステキです!
6月7日
千登世さんたち三人とも内定が決まったって!良かった!おめでとうございます!
千登世さん、三月くらいから忙しそうだったからな〜
これで落ち着いたらまた遊んでくれるかなあ?
6月12日
部活で久し振りに全員が揃ったのでミーティングをしました。
やっぱりコニシキ会長がいると『部活』!って感じがする。
進一くん、自分の意見をしっかり言えてた。
とても頼もしく見えて、「ああ、成長してるんだ」と思えて、ちょっと泣きそうになっちゃった(泣いてないよ!)
6月25日
進一くんとのデートももう五回目。
今日は水族館!
イルカのショーが可愛かったー
みんなお利口で感動しちゃった!
進一くんはサメが好きみたい。
怖くないの?って聞いたら
「男はみんなサメが好き」なんだって。
なんでも「カッコいいから」らしい。
む〜… 男の子、分からない…
最近は自然に手も繋げるようになったし、
キス は、まだ恥ずかしいけど、
よくしてくださいます(照)
大事にしてくれてるの、わかる
その先は、私たちにはまだ早いのかな?
進一くんはどう思ってるんだろ?
6月30日
千登世さんと久し振りにお茶をしました。
千登世さんに、その、男女の営みについて聞いたら
千登世さんむせてコーヒーこぼしちゃって(汗)
私がそういう話題を振るとは思わなかったそうで、
とてもびっくりされちゃった。
いやいや、私だって今や彼氏さんがいる身ですよ?
そのくらい、考えます。
千登世さんが言うには
「男の子はどんなイケメンでも根暗な子でも女の子の裸が大好き!」だそうで。
進一くんが手を出してこないのは千登世さんは
「単なるヘタレなんじゃない?」って
言ってたけど、私にはすごく大事にされてるのわかるし…
千登世さんは私の体の心配もしてくれて、
無理だけはしないでと言ってくれたけど、
好きな人に愛されるなら
無理も望むところ!
恋する乙女は無敵なんです!
進一くんには私の全てを知って欲しい
そう思うのは、私のわがままなのかな?
7月8日
私の寿命は半年、と言われてから半年が経とうとしています。
私は幸いにもまだ生きていて、体調もまずまずです。
今の目標はこの夏を生き延びること!
7月10日
進一くんが夏休みを使って運転免許を取りに行くんだって。
合宿で三週間くらい掛かるみたい
本当は、行って欲しくないけど、
進一くんには未来があるから
私がそれを自分のわがままで
邪魔しちゃいけない
絶対に 生き延びる!
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9月1日
九月です。
九月を迎えられたけど、進一くんがいません。
明日運転免許の合宿から帰って来るそうです。
今年の夏は病院を行ったり来たりばかり…
進一くんが帰ってきたら、いっぱい甘えていっぱいわがまま言っちゃうんだから!
覚悟しててね進一くん!
逢いたい
ただ 逢いたいよ
進一くん
9月2日
進一くんが取ったばかりの免許証を持って会いに来てくれた!
笑顔が素敵
三週間振りの進一くん…
私にとって、こんなにも大切な人になっていたなんて
自分でもびっくりすると同時に、
この人のことを大好きなんだと、
改めて実感致しました。
いつも生きる力をくれてありがとう
進一くん、大好きだよ
9月16日
進一くんの運転で初ドライブデート!
ペーパーの私よりかは運転上手でした。
さすが男の子!
いつかバイクの後ろにも乗せてもらいたいな。
後ろから思いっきり抱きついてみたい!
SFアクション映画も観たよ。
映像は派手だけどストーリーは緻密で、
とっても面白かった。
進一くんは色々考察してたけど、
頭の中はSANYでいっぱいみたい。
眼の前にあなたのサニーがいますよーだ!
でも、そんな何事にも一生懸命な進一くんを
私は大好きなんだなあ
10月5、6日
今日のデートは私の希望で温活!
進一くんも色々調べてくれたみたいで、温活のできるデートコースをたくさん考えてくれてた。
岩盤浴はいつもより長くは入ってられなかったけど、気持ちよかった
進一くんも初めてって言ってたけど
満足してたみたい
進一くん、岩盤浴の時、私の胸見てた
直ぐに顔背けちゃって可愛かったな
私も今日は泊まりになるの覚悟して来たし、
進一くんをちょっと焚き付けちゃった
そしたら進一くん
「男としてちゃんと頑張る!」って!
