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超次元電神ダイタニア[Data Files]  作者: マガミユウ
16/29

[Data13:進一と陽子【五】]

三ヶ月後、大学に入って二度目の春――


俺は大学二年生になった。今は講義が終わった後で、部室には彼女である陽子さんと、その親友のミッチー先輩がいる。コニシキとドクは就活のため今日は来ないらしい。


一月に行ったSANY(サニー)の電脳空間における仮想世界構築実験の実証も取れ、無事卒業研究にあてる許可も降り、先輩たち三人は心置きなく就活に専念していた。

それもあって、最近は本格的にSANYの起動実験を試みていなかった。


春の午後の暖かな陽の光射し込む部室で、俺は彼女の淹れてくれた紅茶を飲みながらまったりと過ごしていた。


「あぁ……平和だ……」

俺がそんな事を呟いていると陽子さんがクスリと笑う。

「進一くん、最近そればっかり言ってるね」

だってしょうがないじゃんか。この三ヶ月間は本当に色々なことがあったんだ。

いや、本当に大変だったよ……


挿絵(By みてみん)


二度目のSANY起動実験の後、直ぐに俺は陽子先輩をゲーセンに誘った。

勿論、告白するためである。


彼女は白いニットにベージュのロングスカートで清楚なお嬢様といった出で立ち。控えめに言って目茶苦茶可愛かった。


「進一くん、どうしたの?」

俺の視線に気付いた陽子先輩が不思議そうな顔で訊いてくる。

「いえ……なんでもないです……」


(可愛いすぎるな!)

俺は心の中でそう叫びながら平静を装って返事を返したのだった。それから俺たちはゲームセンターに行き、何時ぞやのロボットアクションゲームを楽しんだり、慣れないプリントシールを撮ったりした。

その後ファミレスで昼食を摂り、ウインドウショッピング。夕方頃には彼女の最寄り駅まで送って行った。


「進一くん、今日はありがとう。楽しかった」

「陽子先輩……その……」


本当に言うのか?

その先を言って拒絶なんかされたもんなら、この先どんな顔して先輩と顔を合わせればいいんだ?

くそッ!心臓がどうかしちまったんじゃないかと思うくらい速い!

今までの人生の中で、これ程勇気が要ることがあっただろうか!?


ままよッ!

俺は覚悟を決めて彼女に言うことにした。


「俺!先輩のことが好きです!!」

「ッ!」


俺の言葉に彼女は一瞬驚いたような表情を浮かべるが、直ぐに優しい笑顔になる。そしてゆっくりと口を開いた。


「うん……うん………ありがとぅ」

そして彼女は俺の手を握りながらこう言ってくれたのだ。

「私も、進一くんの事……好き…」

「ッ!!」

その時の彼女の顔を俺は一生忘れないだろう。そして彼女のその言葉で俺の心は天にも昇る気持ちで満ち溢れていたのだ。



晴れて両想いになった俺たちだったが、付き合うまでが大変だった……

陽子先輩はモテる。それはもう、男女問わずにモテまくるのだ。

ただでさえ女性の比率が少ない理系の大学なのに、あの人当たりの良さだ、無理もない。そして彼女に告白しようとする男が後を絶えないのである。俺もその中の一人だったわけだが……


陽子先輩は俺と会う時だけは何時もよりオシャレをして化粧にも気を遣っているらしく、彼女が俺と付き合うことになったことを知るや嫉妬深い男どもが彼女の周辺に群がり始めたのだ。


正直鬱陶しかった! 俺は何とか彼女を守れるように努力したつもりだ。幸いにも彼女と一緒にいる時間が増えたお陰で、俺は彼女の友人とも顔見知りになり、時には彼女たちを味方につけて陽子先輩に近づく害虫どもを追い払ったりしていた。


そして三ヶ月が経過する頃にはすっかり俺と彼女は学内公認カップルになっていたわけだ。



「でも……まさか君たち二人が付き合うようになるなんてね……」

ミッチー先輩が紅茶を飲みながら感慨深げに言う。


そう、俺が陽子先輩と付き合うことになって一番驚いたのは彼女だったかもしれない。自分の親友と俺が付き合うことになるとは思ってもいなかったのだろう。

正直俺もだ。だが、俺は彼女と両想いになれたんだ!


