エピソード25
『不思議···
食欲がなかったはずなのに、終わってみれば
いつもより多く食べていたみたい···』
ハーツとの食事は、緊張するかと思っていたが
意外にもクロエにとって楽しい時間となった。
クロエは理由がわかっていないが
真面目すぎるロベルト、寡黙なアイルの2人と
比べることすら馬鹿らしいほど
ハーツは口達者で気配りできる男なのだ。
「ハーツ様、ご馳走様でした。
こんな時だというのに、とても楽しい食事でした!
思わず食べ過ぎてしまうほどの。」
「ふふっ、良かった!
私もクロエ嬢を誰に気兼ねすることなく
思う存分見つめながら食事できて
本当に幸せな時間だったよ?」
『···もうっ!!!!』
クロエが茹でダコのようになっていると
街のあちらこちらから騒がしい声が届いてきた。
「急報だぁーーーっ!!!
ロベルト王太子殿下と《迷いの愛し子》様の
結婚が決まったぞーーっ!!!」
『あらら···
ロベルト、君もうちょっと抗いなよ···』
ハーツが呆れ顔でそっとクロエを見れば
先ほどまで真っ赤にしていた顔は
白を通り越して青く変わっており
恥ずかしさを隠すため顔を覆っていた両手は
見るも哀れなほど小刻みに震えていた。
『はぁ······君がそんなじゃ
今まで我慢していた自分が可哀想なくらいだ。』
ーーガバッ
「えっ!?」
突然のことだった。
なにが起こったのかわからないまま
クロエはハーツに包まれていた。
「···クロエ?
もうわかっているよね?
私は貴女を愛している。
貴女の幸せを願って···ロベルトの想いを信じて
この心に蓋をしてきた。
でも、ロベルトを想って心を痛める貴女を
黙って見ているなんて、もうできない···
ねぇ?心の蓋を開けてもいいよね?」
クロエの耳元で囁かれた告白は
いつも自信に溢れているハーツには珍しく
少しだけ震えていた。
『ハーツ様···』
クロエにはわかっていた。
こんな時だから想いを告げてくれたのだと。
ハーツがクロエを動揺させるのは
クロエが辛かったり悲しかったり悩んでいたり
苦しんでいるような時ばかりなのだから···
「···ハーツ様
今日、婚約破棄したばかりの私には···
この後、公爵家と決別するであろう私には
今、お気持ちに返す言葉は用意できません。
でも···ロベルト様への想いは···
今度は私が蓋をする番です。」
想いを告げられることがあれば
その時の自分の心に従おうと思っていた。
ロベルトのことも終わったことだと思っていた。
しかし、まだこんなにも心が揺さぶられるのだ。
公爵家のことも片付けなければいけないのに
ハーツの優しさに甘えて
流れに任せて受け入れてしまえるほど
クロエは無責任な人間ではない。
『そういう頑ななところも好きなんだよな···』
ハーツは惚れた弱みとばかりに
ひとつ息を吐き、クロエを解き放つ。
「じゃあ、どちらも過去のことになれば
もう我慢はしないから···覚悟しててね?」
「···はい。
我儘を聞いてくださって、ありがとうございます。」
断ることもせず、答えを先延ばしにした自分に
悲しんだり泣いたりする資格はないと
涙を零さないよう堪えているクロエを見て
ハーツは先ほどの自分を後悔する。
『はぁ···可愛すぎる···
口を塞いでしまえば良かった···』
ハーツの目論見どおり、クロエの意識は
ハーツと、今後の自身の動向に絞られた。
「では、レディ?
そろそろジェラート公爵邸へ参りましょうか?」
『十分に時間はあげたよ?アイル?』
「はい、お願いします!」
喧騒を抜け、2人は慣れ親しんだ街を後にした。
あら〜!
とうとうの告白回でしたー!
ちなみに私の中で
クロエがどう決断するか
まだ決まってませーん!
※タイトルの話数を変更しました!