何それ(笑) ホント、どこまでも真面目なんだからあ
お父さん、お母さん、
私は今日、初めて家族以外の方から
愛されました。
幸せで少し泣いちゃいました。
体の痛みなんて忘れちゃうくらい、
幸せで、嬉しくて、愛おしくて…
愛ってすごいんだなあ
進一くんは何度も何度も私に
「大丈夫?」と「好きです」を
言ってくれました。
私も迫田進一くんを、愛してます。
気付くと、いつの間にか、私の恋は愛になってました。
こうやってみんな、新しい家族を見付けていくのかなあ
それはとても 素敵なことだ
ありがとう進一くん。
とても、素敵でした(照)
11月10日
進一くんに内緒で進一くんのご家族に会って来ちゃった!
ご挨拶が遅れて済みませんでした。
お会いしようか、本当に考え、悩みました。
でも、進一くんに言えないからこそ、
話しておかなくちゃと思い、
私はご両親に私の病気のことを話しました。
私がもう長くはないだろうことを。
そしたらね?
お父さんもお母さんも私を抱きしめてくれて
泣いてくれたんだよ?
自分の娘のように
私も、声を上げて泣いちゃいました
何度もありがとうありがとうって言ってくださって
進一くんも素敵なご両親に育ててもらったんだね
ごめんなさい
進一くんと生きられなくて
ごめんなさい ごめんなさい
私は 進一くんのお嫁さんになれなかったけど、
きっと、進一くんのお嫁さんになってくれた人が
お父さんとお母さんを安心させてくださると思うから
いいなあ お嫁さん
やっぱり、今は 妬けちゃうな
12月24、25日
もう、見ることはないと思っていた海
見られないと諦めていた 海に
進一くんが連れてってくれました
私はとうとう進一くんの前で
泣いちゃいました
だって、自分でも信じられないくらい嬉しかったから
二人で静かに肩寄せ合って
波音を聞き 星空を見上げ
今この世には私たち二人だけの世界が確かにあって…
幸せに満ち溢れていました
最近視力が落ちた私の目には
北斗七星すら もう見えなくて
北極星を頼りに何とか言い当てたけど
進一くんにはアルコルまで見えていて…
ああ、進一くんにはこの先も未来が
まだまだ続いていくんだ
って思って胸がいっぱいになったり
私にはアルコルなんて見えないけど
この先、進一くんが人生で迷った時に
路を照らしてあげられる
北極星のように 私はなりたい
その夜のホテルも素敵でした
進一くんがクリスマスプレゼントに
可愛い手鏡をくれました
これは 私に降りかかるイヤなことを
全部跳ね返してくれるアイギスの盾
ピンクの狐ちゃんと一緒に
私の御守りにしよう
ありがとう 大事にするね
私からのプレゼントはチョコでした
なんかごめんなさい
こんなのしか作れなくて
お料理はまだまだ発展途上だったんだ
何か 形の残らない物の方が 良いような気がして…
あ!少し早いけどバレンタインチョコの気持ちで作ったんだよ!
私が初めて作った本命チョコです!
美味しく食べてもらえて嬉しかった
その後はずっと抱き合っていたね
このまま時間が止まって
明日なんか来なければいいのにと
本気で思っちゃった
でも どんな夜も必ず明けます
お陽さまの光って なんて尊いんだろう
今までの私はそんなこと感じたことなかったな
人生の最後に 色々知れてよかったな
ありがとう 進一くん
本当にありがとうございました
私は最後まで笑顔でいられたかな?
進一くんが思い出してくれる私の顔は
いつも笑っているかな?