「えへへ……私もびっくり」

陽子先輩が照れ笑いを浮かべる。


(可愛い)

俺は思わず見惚れてしまう。そしてそんな俺の視線に気付いたのか、彼女はニッコリと微笑んでくれたのだった。あぁ……幸せすぎる……


「陽子、迫田君のどこに惚れたのよ?」

ミッチー先輩も興味津々といった様子で陽子さんに問いかける。


「うーん……何ていうか、最初に見た時は綺麗な男の子だなって思ったの」

「あ、それは俺も思いましたよ!最初見た時美人だなって思って、それで──」

「進一くんストップ!」

陽子先輩は少し慌てたように俺の言葉を両手を向け遮ると顔を赤くしながら言葉を続ける。


「そ、それから一緒に部活に顔を出してくれて……なんだかすごく嬉しかったなぁ……」

そう言いながら彼女はその時のことを思い出しているのかモジモジとしている。その仕草がとても可愛らしくて、俺は思わず抱きしめたい衝動に駆られたのだが、なんとか我慢したのだった。


「それから進一くんと一緒に過ごすうちに……彼の優しさとか誠実さに惹かれていったの」

彼女は頬を赤く染めながらそう話すと俺の方を見てニッコリと笑った。

「陽子さん……」

(可愛いすぎだろ……)

俺は彼女への愛しさが更に増していくのを感じた。


「あ〜、今日暑いわね?あたし帰ろうかしら?何かお邪魔しちゃってる?」

「あ!いえ、そんなことないですよ!」

ミッチー先輩がわざとらしく手で顔を仰ぎながら部室を出て行こうとしたので慌てて引き止める。


「迫田君?陽子のこと、泣かせたりしたら承知しないからね?じゃあお邪魔虫は退散するわ〜」

彼女はニヤニヤしながらそう言うとバッグを持って部室を出て行った。


(絶対わざとだ……)

俺はそう思いながらも心の中で感謝した。あの人には色々と世話になっているからな。今度何かお礼でもしようと心に誓ったのであった。


ちなみに、陽子さんと付き合うことになったことを最初に打ち明けたのも、陽子さんの親友だというミッチー先輩だった。



「迫田君、陽子と付き合うの?」

「はい」

俺はミッチー先輩の質問に素直に答えた。

「そっか……まあ、陽子から度々相談は受けてたから知ってたんだけどね」

彼女は少し悲しそうな表情を浮かべると俯いたまま黙ってしまう。


「千登世さん、いつも相談に乗ってくれてありがとう。これからも私たちをよろしくお願いします」

そう言うと、陽子さんはミッチー先輩に頭を下げる。隣の俺もそれに倣い深々と頭を下げた。


俺が頭を上げるとミッチー先輩は顔を上げてニッコリと笑った。

そうしてからいつもの悪戯っぽい笑顔に戻り、こう言ってきたのだ。


「陽子のこと、大切にしてあげてね!」

「勿論ですよ!俺、陽子さんのこと大好きですから!」

俺の言葉に彼女は一瞬驚いたような表情になったが、直ぐに嬉しそうな笑顔になる。そして「ありがとう」と一言だけ言ったのだった。


それからコニシキとドク先輩にも報告し、二人とも祝福してくれた。

「ザコタ、サニー!おめでとう!良かったな!」

コニシキは自分のことのように喜んでくれた。本当に良いヤツだ。


ドク先輩も優しい笑顔で俺にこう言ってくれた。

「ザコタ……サニーとのこと、応援するぜ。やったな!」

俺は二人の言葉に胸が熱くなった。本当に最高の仲間たちだ。俺はこの人たちと出会えて幸せ者だと心の底から思った。



「進一くん……?」

陽子さんの声で俺は我に帰る。彼女の顔を見ると少し心配そうな表情をしていた。

「大丈夫?ボーッとしてたけど……」

「あ、いえ、幸せだなーって思ってました」

(本当に幸せすぎるなぁ……)

俺はそんなことを考えながら彼女の淹れてくれた紅茶を飲んだのだった。


「ねぇ進一くん?」

俺が紅茶を飲んで一息ついていた時、突然陽子さんが話しかけてきた。

「どうしました?」

「あのね……今度一緒にどこか行かない?その……デート、みたいな?」

「え!?は、はい!いいですね!」

俺は驚いて声を上げる。まさか彼女の方から誘ってくれるとは!


