エピソード05
今朝から感じていた違和感の相手
侍女のマーサ
廊下ですれ違った一部の使用人
卒業パーティーへの参加資格がある卒業生
義弟のアイル
そして······
『マーサはいつもとどこか違う気がするけど
変わらず私に忠義を尽くしてくれている···
すれ違った使用人達もぎこちない態度だったけど
何をされるでも言われるでもなかった···
学園の皆さんとアイルは···
私に明らかな嫌悪感を持っていた気がする。
学園で何かとんでもなく失礼なことしたかしら···?
でも···でも···
例え、学園で私が何かしでかしていて
忌み嫌われるような存在になったのだとしても
アイル、貴方は、貴方だけは他の誰とも違うでしょ?!』
疑いなく、絶対の味方であるアイルの
豹変とも思える先ほどの態度に
今さらながらフツフツと怒りが湧いてくる。
会場に入ってアイルを問いただしたい気持ちもあるが
見たことも聞いたこともない
アイルの表情、声を思い出して心が冷える。
『またあのアイルだったら···心がどうにかなってしまいそう···』
いっそこのまま帰ってしまいたい気持ちも湧くが
今日はロベルト様のエスコートで
会場入りするお約束をしている。
卒業パーティーは、毎年生徒会長が
最後に入場すると決まっていて
今年はロベルト様だ···
『だめ、それは考えちゃ駄目···』
もう時計針は18:40を指していた。
約束は、会場前のこの広場に18:00
何か事情があったにせよ、ロベルトがクロエに
何も知らせず待たせることなど普通ならありえない。
何度も膨らんでは潰していた不安が
潰しきれないほど膨らみつつあった。
遠くから人の話し声が聞こえてきて
恐る恐る顔を上げれば、ひと組の男女の姿が見えた。
『なんだ···よかっ、、、?!』
見間違いだと思った。
だって、女性は男性の腕に
これ以上すき間ない程に、ピタリと密着している。
クロエに一瞬の誤解すら与えるのが嫌だと
クロエ以外の女性とは、それが例え自身の母でも
関わりの持ち方が潔癖の域に達している
あのロベルトであるはずがないのだから···
しかし、あの男女の服装には見覚えしかない。
つい先日、ロベルトと共に寸法合わせしたばかりの
結婚後、友好国であるラクロット国に訪れる際の訪問着だ。
訪問着は、相手国の流行や特産に合わせるのが礼儀。
豊満で健康的な肉体美をもつラクロット国では
胸下の位置で切り替えのある、ゆったりした
オフショルダーデザインが流行っている。
そのデザインを、ラクロット国の特産品である
麻とシルクのいい所だけを集めたような
希少で高価な素材をふんだんに使い
クロエのためだけに作られた特注品だ。
全体的にゆったりとしたデザインのため
華奢なクロエが着ると、服の中で
身体が泳いでしまい、余りにも不格好だったので
大幅に縮めて貰う手筈だった。
でも···あの女性が着ているのは
紛れもなく、クロエの訪問用ドレス。
そして、男性が着ているのは
女性が着ているドレスと対になるよう
同じ生地で作られた、ロベルトの訪問用礼服。
『もうやだ···もうやめて······』
こちらへ歩みを止めることなく、進んでくる男女
もう表情すら見えるほどの距離となる。
『ロベルト様···何故···??』
やはり男性は、ロベルト以外の何者でもなかった。
クロエは所構わず、座り込んでしまいたかった。
身体からは力が抜けてきっていて
ちょっと強い風が吹けば、身体がバラバラに崩れて
落ち葉のように吹き散らされそうだった。
『ロベルト様···そんな風に笑っていたのね···』
もしかしたら、足をくじいたレディに腕を貸したんじゃ?
もしかしたら、無理矢理密着されて
王太子として無下に振り払えなかったんじゃ?
不安を否定するため、無いにも等しい可能性を
無理やり捻り出したクロエの希望的観測は
ロベルトの満更でもない笑顔によって打ち砕かれた。
『夢なら、、、夢なら早く冷めて!!
私が心を保てず醜態を晒してしまう前に!!!』
祈りは虚しく、ロベルトはクロエに一瞥もなく
女性をエスコートして会場への扉をくぐってしまった。
『あぁ、神様なんていないんでしたね···』
続きを書くために読み返してみて
クロエが一言も喋ってないことに驚きました。
心の声めっちゃ呟くやん···