エピソード18
暫しの思考停止の後、ナオコの腹が決まった。
その勢いのままソファーに浅く座り直し
身を乗り出すようにハーツへ向かい合う。
「ねぇ?!その宝ってやつ取り返したら
あんたとその女、この国から出てくの??」
「もちろん。
元々、留学期間が終わるので
私は国に戻る予定となっておりました。
目的を果たせば長居する理由はありません。
貴女とお会いできなくなってしまうのは
心辛いことですが···
貴女のためにも、あの者を連れて
この国を去ることを誓いましょう。」
ハーツの切なそうな眼差しに
ナオコの顔から焦りが消え失せ、再び緩む。
『······もったいなーいっ!!
むちゃくちゃ顔と声好みなのにっ!!
特に声ーーっ!!CV誰っ!?!?
でもロベルトみたいにチョロくなさそうだし
近くに置くにはヤバい男だわ···』
「いいわ!許してあげる!
その代わり、宝取り返したら
その女連れて2度とこの国に来ないでよ?
戦争とか絶対ヤメテ!!
ホント無理だから!!」
「ありがとうございます。
しかし···貴女を安心させてあげたいのですが
私にそこまでの裁量権はありません。
こちらから仕掛けることはなくとも
そちらが動けば動かざるを得ないのです···」
「うぅぅ···!!ロベルトっ!!」
ナオコの苛立ち混じりの呼び声に
ロベルトは不快も表さず、再び密談のため身を寄せる。
「する気あんの?戦争!?
こっちが仕掛けなきゃしないって言ってるけど
仕掛ける気あんのっ?!」
「···いや、···あの···」
「ぐだぐだ言ってないで、さっさと決めてっ!!」
「···しません。戦争を仕掛けません。」
『···なんだこいつ???
頭のスイッチ切れたみたいに突然···
あいつの国が怖すぎて感情死んだ?
まぁいっか!!言質取ったし!!』
「この国からあんたの国に戦争は仕掛けないってさ!
もういいでしょ?!納得した??
戦争なしだかんねっ!!」
「ナオコ様が···
貴女がそう願ってくれるのですが?
このアース国が、我がガイル帝国
そしてガイル人に攻撃を仕掛けないよう
無事を望んでくれるのですか??」
ハーツは跪いたまま
ロベルトから奪い取るように
ナオコの手を自身の両手で包み込み
色気を含んだ上目遣いで見上げ、囁いた。
『お可哀相に···あれは心臓に辛いはずです···』
遠目で見ているクロエは、やっぱり同情した。
「にゃっ!!!!」
『なにすんだこの男っ!!殺す気かっ!!
しんどっ!!この男しんどっっ!!! 』
クロエが心配したとおり
心臓に負担のかかったナオコは、呼吸を整え
ハーツの懇願のような質問に頭を巡らせる。
『戦争に巻き込まれるのは絶対イヤ!
イケメン殺すのも、イケメンに殺されるのもイヤ!
そんな希少な属性持ちじゃないし!!
アース国がガイル帝国に
ちょっかい出さなきゃ問題ないんだから
そりゃ望みもするよっ!!』
「望んでる!望んでるからっ!!
この国に、ガイル帝国とガイル人を
攻撃しないで欲しいって願ってるから!
だから手っっ!!!」
望みどおりの言葉を引き出せたことに
満足したハーツは、ニッコリ微笑み
もう一度ナオコの手の甲にプレゼントとして
口付けを落としてから、そっと離した。
「ナオコ様、貴女の素晴らしい頭脳に
心より感謝申し上げます。
今生の別れに身を引き裂かれる思いですが···
遠い国より、貴女の幸せを祈っております。」
颯爽と立ち上がり、身を翻したハーツは
ナオコの元に向かった時より
遥かに軽やかな足取りで、クロエの元へ戻っていった。
『ふふっ···本当に素晴らしい頭だ···
もっと慎重にならなきゃ、悪い男に食べられちゃうよ?』
誰でも見惚れてしまうような、晴れ晴れとした笑顔で······
ナオコさんお疲れさまでした!
「っ」とか「!」とか多くて疲れました。
もうあんまり出できて欲しくないー!