表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/65

ロベルト・アースside03

幼いクロエへの負担を考慮した公爵は

王城での執務を最低限に抑え

週に2度ほど、クロエを伴い登城した。 


その機会をロベルトが逃すはずはなく

クロエが来る日は、宰相の執務室を訪れ

部屋の片隅でクロエと同じ時を過ごした。


公爵とて、宰相としての全ての執務に

クロエを伴うことなどできるわけがなく

連れて行けぬ時は、クロエ付きとして

侍女についたばかりのマーサが

涙の止まらぬクロエを抱きしめ慰めるのだ。

ロベルトは、ただそれを見守ることしかできなかった。


何度か王城を案内すると誘い

クロエ自身も望んでついてきてくれたが

父の姿が見えなくなると、数歩も進まぬうちに

涙が溢れてしまうのだ。


公爵から聞き、実際目にしたクロエの症状を

可哀想に思う気持ちはもちろんあるが

それを凌ぐ嫉妬心を持ってしまうことに

ロベルトは、罪悪感に苛まれた。


『どうして···私はこういう人間なのだ···』


止まらないはずのクロエの涙を

ただそばにいるだけで止めることができる存在


『私がそうなれたらどんなに···』



公爵がクロエと伴い登城するようになって、2ヶ月ほどが経った。

執務室を訪れるのも、もう当たり前のことになっていた。


「公爵、入ってもいいかな?」


ノックすると、返事より先にドアが開いた。


「ロベルト殿下!ルイス・ジェラートが

「いいよ!他の者がいない時は楽にして?

クロエまでかしこまっちゃうからね?」


そんなことよりも···と、クロエの姿を探す。


『いない?』


当然いるべきクロエの姿が見つからない。


「ジェラート公爵、クロエはどこに?」


「今日は家で過ごして···しまった!

お伝えせずご足労おかけし申し訳ございません!」


「え···?」


つい4日ほど前に会った時も

公爵の姿が見えなくなった瞬間

若草色の瞳から溢れた涙を見たばかり···

一瞬で自分が激昂したことがわかった。


「···なぜクロエを置いてきた!?

貴方が帰るまで彼女は泣き続けるのだぞ?!」


ロベルトのあまりの剣幕に驚きつつ

公爵は慌てて誤解を解き始める。


「ち、違うのです!!

妹がクロエを心配して訪ねてくれたのですが

その息子とクロエは、生まれる前からの仲で

甥と寝食を共にしたことにより

クロエの様子もやっと落ち着いたので

本日より通常通り執務にあたる予定だったのです!」


脳も心臓も五感も全てが止まったのかと思った。

真っ白な頭から、なんとか言葉を絞り出す。


「ク、クロエは···ジェラート公爵が

そばにいなくても泣いていないのか?」


『違うと言ってくれ···』


「はい!

甥がそばにいれば問題ないので

甥には当分公爵邸で過ごしてもらう予定です。

ロベルト殿下には心を砕いていただき

娘も私も感謝の言葉しかありません。

本当にありがとうございました!」


足元の影に身が沈み、心が暗闇に包まれていくが

藻掻くよう、咄嗟の言葉を放つ。


「···ジェラート公爵!

私も、私も公爵邸へ行っていいか?

私は···私はクロエが好きなんだ···

私の婚約者になって欲しいと思っているんだ!」


降って湧いた婚約者の座に、公爵は頭を痛めた。


「ロベルト殿下···

クロエは、私のたった一人の娘です。

手放すことはできません。

婿を迎え、公爵家を継いでもらうつもりです。

ロベルト殿下のお気持ちは有難いのですが···」


旗色の悪さを感じ、早まったかと自省するが

もう引き返すことはできない。


「クロエがっ!

···クロエが私との婚約を望めば!?」


「それは···

···クロエが本心からロベルト殿下の手を取るなら

娘の幸せを願う親として、止める道理などありません。」


「誓う!

クロエが本心から私を選んでくれるよう

王太子という立場ではなく

ロベルトというただの男として

彼女を愛し、彼女を守ることを!!」


「ロベルト殿下のお気持ちは、私の心にしかと留めおきました。

早馬で知らせておきますので

昼食の頃にでも我が家へお越しください。

私は執務がありますので、当主不在の無礼はお許しくださいね?」


娘と同じ歳である、幼い王子の好意を

無下にすることなど、できるはずなかった。


「ありがとうジェラート公爵!」




そして、自身の削れる全ての時間を使い

クロエに会うためだけに公爵邸を訪れ

2年の歳月をかけ、婚約を受け入れてもらった。


クロエという得難い宝を手に入れ

天にも登る気持ちであったことは

もちろん忘れていない···


しかし、霞んでしまったのだ

レプリカではない、本物の宝を前に···


「間違いはないのか?」


「はい!

《黒い瞳》に、この世にはない装い

警備にあたる者に教えられている通りのご令嬢が

庭園に迷い込まれました!」


ーーブルッ!!


ロベルトは震える自分自身を抱きしめた。


『私の、私の生きる時代に

《迷いの愛し子》が現れてくれるなんて!!!』


数年で現れることも、数百年現れないこともある

《迷いの愛し子》と同じ時を過ごす奇跡に

喜びから身も心も打ち震えている。


「すぐ会う!

誰にも接触させず、安全だけは必ず確保しろ!」


走り出したいと疼く足をいさめ

早歩きで運命の人との初対面を急いだ······


自身が思い描いていた《迷いの愛し子》から

大きく遠く外れていた結果に、落胆の思いを持ちながらも

ロベルトは《迷いの愛し子》を愛す呪縛から

逃れることはできなかった···

やっとロベルト終わりましたー!

いい感じのところで終われず

いつもの投稿分より

かなり長くなってしまいました;;あわー


クロエを口説いていた頃と

ナオコとの出会いは

この小説でそこそこ大事な部分っぽいので

本編か別視点か再ロベルトで

書きそうな気がします!

多分!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