エピソード14
クロエは姿勢を正し、ロベルトとナオコのいる
最奥へと進み出そうとした···
「待って···!」
背後から聞こえたハーツの潜められた声に
クロエは背を向けたまま僅かに頷く。
「ここは私の国ではないし、当事者でもないから
何かあっても、恐らく口を挟むことはできない。
でも安心して?
どうしようもない状況になったら
クロエ嬢の同意がなかったとしても
勝手に安全な場所に攫うから。ね?」
潜められた声のまま、大したことでもないように
あっけらかんと言うハーツに
そのままこくりと頷き、心軽やかに歩み出す。
『ハーツ様とお話ししていると
びっくりすることや気が抜けることばかりだわ···
······本当に優しい人
道化を演じてでも、心の負担を背負ってくれる···』
コツコツと規則正しく鳴り響いた靴音が止まる。
「クロエ・ジェラートが
アース国の光、ロベルト王太子殿下にご挨拶申し上げます。」
クロエは、綺麗なカーテシーで
出会ったあの日と同じように振る舞った。
「発言をお許しいただけますか?」
「あ、あぁ···」
ロベルトの動揺から、彼もあの時のあの出会いを
思い出しているだろうことが容易く想像できた。
「ロベルト王太子殿下の仰る通り
この国の未来を、共に背負うことはできません。
婚約破棄の件、承知いたしました。」
クロエには、怒りも悲しみもなかった。
会場に入る前、すでに心は決まっていたのだ。
『例え、普通ではない状態なのだとしても
約束を反故にされたことは許容できない···』
「ロベルト王太子殿下におかれましては
《迷いの愛し子》様を愛し守られ
いつまでも幸せにお過ごしくださいますよう
この国の末端として、心より願っております。」
嫌味ではない。
ロベルトにとって、最高で最上な結末は
『《迷いの愛し子》を愛し守った国は幸せになりました』と締めくくられる
今でもアース国民に語り継がれている
お伽噺の世界なのだから···
「クロエは···クロエは《迷いの愛し子》を
尊敬していたんじゃなかったのか?
私に嘘をついて婚約者の座を得たのか?!」
普段のロベルトからは想像がつかない
歪んだ形相で責め立てられるが
クロエは喜劇でも観たかのように朗らかに笑う。
「ふふっ···何を仰るのかと思えば···
私の尊敬する《迷いの愛し子》は
初代王妃であられたミキ様だけでございます。
確かにそう申し上げましたでしょ?
それに、私から婚約者の座を欲したことは
ただの一度もございません。
ロベルト王太子殿下が望まれたことです。
お間違いなきように。」
「クロエっ!!
「先ほどから!!
何度も名を呼ばれておりますが
もう婚約者ではないのです。
ジェラート公爵令嬢とお呼びください。
それが貴族社会でのルールです。」
そう···不快だったのだ。
以前と変わらぬ呼び方で、以前とは違う思考を
当たり前のように押し付けてくるこの男が···
「はははっ!公爵令嬢っ!
そのままその立場でいられればそう呼んでみせよう!」
「何を···」
「私、ロベルト・アースが王太子として命ずる!
クロエ・ジェラートの爵位継承権を剥奪し
ジェラート公爵家からも除名とする!」
自らが発した大義名分なき宣言に
言ったそばから後悔が押し寄せてきたが、
暴走した感情を、ロベルト自身も止めようがなかった···
ロベルトのネチネチが続いていて
若干イライラしながら書いてます。
次かその次くらいに
ロベルトのサイドストーリー的なのを
出せたらいいなーと思ってます!