「うん!行きたいところとかある?」

(行きたいところかぁ……)

正直陽子さんと行けるならどこだって良かった。俺は少し考えてから返事をした。


「どこでも大丈夫ですよ」

(まぁ……強いて言えば先輩の水着姿とか見てみたいけど……)

そんな不埒なことを考えながら答えると彼女はニッコリと笑って言ったのだ。

「じゃあさ、行きたいとこ代わりばんこに言って、制覇していこうか!」

「あ、いいですね!」

「では、まずは私から!遊園地!」


こうして俺たちは次の休日、一緒に遊園地へ出かけることが決まった。



告白してから三ヶ月目、俺と陽子さんにとって初めてのデートと言えるデート。

俺は集合場所に約束の時間より三十分早く着いてしまった。

(まだ来てないよな……)

俺はスマホで時間を確認してから辺りを見回す。

すると、遠くの方で手を振って駆け寄ってくる陽子さんの姿を見つけた。

俺は小走りで彼女の方へ向かった。


「すみません!待ちましたか?」

俺がそう声を掛けると彼女は首を横に振って答える。

「ううん、私も今着いたとこ!」

そんなやり取りをしてから俺たちは入場ゲートの方へと歩き始めた時、彼女が不意に俺の手を握ってきたのだった。彼女は顔を真っ赤にして俯いている。


「あ……」

突然のことに驚きながら、恐る恐る彼女の手を握り返していくと、彼女は嬉しそうな笑顔を見せてくれる。

「えっと……それじゃあ行きましょうか?」

俺がそう言うと彼女はニッコリと笑って頷いてくれたのだった。


初めて会った時もこうしていきなり手を握られたけど、あの時とは全然気持ちの高鳴りが違う。俺の心臓どうしちまったんだ!?と言うくらい鼓動が早くなる。


「進一くん……顔赤いよ?」

彼女は悪戯っぽく笑いながらそう言う。

「陽子さんこそ……」

俺はそう言い返す。陽子さんだって顔が真っ赤だった。


(本当に可愛いなぁ……)

そんな時、ミッチー先輩といつか交わした会話が俺の脳裏を過った。


『迫田君さあ、ちゃんと陽子に可愛いとか、好きだよとか、言ってあげてる?女の子って言葉にしてもらわないと不安になっちゃうこともあるんだよ?その辺なーんか疎そうだからさぁ、君って』


ごもっともな意見である。俺は自分からそういう事を口にするのは男として軟弱な気がしたのと、気恥ずかしかったのもあり、思うだけでほとんど口にした事はなかった。


今日の陽子さんを見る。やっぱり素敵だ……

「あの、陽子さん…」

「ん?」

彼女は微笑みながら答える。

「陽子さん、今日も可愛いです。その、服も…よく似合ってて、可愛いです…」

どうした俺の語彙力ッ!?


俺は勇気を出して何とか言葉にした。すると彼女の顔が更に赤くなったような気がした。

「あ、ありがとう……」と小さな声で呟くようにお礼を言う彼女を見ていると何だかくすぐったいような感覚に襲われたのだった。


「進一くんも、今日も格好いいね!モノトーンのコーデもスラッとしてて似合ってるよ」

陽子さんは照れながらそう言う。

俺はまさかのカウンター攻撃を受けて、またしても顔が熱くなるのを感じる。

「あ、ありがとうございます!」

俺たちは照れ臭くなりながらも手を繋いだまま入場ゲートへと向かったのだった。


「あとね、進一くん?そろそろ、ね、敬語はやめにしない?私たち、その、付き合ってるんだし……」

入場ゲートでチケットを買おうとしていた時、陽子さんが少しモジモジしながらそう言ってきた。


(そういうものか?俺は単に陽子さんを尊敬してるから、当たり前に喋っていたが…)

俺は意を決して返事をする。


「うん、そうか……じゃあ今日からやめるよ。慣れるまで少し時間が掛かるかも知れないけど、大目に見て」

俺がそう言うと彼女は嬉しそうな笑顔を見せてくれたのだった。

(ああ……本当に可愛いなぁ)

そんなやり取りを経て俺たちは遊園地の中へと入って行くのであった。



初めて好きになった女性と、初めてデートに来て、初めて手を繋いで……

何だか、本当に夢みたいな感覚だ。

SANYと『天照(アマテラス)』で創られたあの世界より、何処となく現実味が薄く感じられた。ちゃんと俺の脚、地に着いてるよな?