ありがとう ありがとう
さようなら 進一くん
浅岡陽子は
心より
迫田進一さんを
愛していました
12月26日
今日一日自宅で過ごして
私は明日からホスピスに入ります
前から両親とも話して決めてたんだ
今まで私のわがままで
進一くんとの時間を優先させてくれてありがとうございました
これからの時間はお父さんとお母さんと一緒に過ごそうと思います
たくさん親孝行したかったけど
一番の親不孝をしていく私を
どうか お許しください
私の部屋 私の机 本棚 洋服
いつも美味しいお母さんの料理が並んだテーブル
お父さんが新聞を読むソファ
笑顔ばかりの思い出の 私のお家
今まで ありがとう
12月27日
看護師さんがみんな笑顔で
とってもステキなの
私も釣られて笑顔になっちゃうくらい
ここはある意味 優しい世界
入院して間もなく 千登世さんがお見舞いに来てくれました
お見舞いも何も 私もうすぐ死んじゃうのに
それでも 千登世さんは
「イヤだと言ってもまた来るから!」
って泣きながら笑顔で言ってた
本当はすっごく嬉しかったです
素直になれなくて ごめんなさい
ダメだな私
ここにきてもまだ
覚悟を決めて来たはずなのに
三橋千登世さんへ
私の大好きな部活の先輩
私の大好きな女の子の友達
私の大切な 親友
千登世さんに声をかけられて
大胆科学愛想部に入ってよかった
千登世さんじゃない人に声をかけられてたら
多分見学にも行かなかったろうし
そしたら 進一くんとも出会えてなかった
そう思うと 千登世さんは私の恋のキューピッドだね
あはは 可愛い
コニシキ先輩に恋をしている千登世さんを見て
素敵だなって思ったの
私もあんな恋をしてみたいと思うようになったし
進一くんの告白も真剣に考えられました
千登世さんはいつも明るくて
コニシキ会長と一緒にみんなを楽しませてくれて
とっても眩しかった
いつも私の色々な相談にのってくれて
ありがとうございました
一人っ子の私にとって千登世さんは
お姉ちゃんのような素敵な存在でした
おかげで進一くんとも恋人どうしになれました
感謝しかありません
学業でも先輩で 恋愛でも先輩で
私が目標とする女性の一人です
でも コニシキ先輩の前だけは
髪を二つ結びにしたりして可愛らしいところもあって
そういうところ含めて素敵な女性だなって
いつも思ってました
病気のこと 打ち明けてごめんなさい
千登世さんにはとても辛い思いをさせちゃいましたよね
私の心の弱さがにくいです
でも 私が親友と思っている千登世さんにはどうしても甘えが出ちゃって
恋人には隠してるくせして親友には話せるっておかしな話でしょう?
どっちに話しても 辛い思いさせちゃうのは変わりないのに ごめんなさい
今まで私を支えてくれてありがとうございました
ずっと幸せでいてくださいね?
千登世さんの結婚式には空の上から参列してあげるんだから!
ありがとう千登世さん
さようなら
12月28日
今日は今までお世話になった方に
お礼とお別れをします
[そこには、陽子がこれまでの人生で関わってきた多くの人に対しての思い出と感謝の念が綴られていた]
あーちゃん ユミちゃん
最後までゼミ一緒に受けられなくてごめんね
仲良くしてくれてありがとう
けーちゃん まるちゃん
大学入ってまだ一人で心細かった時に
声をかけてくれてありがとう
みんな彼氏さんと仲良くね
コニシキ先輩
大胆科学愛想会 楽しかったです
ひとえに コニシキ先輩の明るくてポジティブなキャラのおかげで部活がまとまっていました
お世話になりました
千登世さんを大切にしてあげてくださいね
ありがとうございました
ドック先輩
最初は進一くんに厳しかったけど
今思えば 飴と鞭がハッキリしてて
理想の先輩像だったのでは?とさえ思えます
知らないことたくさん教えてくださり
ありがとうございました
私もアニメ好きですけど
実際の恋愛もとても良いものでしたよ!
自信をもってオススメしちゃいます!
お父さんへ
いつもお仕事お疲れ様です
教授のお仕事ってとても忙しそうで
昔 まだ私が小さい頃
「お父さんはあんなに働いてて大丈夫なの?」って
お母さんに聞いたことがありました
そしたらお母さん
「お父さんは陽子が良い子に育つよう
一生懸命働いてくれてるんだよ」って
言ってくれて その時はよく意味が分からなかったけど 今は分かります
いつも家族のために働いてくれてありがとうございます
私はお父さんお母さんが望んだような
良い子にはなれなかったかも知れないけど
仕事をしている格好いいお父さんの後ろ姿は
一生忘れません
ここまで育ててくれてありがとうございました
お母さんを よろしくね
お母さんへ
先にこの世を去るようなことになってしまって
まずはごめんなさい
子供が親より先に逝くことは
この上ない親不孝だと自覚してます
でも
でもね?