「どうしたの?進一くん」

陽子さんが少し心配そうに俺の顔を覗き込んだ。俺は慌てて首を振る。

「いや、幸せを噛み締めてたんだ」

すると彼女はニッコリと笑って言ったのだ。

「私も幸せだよ?」

俺はその言葉を聞き、再び自分の心臓が跳ねるのを感じたのだった。



遊園地を一通り楽しんだ後、俺たちは観覧車に乗って夕陽に染まる景色を眺めていた。


「うわぁ!すごいね!綺麗だね!」

と、はしゃぐ陽子さんがとても可愛らしい。そしてそんな陽子さんを見ていると何だか心が温かくなったような気がしてくるのだ。


やがて一周して観覧車のドアが開くとそこから降りようとした時、陽子さんが俺の服の裾を少し摘んだ。彼女の上目遣いが可愛すぎて俺は思わずドキッとしてしまう。


「あの、進一くん……」

「ん?」

「……もう一周、いいかな……?」

彼女は少し恥ずかしそうにそう言う。そんな彼女を見ていると俺も何だか恥ずかしくなってきてしまい、思わず顔を伏せてしまった。


「あ……ああ……」

俺はそれだけ答えるのがやっとだった。

そんな俺を見て陽子さんはクスッと笑うと俺の手を取って歩き始めたのだった。


(やっぱりこの人には敵わないな)

そう思いながら俺たちは再び観覧車に乗るのだった。

観覧車に乗り少し上昇しだした時、陽子さんが不意に口を開いたのだ。


「今日は楽しかったね!それにとっても素敵な思い出ができたよ!」

「うん、俺もだよ!これからも一緒に色んな所に行こう」

俺がそう言うと陽子さんは微笑みながら頷いてくれた。

彼女の笑顔が眩しくて俺は照れ臭くなって視線を逸らした。


「…進一くん、隣、座ってもいい?」

彼女は少し遠慮がちにそう尋ねてきた。俺は「どうぞ」と答えた。すると陽子さんは照れ笑いを浮かべながら俺の隣に座ってきた。

そしてそのまま俺の肩に頭を預けてくる。彼女の甘い香りが俺の鼻腔をくすぐった。心臓の鼓動が高鳴るのを感じたが、嫌な気分ではない。むしろ心地良いくらいだ。


(ああ……幸せだ……)

俺はそんな想いを噛み締めながら時間を忘れてずっとこうしていたいと思っていた。


(…何だか陽子さんにばかり、気を使わせてしまっているな…ここは男の俺がもう少ししっかりエスコートしないとなんだろうけど…)

俺は心の中で反省しながら、改めて彼女に視線を送る。すると彼女も俺を見ていたのか視線が合う。俺はその夕日に照らされ煌めく瞳に吸い込まれるように、そっと陽子さんの細い肩に手を添えた。


「あ…」

陽子さんが小さな声を漏らす。

「進一くん……」

彼女はそのままゆっくりと瞳を閉じた。俺はそんな彼女に顔を近づけていく。

そして……俺たちの距離はゼロになった。

挿絵(By みてみん)

「ん……」

思わず漏れてしまったような彼女の吐息が耳に心地良い。俺は自分の唇を離すと、陽子さんの頰に優しくキスをした。すると彼女は驚いた様子で目を開けたのだ。

俺たちはそのまま見つめ合って微笑むと再び唇を重ね合わせるのだった……


観覧車を降りた後、俺たちは帰路に着くことにした。もうすぐ別れの時が来ると思うと少し寂しくなってしまうのは仕方のないことだろう。

そんな中、陽子さんは俺の手を握るとニッコリと笑ってくれたのだ。

そんな笑顔を見て俺も自然と笑みがこぼれた。


「進一くん、今日は本当にありがとう!凄く楽しかったよ!」

「俺もだよ」

俺がそう言うと彼女は嬉しそうな笑顔を見せてくれたのだった。

「これからもよろしくね?進一くん!」

陽子さんはそう言って俺の腕に抱きついてきたのだ。突然のことに驚いたが俺は何とか平静を装って答えた。


「も、勿論だよ!俺の方こそ、よろしく」

俺たちは互いに笑い合った後、再び家路に向かって歩き始めたのだった。



それから、俺たちは何度も何度もデートを重ねた。確実に二人の距離が近くなっていくのを感じる。

俺はこの女性と結婚するのか…というような妄想まで普通に思考してしまう始末だ。


彼女がいる、好きな人がいる、愛する人がいる、護りたい人がいる…

そんな人がいるだけでこんなにも自分の気持ちに変化が起きることに俺は心底驚いていた。

俺は今まで生きてきた中で、こんなにも大切な人を見つけることができたのか……と感慨深く思いながらも彼女を大切にしたい気持ちが溢れてくるのだった。


(こんな気持ち、初めてだ…)

俺は講義の内容そっちのけで改めて自分が今感じている幸せを噛み締めていた。

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