私は自分の人生に後悔はないんだ
大好きな人と結婚したり
色々なお料理覚えたり
可愛いお店で働いたりは
できなかったけど
私の人生 最高に幸せでした
そんな最高の人生を見せてくれた二人に感謝してもしきれないくらいです
お父さんお母さん
私を産んでくれてありがとう
いっぱいの愛情をそそいでくれてありがとう
もう ありがとうの言葉しか出てきません
私のお父さんお母さんでいてくれてありがとう
あなたたちの娘として生まれて
幸せでした
あなたたちの娘 陽子は
精一杯 自分の人生を生き抜きました
ありがとう お父さんお母さん
愛しています ずっとずっと
もし次 生まれ変われるとしたら
また お父さんとお母さんの娘として
生まれてきたいです
迫田進一くんへ
進一くんのことは今までたくさん書いてきたし
この前さよならしたばかりだから
書かないつもりでいたけど
やっぱり最後に 少し書かせてください
病気のこと 隠しててごめんなさい
どうしても進一くんには 言い出せなくて
進一くんに見せる最後の顔は
進一くんが綺麗って言ってくれたときの
私の顔のままでいたかったから
そんな女心のわがままを 許してください
進一くんが作ったゲームやってみたかったな
今後もSANYを研究してそれを元に開発するのかな?
みんなで研究 楽しかったね
バーチャル空間ではあったけど
進一くんやSANYが見せてくれたあの世界は
確かにもう一つの世界だったね
あの世界でもし私がプレイするなら
アバターはロングヘアにして
もう少し可愛らしい女の子でプレイするんだ
進一くんとお付き合いするようになって
少し髪伸ばし始めてたんだよ?
少し背伸びしたオシャレも楽しかったな
進一くんも これからたくさんの人と出会って
また恋をして
幸せになってください
進一くんが目指している
自分の技術で人を幸せにしたいって願いは
とても素晴らしいです
進一くんに幸せにしてもらった
私が言うんだから絶対です!
そんな優しい進一くんが描く未来は
どうか悲しみが消えた未来でありますように
想いは願いに
願いは力に きっとなるから
これからも続いていく進一くんの未来を
私にも 応援させてね
私を好きになってくれてありがとう
愛してくれてありがとう
進一くんを好きになってよかった
進一くんと愛し合えてよかった
進一くんと出会えて 私の人生は幸せでした
ありがとう
ありがとう
さようなら
大好き
1月1日 元旦
新しい年を迎えられたみたい
お父さんとお母さんが
この部屋で一緒に年を越してくれました
嬉しいなあ
1月7日
点滴のせいか さいきんねむい
そろそろなのかな?
でも 半年っていわれてたのに
その倍 生きられたから 私のかち
ちとせさんがおみまいに来てくれて
あいかわらず きれいな笑がおで
進一くんとのメッセージのやりとりは
なんの問だいもないから心配しないで
って言ってくれた
私はまた ちとせさんにつらい役を押しつけてしまった
ごめんね ちとせさん ありがとう
ごめんね 進一くん
1月
かんごしさんが部屋のまどを少し開けてくれた
冬の冷たい風が入ってきてきもちがいい
風
背中を押して
進一くんが つまづきそうになったとき
背中を押してくれるような風が
きっと 吹くから
だから これから先 進一くんがくじけそうなとき
私は 進一くんのほほをなでて
そっと一息安らげるような
そんな そよ風に なりたい
進一くんの 背中を押してくれる 風には
きっと 他の人が なってくれると思うから
いつかふく かぜを まって
しんじていて ね
さ
よ
う
な
ら
1月17日
浅岡陽子 永眠
享年二十二
後に、仮想空間生成制御人工知能の研究に携わった第一人者たちの一人として、その名を歴史に残すことになる。




